第四話 メインクーンと虫の大事件
昼の日向ぼっこデッキに、メインクーンが伸びていた。
ふさふさした長い毛が日差しに当たって、温かい。目が細くなる。眠りかける。
そのとき、鼻先に何かが降りてきた。
ちいさな羽のある虫だ。
「っ、っ、っっ!!」
メインクーンが飛び起きた。
メインクーンは、アメリカ生まれの大型猫だ。家猫の中でいちばん大きい種類のひとつで、体重が九キログラムを超えることもある。ふさふさした長い毛と大きな足、ふわふわのしっぽが特徴だ。大きいのに身軽で、木登りもできる。ただし虫が、ものすごく苦手だ。本人は認めたくない。大きいし、強そうだし、虫が怖いのはなんとなく面目がない。でも見ると体が固まる。
デッキから転がり落ちて、路地を走った。
「虫! 虫! だめ! だめだめ!!」
「どうした」
と、スコティッシュフォールドが言った。
「虫! デッキに! 小さいやつ! 羽のある!!」
スコティッシュフォールドはゆっくり立ち上がった。
スコティッシュフォールドは、スコットランド生まれの猫だ。耳がぺたんと頭に折れていて、丸い顔に丸い目で、全体的にまるい。よく後ろ足をまっすぐ前に伸ばした独特のポーズで座る。哲学者みたいな雰囲気がある。怒っている子の隣に黙って座るだけで、なぜか場が和む。
デッキのほうへゆっくり歩いていった。
虫を見た。
虫はそのまま飛んでいった。
「いなくなった」
「ほんと?!」
と、メインクーンが路地の角から鼻先だけ出した。
「うん」
「……確認してくれる?」
スコティッシュフォールドはデッキをゆっくり一周した。虫はいない。
「いない」
「ありがとう……」
メインクーンはおずおずとデッキに戻った。また伸びた。でも今度は目をしっかり開けている。
「大きいのに虫が苦手なんだね」
と、シンガプーラが通りがかりに言った。
「大きさは関係ない」
「そうかな。おれはあんなに大きかったら虫も怖くないと思う」
「関係ない」
「メインクーンが怖いなら、おれが怖くてもしかたないな」
「そういうことを言いたかったわけじゃないんだが」
ベンガルがシンガプーラを肩に乗せたまま石畳を通りかかって、デッキをちらりと見た。
「メインクーンが虫で逃げた?」
「避難した」
「逃げたんでしょ」
と、シンガプーラが肩の上から言った。
「避難だ」
「どっちでもいいじゃない」
と、ラグドールがのんびり言った。
全員がラグドールを見た。石畳の上で横になって、目が半分閉じている。さっきからずっとそこにいたが、みんな気づいていなかった。
「虫がいなくなったんだから、もう終わった話でしょ」
メインクーンは少し黙った。
「……そうだな」
「デッキ、戻るなら半分あけとく」
「……ありがとう」
メインクーンとラグドールが日向ぼっこデッキに並んで横になった。メインクーンの方が三倍は大きいが、ラグドールは全く気にしていない。
日差しが、気持ちよかった。虫は、戻ってこなかった。




