表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なかよしの設計図は作成中です。  作者: 鍵しっぽハンター
第二章 猫の路地のひみつ ―― 素直じゃないけど、ちゃんと見てる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/50

第六話 ロシアンブルーの詩が誰かに届いた日

路地の奥の壁に詩が増えるようになって、どのくらい経つだろう。


だれも正確には知らない。気づいたらあった、という感じだ。一週間に一度くらい、新しい詩が増える。古いものは消えずに残っていて、壁がだんだん詩で埋まってきている。


だれが描いているか、みんなうすうす知っていた。


細い字の形と、詩の雰囲気が、ロシアンブルーの感じがした。


でも「ロシアンブルーが描いてる?」と口にした子は、なんとなくいなかった。言ってしまうと何かが変わる気がして、みんな黙っていた。


その日の夕方、スフィンクスは路地の奥の壁の前に立っていた。


いつもより長く、詩を見ていた。


「よるに そとに いると

 ほしが みえる

 おなじ ほしを

 だれかも みている かもしれない」


昨日の夜、スフィンクスはこの詩を読んで、空を見上げた。星があった。


その詩の横に、今日あたらしい詩が増えていた。


鼻を近づけて、目を細めて、一文字ずつ追った。


「かわっている といわれることは

 ちがう ということだ

 ちがうことは

 わるいことじゃない

 たぶん」


「たぶん」という最後の一言が、なんとなくよかった。


断言しないところが、正直な感じがした。書いた子も、少し迷いながら描いたのかもしれない。


スフィンクスは、しばらく壁の前に立っていた。


それから、小さな声で言った。


「……ありがとう」


だれも近くにいなかった。


でも、少し先の路地の角で、ロシアンブルーが立ち止まっていた。




ロシアンブルーは、ロシア生まれの猫だ。灰みがかった青みがかった独特の毛色を持ち、緑がかった目が静かだ。知らない子と話すのが少し苦手で、じっと観察していることが多い。詩を描くのが好きで、路地の奥の壁にこっそり残している。だれかが読んでいる気がするけど、だれなのかは知らない。知りたいような、知らなくていいような、そういう気持ちがある。




スフィンクスの声が、かすかに聞こえた。


聞こえてしまった。


詩を読んでくれた子がいた。声をかけてくれた子がいた。自分に向かって言ってくれた言葉かどうかはわからない。でも、あの詩を描いたのはロシアンブルーだから、ロシアンブルーに届いた。


胸のあたりが、あたたかかった。


スフィンクスが立ち去る気配がして、ロシアンブルーはそっと路地の角から鼻先を出した。


スフィンクスの後ろ姿が、路地の向こうへ消えていくところだった。


声をかけようとした。


「す、」


出なかった。


ロシアンブルーは声をかけるのが苦手だ。知らない子はもちろん、知っている子にも、自分から声をかけるのが難しい。


「……また詩に描く」


小さく言った。だれも聞いていなかった。


でもその夜、ロシアンブルーは壁の前に来て、爪の先でそっと新しい詩を刻んだ。


「ありがとう といわれると

 どこかが あたたかくなる

 ことばは とどくんだな

 おそるおそる でも」


翌朝、壁を見たスフィンクスは、しばらくその詩の前に立っていた。


それから、


「ロシアンブルー」


と、声に出した。


もちろんロシアンブルーはいない。でも名前を呼びたかった。


それだけのことだ。それで十分だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ