第4話 チキントマトカレー 1
ちょっと前の依頼に、遺跡探索があったんだけど、先に占拠した盗賊団ラウムの差し金で、歴史の解明を妨害する魔族側が、石盤にゴブリン無限湧き召喚のトラップ魔術を仕込んでるの。
遺跡もトラップだらけだし、普通なら、石盤を持ち帰れない。
わたしは解除して持ち帰った。
で、気がついたわけ。
この石盤を遺跡から持ち出して、細い吊り橋を渡ればいいんじゃない?
そしたらゴブリンは、無限に一体ずつ橋を渡って来るよね。
そこを。
「とう!」
「たあ!!」
わたしのハンマーとラゴゥの鞘がゴブリンのボディーに攻め込む。
「きええーっ!!!」
エスメラルダのハンマーが、トドメ。
ゴブリンの頭を陥没させた。
一体ずつ、チマチマ削って、経験値稼ぎだ。
地道に昼までやって、わたしはチップと交代。
お弁当箱開いて、のんびり休憩だ。
「魔族のおかげでしばらく経験値に困らないね〜!」
チップ、尋ねた。
「ドロップする宝石類もザックザクだし、俺はいいんだけどよ。おまい、レニ=アリアさんとの約束やエスメラルダの急ぎの用事、忘れてんじゃね?」
わたし、慌てて立ち上がった。
「そうだった!のんびりしてられない!レニさん待ってるし、エスメラルダの件に関しては国中が王位継承者が現れたの、竜飛んでった日にわかってるのに、まだ王都は空っぽ……」
ラゴゥが笑った。
「まぁ、でも気持ちはわかるよ。経験値の穴場だもんな。」
エスメラルダも言った。
「あたしの次男坊の村までは、この辺からちょっとだから、夕方まではみっちり経験値を稼いでもいいんじゃないかね。次男坊はいきなり押しかけたところで、動じるたまじゃなし。長女が養われてるんだから、食材が何も無いことは無いだろうさ。」
「そっかぁー!じゃあ夕方まで稼いじゃおっかー!!」
夕暮れ、わたし達パーティーは小走りでラピ=ハト村に入って行った。
村の人は、どんどんお家に帰っちゃう。
「お店まだ開いてるかな!?」
「なんだか、お店閉まるの早そうだな……チップ、バザー行ってきて。俺はクロウと食材買いに行く。ラビはエスメラルダとニャビ連れて次男坊さんちで説明して。」
「ラビの説明で大丈夫かよ。」
「任せてよ!これでも旅の吟遊詩人よ、歌って説明くらいはできる!!」
「…………」
何よこの沈黙は。
「ラビ、俺と代わろう。俺がエスメラルダの次男坊さんに説明するから、ラビはクロウと食材買いに行って。」
「なんでよー!わたしだって後々考えたのよ、竜の旅立ちとエスメラルダ王女の歌をー!!」
村のお爺さん、肩を叩いて、わたし達を引き止めた。
「冒険者さん。夕暮れは戸締りして、外には出なさんな。タチの悪い霧が来るぞ。」
そうは言っても、晴天だったし、今も曇る気配すらない。
「ありがとうお爺さん。急いで買い出し行って室内に帰るね。」
ニャビが、俯いてボソボソ呟いた。
「どした?ニャビ」
「らめ……にゃあのそあに、いて……」
ニャビがフラリと倒れた。
「ニャビ!!」
ラゴゥがニャビを抱えあげた。
「すごい熱だ。次男坊さんのうちのベッド借りて休ませよう。」
エスメラルダが言った。
「なんだか様子がおかしいね。村人だって異様だ。ラビや、一旦次男坊のうちに行こう!」
「ううん。すぐ戻るし、ニャビが食べれるものも買わなきゃ!行ってくるよ!」
わたしとクロウが歩き出してから、霧が出てきた。
「なんだか、お爺さんの天気予報当たりそうだね、クロウ。」
クロウを見たら、すごく厳しい顔つきになってた。
「どうしたの?」
「……おい。霧を吸うな。」
わたし、お肉屋さんがお肉を置き去りにしていなくなってるのを見た。
「クロウー豚バラブロックだよー!美味しそうだねー!でも、支払いどうしたらいいんだろう。お肉買いたい、美味しい……でもわたし達も、美味しい……わたし達が美味しい。」
食べてもらわなきゃ。
行かなきゃわたし。
わたし達は美味しいんだから。
「チッ……文句は後にしろよ……!」
クロウがわたしの鳩尾に、拳を叩き込む。
わたしは、今日のお昼のお弁当まで、ゲーゲー吐いちゃった。
「クロウ、何すんのよ!!いや、違う、わたしだ……おかしくなって。この霧?」
「いいか?霧を吸うな」
わたしは咄嗟にマントで口と鼻を覆った。
わたし達の周りは霧に包まれちゃって、もうクロウさえ見失いそうで、わたしはクロウのマントの先っちょと、わたしのマントの先っちょを、ぎっちり結んでおいた。
「これでよし!」
「身動き制限すな足でまとい。」
「クロウまでいなくなったら完全に死亡フラグでしょうがー!!」
「俺が戦える態勢の方が、お前は圧倒的に生き残るぞ?」
「わかってるけど仕方ないでしょ。Lv90盗賊とはぐれた時の吟遊詩人の絶望がわかる?」
「ったく。急に怯みやがって。」
「……ね、やっぱりこれ、魔族の仕業?」
「だろうよ。恐らく今日まで村の人間で食いつないできたんだろうさ。」
「村を、出た方がいいのかな。お爺さんがヒントだよ。家の中は安全っていうルールなんじゃない?」
クロウ、野生の勘なのか、歩いてみて建物の端に出くわした。
地面を触る。
「最初のジジイは間違ってねぇな。ラビ、お前の言う通り家の外側に魔術障壁がみられる……規則性のある魔族か、或いは先に立ち寄った僧侶や魔術師の技か」
わたしは片手で目を擦った。
間違いなく向こうにお年寄りと子供達がいる……
でも、前科あるし。
「クロウ?わたしには、あっちの向こうにお年寄りと子供達が見えるよ。わたしに手を振ってるの。でもさ、なんでこんな霧が濃いのに、向こうはクリアに見えてるわけ?」
クロウ、あっちの向こうをみて、目を見開いた。
「……お前にはそんなに大勢見えてんのか。幻術の類だ、俺たちに庇護対象を見せておびき寄せたいのさ。だが、あえて乗るか。近道だ」
「えぇ!?わたし行きたくないよ!!罠な
んでしょ、なんで乗るのよ!?」
「と言われてもな……俺が先手をとらねぇと死ぬのを待つばかりだぜ?」
「なら待って!!縛り方変える!今のままじゃ引きずられて犠牲になる!!」
わたし、クロウのマントの縛りを外して、自分のマントを犠牲に切って、クロウの手首とわたしの手首、足首と足首で結んだ。
「よーし、クロウは左手地面につけてー!せーのっ」
二人組体操!
「扇っ!!」
よし!シンクロ率は高い、一心同体!!
クロウ、起き上がってからわたしの頭に梅干しグリグリしてきた。
「痛い痛たた、ごめんて!」
「おめぇは状況がわかってんのか?何やらせやがる、つーかだいたい扇はまだ棚に上げてやってもいいがな。戦闘時に俺とお前がピッタリくっついててどうする?」
「わたしごと回避してね♡」
「盾にしていいか?」
「そんなー!仲間でしょ、一緒に会心の一撃を繰り出そうよ!!」
クロウ、深い深いため息。
「動くな。軽くなれ。走れるか試す」
「軽くはなれないなぁ……」
クロウ、やってみたらそこそこ速く走れるじゃないの!
ただ、わたしの関節がめちゃくちゃ痛い!
クロウほど身長無いし、手足短いからかなぁ!
「ウッグゥ!!アイタタタ!!オフェ!!」
クロウは多分、何とかならんのか?この奇声は。ぐらい思っているが、敵は魔族なだけあって、なんとか神経集中保ってる。
クロウが走ってくと、幻術ゾーン入った!
なんだか、よく見ると、ご老人も子供達も、擬似的な笑顔が張りついてるだけ。
魔族から見たら、人間の笑顔ってもしかして理解出来ないのかしら。
逆に、理解しちゃうと、レニさんみたいに人間食べれなくなるのかなぁ……。
クロウはたった一人、小さな女の子の首を、迷わずに締め上げた。
「えっ?ええええ!?やめなさいよ人殺し!」
わたしの頭突きでクロウが揺らいだ。
瞬間、木の根みたいな物が伸びてきて、わたしに襲いかかる。
「うわあああ!!」
クロウ、わたしの手首と繋がった腕で、木の根を斬り払った。
爪だ。クロウの爪が刃物みたいに飛び出してる。
続く木の根は、クロウが女の子を締め上げると、怯んで止まった。
「その女の子が、魔族なの……?」
「魔術のコアってヤツだ。幻術を解くぞ。」
クロウは女の子の心臓抜き取った!!
わたしの手首ごと、どわわ〜!!
でも、辺り一面の霧が晴れて、そこは村の御神木、この木の根を魔術で使っていたのね。
クロウの握ってた心臓は、魔術のスクロールだった。
そうよね。魔族だって霧も幻術も全部オリジナルじゃない。
それで、本体は、御神木のウロの中で、もう腐った人間の腕をかじってる。
下半身と上半身が、もうほとんど繋がっていなくて、いくら人間をかじろうが、回復の見込みも無い。
小さな男の子の魔族だ。
「ねぇ。この子、もう意識無いよ。」
「だろうな。だが、殺す。」
「殺す以外の方法、無いのよね。本当に治療しても治らない?人を襲うかな。」
「ほっといてもどの道死ぬがな。元々手負いでこの田舎まで逃げてきて、先に霧と幻術を仕込んだんだろうが……人を何人食ったかは知れねぇ」
魔族の子は、死体の腕とわたしの見分けが、今やっとついたみたいで、手を伸ばして泣きながら懇願した。
「指、ちょうだい。お願い、死んじゃう」
「でも……きっと、指食べても、貴方治らないよ……?」
その子は直腸だってもうちぎれちゃってる。
「ラビ。同情するなら殺してやれ。」
「死にたくない。死にたくない……」
なんていうかさ。
きっと、巡り合わせもあるのよ。
わたし、片手を近づけた。
「守ってあげる。食べちゃダメよ。このクロウは一流のプリーストだから、助けてあげるからね。」
「馬鹿」
「この子は今助けたら、どこかで人を襲うんでしょ。でも、きっと死に場所はここじゃない。わたしがそうはさせない。冒険者に手出しして死ぬんなら自業自得だって諦める。村人に手出しして蔓延ってたら、わたしが棍棒握って倒しに行くよ。でも、一度くらいのチャンスはあげてよ。クロウだって恩人に助けられたから今があるんでしょ?」
クロウはわたしと魔族の子を交互に見て、わたしの決意をさとり、座りこみ、術式を編んだ。
「魔族のガキがどこで人殺そうが知ったこっちゃねえが……お前の守りたいものと生命線が繋がった。お前の寿命を一年分こいつに分ける」
「うぉぉ……そんな秘術があったのね?ほんとだ、お腹が再生してく……これ、直腸出過ぎ!ちょっとわたし、傷口縫うね!ごめんね、痛いよー!!」
「そうだな。直腸しまえ。内部で位置は治してやる、絡まるなよ。」
「うっ、うっ……」
わたし達の渾身の治療、わたしがお腹縫い合わせて、クロウの秘術が終わったあたり。
魔族の子、転移して消えた。
「あっ……」
「お別れなんざ期待するな。こちらに危害をくわえなかっただけマシだ」
「そうだね……クロウ、よく協力してくれたよね。わたしもヒヤッとしたのよ、指をせがまれた時は」
わたし、ガックリ倒れて、クロウがわたしを支えきれずに尻もちをついた。
「いてぇ!おい、しっかりしやがれ肝っ玉!!」
「誰が肝っ玉女将だ……」
「クロウー!ラビー!!」
ラゴゥの呼び声を聞いて、ついに意識がシャットアウトした。
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