第七話 猫の路地の詩の発表会
詩の発表会は、シャムが言い出した。
「ロシアンブルーの詩をみんなで聞く会をやろう!」
「わたしは関係ない」
と、ロシアンブルーが言った。
「関係ある! 描いてるでしょ」
「……どうして知ってる」
「みんな知ってる」
ロシアンブルーは黙った。知られていた。ずっと知られていた。
「……なんで今まで言わなかった」
「言ったら変わる気がして」
と、シャムが言った。
珍しく、ちゃんとした理由だった。
ロシアンブルーは少し考えた。発表会というのは怖い。自分の詩を、みんなの前で読まれる。
「……わたしが読まなくていいなら」
「だれかに読んでもらう?」
「……だれか、読んでくれる子がいれば」
スフィンクスが前足を上げた。
全員が驚いた。スフィンクスが自分から何かに手を挙げるとは思っていなかったから。
「わたしが読む」
と、スフィンクスが言った。
ロシアンブルーはスフィンクスを見た。
「……いいの?」
「読んでみたかった。声に出してみたかった」
ロシアンブルーは、少しうなずいた。
発表会は路地の小さな広場で行われた。
夕方の、日差しがやわらかくなった時間だ。
石畳の上に猫たちが集まって、スフィンクスが壁の前に立った。
一度深く息を吸った。それから、詩を読んだ。
「よるに そとに いると
ほしが みえる
おなじ ほしを
だれかも みている かもしれない」
だれも声を出さなかった。
シャムが珍しく黙っていた。三毛猫が目を細めた。メインクーンがしっぽをゆっくり揺らした。ラグドールが半分眠りながらも聞いていた。スコティッシュフォールドがいつものポーズで、じっとしていた。ノルウェジアンだけ木の上にいたが、声は届く。
スフィンクスはもう一篇読んだ。
「かわっている といわれることは
ちがう ということだ
ちがうことは
わるいことじゃない
たぶん」
「たぶん、がいい」
と、ベンガルが言った。
「うん」
と、シンガプーラが肩の上から言った。
「正直でしょ」
と、シャムが言った。
それからみんなが、すこしずつ感想を言った。長い感想じゃなくて、一言か二言ずつ。
ロシアンブルーは広場の端で、それを聞いていた。
顔は平静を保っていた。でも、そっとそっぽを向いた。それから毛づくろいを始めた。
三毛猫がロシアンブルーのそばに来て、ならんで石畳に座った。
何も言わなかった。ただ、そこにいた。
ロシアンブルーも何も言わなかった。ただ、三毛猫がそこにいることが、わかった。
夜になって、猫たちはそれぞれの場所に落ち着いた。
ロシアンブルーは路地の奥の石畳の上に座っていた。
空を見上げた。星が出ていた。
さっき声に出して読まれた自分の詩の言葉が、頭の中でもう一度鳴った。
「おなじ ほしを だれかも みている かもしれない」
犬の丘からも、この星は見えているだろうか。ウサギ草原からも。トリの枝道からも。サルの森からも。
みんな、同じ空の下にいる。
ロシアンブルーは少しだけ、そういうことを考えた。声には出さなかった。でも、考えた。
路地の奥の詩の壁で、今夜刻んだ詩がかすかに揺れた気がした。
風が来た。やわらかい、夜の風だった。
その頃、ウサギ草原では――
ネザーランドドワーフが備蓄小屋のそばで目を細めて空を見ていた。
今日の記録の最後に、一行だけ付け加えた。
「備蓄小屋の地下から、今日もかすかに水の音がした。だれかが、下にいるかもしれない」
それから夜空を見た。
星が出ていた。




