第4話 チキントマトカレー 2
目が覚めた時、エスメラルダの次男坊さんちのベッドで、隣でニャビがぐうぐういびきかいて寝てて、チップが冷やしタオルを取り替えてるところだった。次男坊さんちの黒いワンコ、尻尾を振り続ける。
わたしは起き上がって尋ねた。
「なんか、ご飯の匂いしない?お腹減った……」
「寿命を吸い取られたのに、第一声がご飯だぁ?」
「だって仕方なしとはいえ吐いたのよ。それにわたしにしては激務だったんだからね。」
「まぁなぁ。俺たちが村の存亡に関わるのは初めてだしなぁ。よーやったよ、おまい。」
チップが文句言わずに冷やしタオルをあててくれた。
「チップは大丈夫だった?バザー行ったでしょ。」
「俺ぁ盗賊だぜ?霧が出て幻見えた辺りで、自分の足跡辿って帰ったわ。」
そっかァ。
わたしがいなければ、クロウも自由だったんだよなぁ。
「そういえば村の人、怒ってる?クロウはどこ行ったのかな。」
「うんにゃ。村人は怒ってねぇけど、兄貴は今この村の教会でしぼられてる。冒険者組合は俺たちが村を救助したって庇っちゃいるが、教会的には魔族の手助けはやばかったんじゃねーの?」
「そんな!!わたしが悪いのに。クロウ、ちゃんとわたしのせいにしなかったの?」
「クロウの兄貴は一人前の男でぃ。男は責任を誰かに擦り付けたりはしねぇの。」
チップ、ボヤいた。
「……クロウの兄貴は秘術の話、したか?」
「え?あの技?使ってるのは見たけど。」
「クロウの兄貴にゃ、死んだ親友がいてさ。その親友の残した薄命な娘を、兄貴はたとえ誰を殺してでも、生かしたかったんだ。」
クロウにも、そんなに守りたい人がいたんだ。
「でも、どれだけ盗賊団で探し回ってても、娘を助ける方法は無くてさ。そこに、旅の僧侶が立ち寄った。」
「クロウが僧侶になったきっかけの人?」
「そ。その僧侶は盗賊団にも怯まず、分け隔てなく奇跡を起こした。兄貴の寿命を娘に分け与える能力で、娘を救って、その理由が神のお導きでしかなくてよ。だからこそクロウの兄貴の人生観を変えたんだろな。」
「……その秘術はなんで今クロウが?」
「修行して受け継いだんだって。その秘術を使ったってことは、お前が魔族の子を守る意思が何か琴線に触れたのかもしんねぇよ。」
「そっか……守りたいもののために、クロウは命をわけたのね。魔族の子も酷い有様だったんだよ。クロウも案外、助けたかったのかもしれないね。」
「いんや!それはねぇな!魔族に割り切りはついてるからあの人。あくまで、おめぇの為に力を貸したんだぜ。」
「そうかな〜。どうかな〜。」
割とクロウいい奴なんじゃないのよ。なんで今まで話してくれなかったのかしら。まぁ、お酒を飲む男性陣と違って、わたしは早くに寝ちゃうからかなぁ。
お酒の日はわたしが早寝しないと、アルコールの入ったエスメラルダが朝5時くらいから頻繁にトイレ通いだし、付き添いだからしゃあないな。
エスメラルダが部屋を訪ねた。
「ラビ!チップや!クロウが帰ってきた!!」
「今いくー!!」
玄関でクロウ、ブツブツ聖典を暗唱していた。
冒険者組合のあのハント様が付き添っていた。
「あ、ハントさん!クロウに付き添ってくれたんですか!」
「お久しぶりですラビ様、チップ様。せっかくの再会ですが、冒険者組合がクロウ様を庇いきれず大変申し訳ない結果をお知らせに参りました。」
え。まさか、クロウの僧侶資格剥奪?
「クロウ様は三日後、僧侶試験の再受験をお受けになります。教会側は頭の剃髪までも要求しましたが、そればかりは冒険者組合で阻止致しました。受験合格後は、Lv1からの再スタートになりますが、今までの治療魔法は扱えます。」
「うわ〜ッ!!クロウ、ごめんね!!」
教会、厳しすぎない!?
「クソが……別に神の道外れた訳でも無し。逆に胴体分断されたガキを見て僧侶が素通りすんのはどぅなんだ?」
ラゴゥとわたし、ブンブン頷いた。
「ほんと、そうだよ!!」
「魔族でもさ、俺はラビとクロウの判断正しかったと思うよ。一回きりでもチャンスがあっていいはずだ、人道的にもね。今の教会は、魔王軍と戦い過ぎて、ピリピリしてるんじゃないか?」
チップがラゴゥをつつく。
「おい、バカモン。これ以上クロウの兄貴を感化すな!お前らがそんなじゃ、兄貴ゆく先々でLv1になっちまうよ。」
エスメラルダが片眉を釣り上げた。
「なんだい、チップ。クロウが変わっちまうのが嫌か?優しいクロウもいいじゃないか。」
「ぐへへ。そりゃあ兄貴は優しくてもかっけぇよ!けどよ、俺がしっかりしなきゃ、兄貴のLvが守られねぇだろ?」
ニャビ、起きて来て、ハントさんに寄って行った。
「くろ、わりゅいことしたの?」
「いいえ。ニャビ様、今日はクロウさんが、村を救いましたよ。」
「くろ!きりのまほう、やっつけたのらっ!?」
「そうだぞニャビ。クロウ頑張ったんだ。」
ニャビは最初から探知してたんだな。魔力に当てられて、倒れちゃったのか。
「とにかく、貴方がたはラピ=ハト村を救助しました。冒険者組合から報酬を贈らせていただきます。」
どあっ!!
金貨袋二つも!!
「やったぁー!」
「宴だー!!」
「やかましい。こちとら受験勉強だ。」
奥の部屋から、エスメラルダの次男坊さん、顔を出した。
「皆、話は終わったんですか?」
「ジェダイト。カイヤはどうなんだい?」
ジェダイトさん、苦笑いだ。
「昼飯も食べてないから、明日には部屋から出て来るでしょ。母さん達、何か作ろうか?しばらくはスタッフ休みだから、部屋も好きに使って。」
蜂蜜農家って普段はスタッフと皆で働いてるんだね。わたしは、外の蜂は怖いけど、ジェダイトさんちの部屋は大好きだ。
「ジェダイトさん、俺たちが作るから、座っててください。クロウ、レシピ本貸して。」
「おう」
エスメラルダ、言った。
「カレーとかどうかね。明日でも食べれるものなら、明日カイヤだって食べれるんだ。」
エスメラルダ……お母さんだね。
カイヤ=ナイトさんはエスメラルダの一人娘。
今は引きこもりのニート暮らしだけど、母の代わりにジェダイトさんのことを育児しきったお姉さんだ。
ラゴゥは賛同した。
「そうしよっか。受験勉強のクロウにも栄養つくし、明日の昼にでも、カイヤさんが山盛り食べれるくらい、多めに作ろう。」
「にゃあ、かえーだーいすきらよ!!」
ジェダイトさんちの黒いわんちゃん、カレーが嬉しいのか、尻尾フリフリ。
「お前もカレー食べるの?玉ねぎ避けてあげよっか。」
ジェダイトさんが撫でてる。
「お前んちの犬、懐っこいねぇ。」
「カイヤ姉ちゃんがなんでも連れて来ちゃうからなぁ。懐っこいのは、この子の性格じゃないの?」
わたし達、ヨーグルトでお肉を揉み込む。
チップが器用なナイフさばきで、玉ねぎをタントン、みじん切りしている。
「上手いじゃない!どの辺が料理下手なわけ?」
「俺ぁ別に料理出来んぜ?」
「えぇ〜じゃあなんで今までやらなかったのよ!?」
「うるせぇやい。皆でやるから参加してんだろーが。」
ラゴゥがわたしにトマト缶を渡した。
「まあまあ。はい、トマト缶の水切りやろっか。」
チキントマトカレー (レシピ考案/猫芦みぃ)
(4人分)
鶏肉(手羽元)16本
プレーンヨーグルト(低糖でも可)400g
水煮カットトマト缶400g(汁は捨てる)2缶
にんにくすりおろし 大さじ1(少なめ)
しょうがすりおろし 大さじ1(少なめ)
玉葱(みじん切り)2個
鷹の爪2~4本(辛いの苦手なら2本)
バター大さじ3(40g程度)
カレー粉大さじ4塩小さじ2(おおめ)
ウスターソース大さじ2
水 1200ml
下準備
ボウルに鶏肉とヨーグルトを入れ、全体に揉みこんで3時間から半日ほど冷蔵庫で漬け込んでおく。
玉ねぎ2つをみじん切りにしておくと楽。
できるだけ大きめの鍋にバター40gを溶かし、鷹の爪2つをいれ炒める。
少し炒めたら、すりおろしにんにく大さじ1(少なめ)とすりおろししょうが大さじ1(少なめ)を入れ、焦がさないように気をつけながら香りがたつまで炒める。
香りがたったら玉ねぎ2個のみじん切りを入れ、薄い飴色になるまで炒める。
飴色になったらカレー粉大さじ4を入れ、粉っぽさがなくなるまでしっかり炒める。
カットトマト缶をザルにあげ余分な水分を切ったら鍋に入れ、水気が少し飛ぶまで炒める。(多少ドロドロになるまででOK)
下準備しておいた鶏肉をヨーグルトごと全て入れ、ざっと全体を混ぜ炒める。
少し炒めたら、水1200mlと塩小さじ2をいれ沸騰させ、弱火で1時間ほど煮込む。(50分ほどでも大丈夫)
最後にウスターソース大さじ2を入れ、ひと煮立ちさせたら完成。
(サラサラすぎる場合は翌日に食べるといいかも)
いざ、いただきますして、スプーンを口に運ぶと、爽やかな酸味!さっぱりしたトマト味のカレーだ!!
「美味しいー!これ、わたしでもおかわり入っちゃうかも!!」
「おいしいー!にゃあも、おかありしたいよ!!」
珍しくチップとクロウはお酒飲まない。
「このホロホロ手羽元、漬けただけあって酸味がうまぁ!」
「神は言った、御心は子鹿と共に。森をそよぐ風のように、神の眼差しは行き届くだろう……もぐ」
クロウは聖典の勉強しながら食べてる。
「チキンカレーのスープが食欲をそそってご飯が進むし、じっくり煮込まれた手羽元がスプーンでもお肉が取れて、たまらなくジューシーだねぇ。」
ラゴゥがまたご飯のおひつ抱えて回った。
「はーい、皆おかわりどうぞー。チキンは1人4本までだよー。」
ラゴゥ、なんだか女将さんみたいね。
ジェダイトさんちの黒いわんちゃん、ご飯食べてからもわたしの後についてきた。
わたしはそろそろシャワー浴びたいけど、わんちゃんも洗っていいのかしら。
「わんちゃん、わたしからはご飯出ないよ?」
わんちゃんはくぅーん、と鳴いた。尻尾ふりふり。
「お風呂で洗っちゃうぞ?」
わんちゃん、きゅーん、と、伏せ目になる。お風呂は嫌みたいだ。
まぁいいや。わんちゃんいても同じベッドで毛並み味わえるし。
借りた部屋で、今日吐いちゃった時の衣服をまとめていたら、どこかから声。
「お姉ちゃん」
「……ありゃ。わたし、空耳かな。」
なんとなく、まだ心配してたのかな。あの子のことを。
「お姉ちゃん、僕だよ。魔族!命を助けて貰ったでしょ。」
わたしはわんちゃんに振り向いた。
「カレー美味しかったね。そして、ようやくはじめましてだ。」
わんちゃんだ。わんちゃんが魔族の子なんだ。
「てっきり、ジェダイトさんちのわんちゃんだと思ってたわ。お腹の怪我は?もういいの?」
「お腹?カレー食べれるくらいには快調だよ。皆犬にはノーガードだね。僕、転移して魔王軍に冒険者の付き添い申請に行ってきたの。下っ端でも、申請通らなきゃ挨拶出来ない仕組みだから、いきなり消えてごめんね。」
「冒険者の付き添い申請……?魔王軍、そういうの許可してるの?」
「魔王軍はクリーンだからね。まぁ、僕達魔族は、魔術の根源みたいな存在だからさ。人間に貸し借りがあると、契約で縛られちゃったりして、僕の加護した魔術で魔王軍に敵対されちゃったりもするんだ。そういう時に、申請済なら、魔王軍と僕は対立しないことになる。ね?身内争いしなくて済むシステムだよ。」
「へーっ!人間社会より物わかりのいい……でも、わたし魔術師じゃないよ。契約もしてないし。」
「うん、だから建前。本音は、助けてくれた人だから、気まぐれに守護しよっかなって。心配しないで、一年は人を襲わなくてもいいくらい、お姉ちゃんから生命力をもらってるから。」
「うーん……うちの内情、魔王軍に話さないでね?」
「僕みたいな下っ端はそもそも意見求められないから大丈夫。」
「お名前、なんてゆうの?」
「ほんとの名前は無くしちゃったの。親がいない魔族にとって、大事な識別番号みたいなものなんだけど、あまりにも弱ると失ってしまうものなんだ。名前は、力だからね。だからお姉ちゃんが好きに名前つけてよ。」
「うーん。あ、だめだ。昨日読んだギャグノベルのモッコリ=ハイレグーの冒険しか浮かばないや。」
「断固拒否ね。」
「犬の悪魔……グラシャラボラス?」
「だめ!幹部に同じ名前の魔族がいる!!」
「じゃあ、モコちゃん?」
「それ、モッコリ=ハイレグーじゃないの?下ネタ断固お断りだよ?」
「モコモコフワフワのモコちゃんで、いいじゃない。」
「ねぇ、それ、幼名だよね。大人バージョンも考えておいてね。今はモコちゃんでもいいけどさ。」
大人バージョンか……
モッコリ=ハイレグーじゃない?大人ならさ。
こうして、新たな仲間がくわわった。
モコちゃん。
クラスは夢幻師。魅了や幻術を得意とする、魔族にしか無い魔術師のようなもの、らしい。
まぁ、確かに魅了されるようなフワッフワのわんちゃんよ。
魔族の下っ端なんだそうで、今は黒いわんちゃんだけど、人間に似た見た目だと小さな男の子だ。
小さな男の子だけど……魔王軍への申請だとか、社会的な知識はしっかりとある模様。ほんとうは何歳なの?
モコちゃんの加護で出来ること一覧。
ファイアーアロー。敵全体にまさに火の矢を放つ。でも射的が下手なわたしは使わないなぁ。
ホワイトミスト。わたし達に使った洗脳霧だけど、あんな広範囲に繰り広げたら、迷惑でしか無いなぁ。
モコちゃんの必殺技。
疫病を流行らせる、呪う!!
ぜーったいダメよ、と言ってある。
ちなみにカレーは気に入ったみたい。子供、カレー大好きよねぇ。
旅のお供を新たにくわえ、わたし達のグルメと珍道中は、まだまだ、続くよ!
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