第四話 ライオンヘッドの大風の日
その日の朝から、風が強かった。
ウサギ草原は風が通りやすい地形だから、強い日は草がべたんと倒れるくらい吹く。遠くまで草の波が広がって、草原全体が一方向に押されている。空は青いのに、地面だけがざわざわしていた。
ライオンヘッドは、朝から巣穴の入り口に座っていた。
ライオンヘッドは、ベルギーで生まれた品種のウサギだ。頭の周りだけに、ライオンみたいなたてがみ状の長い毛が生えている。もともとは突然変異で生まれた特徴で、その見た目が気に入られて品種として育てられてきた。たてがみが自慢で、毎朝三十分かけて整えている。強風の日は外に出たくない。たてがみが崩れるから。
「……絶対に出ない」
草原を見ながら言った。
草がべたんと倒れている。たてがみが今あの中に入ったら、想像するだけで嫌だ。
「出なくていいんじゃない」とレックスが言った。
レックスは、フランス生まれのウサギだ。ビロードのような短くて密な毛が特徴で、触ると信じられないくらいなめらかだ。この毛並みが自慢で、前足で毛を整えることを好む。触られると体から力が抜けてその場から動けなくなる。
「レックスは平気なの?」
「平気。毛が短いから風でどうにもならない」
「……ずるい」
「たてがみがある分、かっこいいでしょ」
ライオンヘッドは外を見た。風がごうごう吹いている。昨夜三十分かけて整えたたてがみが、今日一日崩れたままになる。
「また整えればいい」とレックスが言った。
「整えるのに三十分かかる」
「毎日やってるじゃないか」
「毎日やってるから大事なんだ!」
レックスは少し考えてから言った。
「……ならやっぱり出なくていいんじゃない」
「でも今日、備蓄小屋の手伝いをナキウサギに頼まれてる」
「代わりに行ってきてやろうか」
ライオンヘッドはレックスを見た。
「本当に?」
「うん。おれは風でどうにもならないから」
「……ありがとう」
レックスが備蓄小屋へ出かけた。風の中を歩いていくレックスの毛は、ほとんど動かない。ビロードの毛は密度が高いから、風に負けない。
ライオンヘッドはそれを、巣穴の入り口から見ていた。
昼になっても風は収まらなかった。
ライオンヘッドは巣穴の中で、たてがみをゆっくり整えながら過ごした。
フレミッシュジャイアントが巣穴の外から顔を出した。
「ライオンヘッド、いる?」
「いる」
「ご飯、持ってきた。出られなそうだから」
ライオンヘッドは少し驚いた。頼んだわけじゃない。でも確かに、今日はまだ何も食べていない。外に出るのが嫌で、後回しにしていた。
「……ありがとう」
「いいよ。風、強いもんね」
差し入れを受け取って、巣穴の中で食べた。温かかった。
風がごうごうと巣穴の外で鳴いていたけど、中は静かだった。
夕方、風がおさまった。
ライオンヘッドは外に出た。草原の空気が洗われたみたいに、澄んでいた。
夕暮れの光が差し込んでいた。
レックスが備蓄小屋から戻ってきた。
「たてがみ、整えようか」とレックスが言った。
「……いいの」
「うん。おれ、触るのは得意だから」
ライオンヘッドはしばらく考えて、頷いた。
レックスがたてがみをゆっくり整えはじめた。ライオンヘッドはじっとしていた。
夕暮れの光がたてがみに当たって、金色に光った。
レックスが前足を止めた。
「きれいだ」
「……そうかな」
「うん。やっぱりかっこいい」
ライオンヘッドは何も言わなかった。
でも、そっぽを向いた。顔を隠すように。




