第一話 セキセイインコとオカメインコ、感情のすれ違い
トリの枝道は今日も、空が広い。 木の枝から見上げると、どこまでも青い。 ただし朝だけは、ニワトリの声で始まる。 問答無用で。
トリの枝道について
トリの枝道は、背の高い木々が並ぶ道だ。
枝が空へ向かって幾重にも広がっていて、その間を風が通る。風が来るたびに葉がさわさわと鳴って、木全体が話しているみたいだ。地面は木の根がうねって凸凹しているが、飛べる子たちにはあまり関係ない。
歌ステージがある。大きな枝が平らになった場所で、そこに立つと声がよく響く。カナリアが歌うと全員の目が潤むので、使用する前に申告するきまりになっている。
高さランキングの木もある。どこまで高く飛んで、どの枝に爪あとをつけられるかを競う木だ。コンゴウインコが一位を長い間守っている。印がついている場所は高すぎて本人しか確認できないが、だれも疑わない。
観察ノートの木は、キンカチョウが管理している。木の幹の割れ目にノートがしまってある。今日の出来事、気づいたこと、みんなの様子が細かく記されている。
そして毎朝、夜明けと同時に、ニワトリが鳴く。
ここに暮らすトリは、十一匹だ。
セキセイインコとオカメインコは、枝道でいちばんの仲良しだった。
のはずだった。
セキセイインコは、オーストラリア生まれのインコだ。体が小さくて、鮮やかな色の子が多い。歌いながら話すことがある。テンションが常に高い。朝から全力だ。
オカメインコは、オーストラリア生まれのインコだ。頭のてっぺんに冠羽という長い羽があって、これが感情に合わせて動く。嬉しいとぴんと立つ。怖いと下がる。リラックスすると横に広がる。本人の意思とは無関係に動くので、感情を隠せない。
その朝、ふたりは歌ステージの近くで向き合っていた。
「わたし、昨日のあれ、嬉しかったと思ってたんだけど」とセキセイインコが言った。
「あれって?」
「コンゴウインコが新しい羽の磨き方を教えてくれたやつ。すごいね、ってわたしが言ったら、オカメインコが黙ってたから」
「黙ってたわけじゃない」とオカメインコが言った。
「でも何も言わなかった」
「考えてた」
「考えてたの? なんで?」
「コンゴウインコの話、わたしはあまり興味が持てなくて。どう言おうか考えてたんだ」
セキセイインコは少し黙った。
「黙ってると、嬉しくないのかなって思った」
「嬉しくないわけじゃない。ただ興味が……」
「でも黙ってたら伝わらないよ!」
オカメインコの冠羽がぴんと立った。
「ごめん。でも何でも声に出せないこともある」
「わたしは声に出さないと気持ちが伝わらないと思ってる」
「わかってる。でもわたしは少し考えてから話す方が……」
「考えてる間に話が終わっちゃうじゃない!」
ふたりの声が少し大きくなった。
そこへ、キンカチョウが枝から降りてきた。
キンカチョウは、オーストラリア生まれの小さなトリだ。全身が白黒で、頬に丸いオレンジの模様がある。研究者みたいな気質で、観察日誌をつけている。意見は言わないことが多い。でもときどき、核心を突く。
「記録していいか」とキンカチョウが言った。
「今じゃないよ」とセキセイインコが言った。
「でも大事なことを言ってる気がして」
「大事かどうかはわからない」
「どっちの話もわかる気がする」とキンカチョウは言った。「セキセイインコは声に出さないと不安になる。オカメインコは声に出すまでに時間がいる。どっちも本当のことだ」
ふたりは黙った。
オカメインコの冠羽がゆっくり下がった。怒りではなくなった。困っている感じだ。
「……わたし、声に出すのが遅いのは直せないんだけど」とオカメインコが言った。
「直さなくていいと思う」とキンカチョウが言った。「ただ、考えてるってことを伝えるのはできるんじゃないか。「考えてるから少し待って」とか」
「……それなら言えるかも」
「わたしも待てる」とセキセイインコが言った。「待てないんじゃなくて、不安だっただけだから。ちゃんと待つって言ってくれたら」
オカメインコの冠羽が少しだけ、ぴんと立った。今度は嬉しいときの動きだ。
「……言う。これからは言う」
「うん」
「言えなかったときは、冠羽を見て」
「冠羽で感情がわかるの?」
「だいたいわかる」
セキセイインコはオカメインコの冠羽をじっと見た。
今はゆっくり揺れている。
「今は?」
「少し恥ずかしい」
「なんで」
「キンカチョウに全部見られてたから」
キンカチョウはすでに日誌に記録していた。
「記録していいか」
「もういい」とふたりが同時に言った。




