第五話 スマトラ縞ウサギの縞、ついに証明される
スマトラ縞ウサギは、インドネシアのスマトラ島に生きる野生のウサギだ。世界でほとんど知られていない、非常に珍しい種だ。いちばんの特徴は、縞模様があることだ。茶色の体に、黒い縞が走っている。ウサギに縞模様があるというのは、実はとても珍しいことで、縞模様を持つウサギはこの世界でほぼいない。
ウサギ草原のスマトラ縞ウサギは、自分の縞模様がとても好きだ。
ただ、だれも信じてくれない。
「縞模様がある」とスマトラ縞ウサギが言うたびに、みんなが「うん、模様はあるね」と言う。
「縞だよ」と言うと、「まあ、そう見えなくもないね」と言われる。
「ウサギで縞があるのはすごく珍しいんだよ」と言うと、「そうなんだ」とあいまいな顔をされる。
信じていないわけじゃない。でもみんな、縞がめずらしいということが、実感できない。
ネザーランドドワーフだけが、ちゃんとノートに記録してくれていた。「スマトラ縞ウサギの縞模様:確認済み。縞模様を持つウサギは世界的に非常に珍しい。本物であることに疑いなし」と、きちんと書いてあった。それを鼻先でそっとたどって読んだとき、スマトラ縞ウサギは少し救われた気がした。
その日の午後、ネザーランドドワーフがスマトラ縞ウサギのところへ来た。
いつもより表情が違う。几帳面で落ち着いているネザーランドドワーフが、すこし違う感じがした。
「スマトラ縞ウサギ、ちょっといいか」
「なに?」
「きまり帳を調べていたら、昔の記録が出てきた」
ネザーランドドワーフはノートを開いた。古いページだ。
鼻先でゆっくりページをめくって、一か所で止まった。
文字が少し褪せている。目を細めて追った。
「この国にきまりが作られた頃の記録なんだけど、そこに書いてあった。「ウサギ草原には縞模様のウサギがいる。珍しい模様だが、本物だ」って」
スマトラ縞ウサギは、動かなかった。
「……昔の記録に?」
「うん。つまり、ずっとここに縞模様のウサギがいたってこと。おまえが来る前から、記録が残ってた」
スマトラ縞ウサギは、そのページをじっと見た。
ぼろぼろになった紙に、確かにそう書いてある。
「だから」とネザーランドドワーフが続けた。「縞は本物で、珍しくて、昔からこの草原にいた。それは確かだ。今日から、もっとはっきり言っていい」
スマトラ縞ウサギは、しばらく何も言えなかった。
目がじわっとした。
「……泣くなよ」とネザーランドドワーフが少し困った顔で言った。
「泣いてない」
「目が潤んでる」
「泣いてない!」
フレミッシュジャイアントが遠くから「どうしたの?!」と駆けてきた。
「なんでもない」とネザーランドドワーフが言った。
「でもスマトラ縞ウサギが……」
「なんでもない」
フレミッシュジャイアントは心配そうな顔をしたまま、でもそれ以上は何も言わなかった。
スマトラ縞ウサギは目をそらして、草原を見た。
「……ありがとう」
「記録は正確であるべきだ」とネザーランドドワーフは言った。「だから記録した。それだけだ」
「それだけ、か」
「そう。ただ、正確な記録が誰かの役に立つなら、記録者として嬉しいとは思う」
スマトラ縞ウサギは少し笑った。
その日の夕方、草原のみんなを集めてネザーランドドワーフが言った。
「スマトラ縞ウサギの縞模様について、正式に記録を読み上げる」
みんながぽかんとした顔で集まった。
ネザーランドドワーフは古い記録と自分のノートの記録を、順番に読み上げた。
「以上。縞模様は本物で、珍しくて、昔からここにある。これが事実だ」
だれも何も言わなかった。
しばらくして、アンゴラが言った。
「……きれいな縞だよね」
「うん」とホーランドロップが言った。
「おれは前から本物だと思ってた」とジャックラビットが言った。
「言ってくれればよかったのに」とスマトラ縞ウサギが言った。
「言えばよかった」とジャックラビットが言った。
スマトラ縞ウサギは草原を見渡した。みんながいる。自分の縞模様を見ている。
ずっと気にしていたのに、こんなに普通のことだった。




