第七話 ウサギ草原の備蓄祭り
その年の秋、備蓄小屋がついにあふれた。
ナキウサギは、北アメリカや中央アジアの山岳地帯に生きる、ウサギの仲間だ。見た目はウサギより小さく、耳が丸くて短い。冬眠せずに冬を越す。そのために秋になると一生懸命に草を集めて、乾かして、備蓄する。これが本能で、やめられない。集めすぎることが多い。
「あふれた」とナキウサギが言った。
「毎年あふれてる」とネザーランドドワーフが言った。「整理が必要だ」
「そう。でも一匹じゃ無理だ」
「みんなに声をかけよう」
そういうわけで、備蓄祭りが始まった。
みんなで草を運んで、分けて、積む。その間にいろんな話をする。
今年の草はどこがよかった。あそこの草は少し苦い。ジャックラビットが去年「おいしくない」と言ったやつがまだある。
アンゴラは運ぶ途中で一回転んだ。みんなが来た。ついでにその場で休憩になった。
レックスは草の束に鼻を近づけながら「この感触はわりといい」と言った。だれも意味がわからなかった。
ライオンヘッドはたてがみに草が引っかかって、レックスに前足でとってもらった。
フレミッシュジャイアントが大量に運んだので、はかどった。
夕方、整理が終わった。
備蓄小屋に草が美しく積み上がって、在庫ボードが更新された。ナキウサギが満足そうに眺めている。
みんなが草原に集まって、秋の夕空を見ていた。
スマトラ縞ウサギがホーランドロップに言った。
「ねえ、今日なんか楽しかった」
「そう?」
「備蓄の整理って楽しくないかなと思ってたけど」
「みんなといるから楽しいんでしょ」
スマトラ縞ウサギは少し考えた。
「そうかもしれない」
ホーランドロップはたれた耳をぱたぱたさせた。
「うん。たぶんそうだよ」
備蓄祭りが全部終わって、ナキウサギが最後に小屋の中を確認した。
草がきれいに積まれている。在庫ボードも更新した。今年の備蓄は十分だ。
それから、奥のほうに鼻先を伸ばした。
いつもの場所に、一枚の葉っぱがある。
自分では入れていない。でも毎年ある。どこから来たのか、ナキウサギにはわからない。
緑の、きれいな葉っぱだ。
どこかから、だれかが入れているのだ。だれなのかは知らない。でも毎年あるから、だれかがここを知っていて、ここへ来ていることはわかる。
ナキウサギは葉っぱをそっとたどるように鼻先を近づけて、また元の場所に戻した。
来年もあるといい、と思った。
その夜、草原のみんなが空を見上げた。
星が出ていた。
ジャックラビットの大きな耳がぴくりと動いた。
「……また聞こえる。遠くから、歌声が」
「どの方向?」とユキウサギが聞いた。
「あっちのほう」
ジャックラビットが耳をそちらに向けた。
草原からは遠い方角だ。トリの枝道の方向だろうか。
「きれいな声だな」とアンゴラが言った。
「うん」とジャックラビットが言った。
みんながしばらく静かになった。
風が来た。草が揺れた。
遠くから、かすかに、その声が届いた。
その頃、トリの枝道では――
カナリアが枝の上に止まって、夜空を見ながら歌っていた。
だれかに届けようとして歌っているわけじゃない。ただ、夜の空気が気持ちよくて、声が出たくなった。それだけだ。
でもその声は、草原まで届いていた。
カナリアは知らない。
知らないまま、今夜も歌い続けた。




