第7話 王都アポロメルタン裏グルメ集! 17
各自、部屋で眠ってから、翌朝を迎えた。
「アシュリカ!着替えなさい!今日は貴方達の最終日、女王陛下のスピーチですよ!」
マリアンヌさんに起こされて、わたしは慌てて起き上がった。
「マリアンヌさん、正装着ればいい?」
「普段の女中ドレスで構いません。わたくし達は女王陛下とカイヤ姫の着付け、スピーチ中は陰ながら見守ります。」
ニャビはもう起きていた。
「ぱんぱん、たべたお!すうぷも、あいがと!にゃあはおしごと、いくお!」
「ならばばっちりですよ、ニャビ。小さい貴方に朝ごはん抜きは無理というもの。」
わたし達は大急ぎでエスメラルダの部屋へ。
「エスメラルダ!着付けに来たよ!」
緊張した面持ちのエスメラルダ。
気後れしちゃって、何も話さない。
「頑張って!エスメラルダはお飾りの女王陛下じゃないでしょ?猛女エスメラルダらしく!」
「あたしらしく……」
今日は女王ペンテシレイア=マロヌス初スピーチ!
ドレスは金糸の刺繍の、オフホワイトにして、リボンは控えめ、威厳あるジャボをつけて、カメオのブローチを。
靴は、民には見えないだろうけど、抜かりなく金糸の刺繍のオフホワイトのハイヒールを。
髪にはスピーチ用のティアラを。
パールのネックレスと、パールのイヤリングを。
「お届け物でーす!」
「はい?」
「鍛冶屋です。ガラングル将軍より、聖都から使者を飛ばされ、大至急仕上げました!お納めください!」
「かしこまりました。女王陛下にお渡し致します。」
マリアンヌさんが受け取ってきた箱を開けると、銀色の鞘が入っていた。
「聖剣の、鞘だ……!」
わたし達は大至急カイヤさんの着付けにも行って、着付けが終わった頃に、バルコニー前の部屋に駆け込んだ。大臣達が待っていて、代表して政務官グランデールさんが告げた。
「女王陛下。最終日でございます。王都は解放され、バルコニーの下には、各村村からやって来た民達が集まりました。どうぞ、影武者の王子とカイヤ姫と共に、スピーチへおもむきますよう。」
影武者、なるほどね。クンツァイトさんに似た顔立ちに同じ髪の色、背幅。探し出すの早いわー。
わたし達は、バルコニーが見える範囲で、引っ込んだ。
バルコニーにエスメラルダ、影武者、カイヤさんが出ていくと、国民が喝采を上げた。
「女王陛下だ!!」
「もう、魔王軍に怯えて過ごす時代は終わりだ!!」
「王家が再起したぞ!!」
老人達は、ペンテシレイア姫の帰還に涙する。
エスメラルダはもう怯まない。
「民らよ!長らくの王家の不在に心配をかけたことを謝罪する!あたしが、新たに王位を継承したペンテシレイア=マロヌスだ!」
「ペンテシレイア=マロヌス陛下、万歳!!」
エスメラルダは聖剣を掲げた。
民らはざわめいた。
「あれは、どこかで……」
「あの剣、マロヌス神殿の聖剣じゃないのか!?」
民はわっと湧いた。
「女王ペンテシレイア=マロヌス陛下は、真王陛下だ!!」
「皆、聞いてくれ!!あたしは、マロヌス神殿の聖剣を抜いた使命を果たしたい!あたしは、この手で魔王を討つ!!」
国民は大騒ぎだ。
「女王陛下が聖剣で、魔王と戦われる!!」
「真王ペンテシレイア=マロヌス陛下だ、いけるぞ!!」
「しかし、軍事派遣はどうなる?戦争するのか?」
「戦争は税が重くなるが……」
「あたしは、国を巻き込んだ戦争はしない!よって税も上げはしない!あたし自らが冒険者として、魔王に挑む!そして、その間の政権を、娘のカイヤと政務官グランデールに任じる!心配はいらない!カイヤもまた、赤竜の眼で国を守るだろう!」
「女王陛下が冒険者に!?」
「カイヤ姫が、竜達で国を守るんなら、もうフランク=バジリコ王国は安全なんじゃないのか?」
「だが……女王陛下は、旅立ってしまうのか?」
「あたしは、やがて魔王を倒したとしても、それを最後に女王を辞退する。後継者は長男クンツァイトがいる。平和になった暁には、あたしと民は差なんか無い、同じ庶民の暮らしに戻るつもりだ。待っていてくれ。皆の平和な世の中を、この手で、勝ち取ってやろうじゃあないか!!」
わたし達も、反応は怖かったし、スピーチに関しては、上手くいくかはわからなかった。
だけど、さすが猛女のエスメラルダだ。
「権威には、あくまでしがみつかず、俺らと同じ民におなりになられるのか」
「武勇と博愛。まさに、神が遣わした真王陛下だ」
「魔王に勝てるぞ!!」
エスメラルダは民を鼓舞し、力強く叫んだ。
「我が名はペンテシレイア=マロヌス、聖剣を持ち魔王を倒す王になると、民の皆に誓おう!!見守っていてくれ、あたしの大事な民達よ!!あたしの父は、無闇に犠牲者を増やしたが、唯一まともな意見をあたしに残した。国とは、民あって成立するものである!!あたしの望みもまた、民次第なんだ!!皆!!あたしを、見送っては、くれるかい!?」
民達は喝采を上げた。
「女王陛下万歳!!」
「魔王を倒してくれーッ!!!」
「生きて帰還なさいますよう!!賢明なる女王陛下!!」
「真王が、魔王を討つぞーッ!!」
エスメラルダと影武者とカイヤさんはスピーチを終えて、民に手を振りながらバルコニーを出た。
軍事大臣ガラングルおじいちゃんが、拍手した。
「お見事でございます、ペンテシレイア様。歴代最大の猛々しいスピーチであられましたな。」
「はぁ、はぁ……あんな感じにしか出来なかった。あたしらしく、じゃ、これが限界だよ。まさか、当面は美味いご飯のレシピ集めながら、のんびり旅するよ、では、民が納得しないだろうしさ。」
ヘトヘトだけど、エスメラルダは達成感もあって笑顔だ!
「やりきったね、エスメラルダ。お疲れ様!」
政務官グランデールさんが一言。
「女王陛下!旅立ちになられる前に、最後のお役目が!勇者候補の抜擢です、こちらへ!」
本来、勇者担当のはずのガラングルおじいちゃん、うっかりしてたのか、笑って誤魔化した。
「グランデール殿が言わなければ、危うく勇者置き去り事件でしたな。ほっほっほ。」
勇者置き去り事件!笑えないよー!!
ああ、ラテ=ジェラートさん達、ずっと待たせてたのよね!
「急がなきゃ!!」
ラテ=ジェラートさんパーティの滞在する客室に行くと、誰もいない。
いや。奥のベッドで丸まって寝てる人もいるけど。
シャワールームから歌声が聞こえ、グランデールさんは同性だからと見たのか、シャワールームを開けてしまう。
「ラテ=ジェラート殿、お急ぎ召されよ!」
「あぁ!ダメよグランデールさん!ラテさんは」
ラテさんびっくり。悲鳴を上げた。
「いやああああああッ!!変態ッ!!レディのシャワールームを開けるなんて、デリカシーに欠けているわよッ!!」
「へ?し、失敬しました。」
政務官グランデールさんは慌ててドアを閉めた。
ガラングルおじいちゃんは試験も担当し、良くわかっていて、エスメラルダに話した。
「ペンテシレイア様。ラテ殿のパーティは実力は確かで、既に筆記試験、倫理試験、実技試験をクリアしております。ただ、今まで女勇者は僅かにいたものの、ラテ殿は世界初の、オネエさん勇者になりますな。」
エスメラルダは頷いた。
「うん。シャワーが終わるまで待ってよう。あたし的には、あの人は認められる人だ。モコの仇だが、一度見逃してもらったモコが約束破った訳だしねぇ。そもそも、ラビが仲良くなる人に、悪い人はいないよ。」
しばしして、ラテさんが着替えてバスルームを出て、エスメラルダに膝まづいた。
「いいのに。頭をあげとくれ、ラテさん。」
「まずは、お待たせしてごめんなさい。ちょっと滞在し過ぎて、お気楽過ぎました。」
「ラテさん、パーティの皆さんは?」
「うちの魔術師はあそこで昼寝中、他のメンバーは筋トレで王都を走ってるわ。ほんと、むさいでしょう?」
「なるほど。ラテさんは紅一点なのね。」
ガラングルおじいちゃんが尋ねた。
「女王陛下も旅立たれる前に、挨拶巡りがあるでしょうし。今、勇者認定の儀を行っても、よろしいですかな?」
「ええ。わたしから皆に報告しますし、わたし達も旅立ちますから。」
エスメラルダは聖剣を机に置いて、儀式用の短剣をラテさんに手渡した。
「汝、ラテ=ジェラート・マッケンチーズを我が国の第23陣勇者と認める。ペンテシレイア=マロヌスの名のもとに、勇者パーティに祝福を授けよう。そして、フランク=バジリコ王国からの全面的な支援の約束をしよう。ガラングル!勇者パーティは、冒険者組合の利用はタダだね?」
「仰る通りでございます。」
「任命、ありがとうございます。これからは正式な勇者パーティとして、この勇者ラテ=ジェラートが、魔王軍を退けてみせましょう。」
これが、勇者パーティの始まりなのね……。
ラテさん、わたしに告げた。
「って言っても、進路は途中まで同じなのよね、ラビちゃん?」
「ラテさんもエルンディアナだよね。また、一緒に行く?」
「そうね。せっかくだから、合わせるわ。さぁ、今日で城の人達とはお別れでしょう?ご挨拶してきたらいかがかしら?」
「うん!!ありがとうラテさん、行ってくる!!」
わたし、エスメラルダ、ニャビ、マリアンヌさんは、ラゴゥ達が旅の装いで待ってるところに、走って言った。
「ラゴゥ!チップ、クロウ、モコちゃん!着替えるから待ってて!!」
「ほーい。」
わたし達はエスメラルダの装いをドレスから変え、途中でエスメラルダはわたし達を止めた。
「ドレスじゃないんだから、自分で着れるよ。それにこの鎧、ラビやマリアンヌさんにゃあ重たいだろう?」
「じゃあ、わたしはニャビを着替えさせるね。」
ニャビ、可愛かったドレス姿もいいけど、やっぱりあの街で買った小さなレザーアーマーと猫耳マントのセットが可愛いのよね。
わたしも着替えようとしたが、背中の留め具が外せない。
マリアンヌさんが留め具を外して、ドレスを脱がせてくれた。
「ありがとうー!」
わたしはさっそく白いセーターと、ミニスカート、コルセットビスチェの皮鎧に着替えて、ブーツを履いた。
わたし達は急いでラゴゥ達の元へ。
「ガラングルおじいちゃんに挨拶に行こう!!」
皆で走って、ガラングルおじいちゃんを見つけた!
「ガラングル!」
「律儀な事ですな。わしのことは、良いのですぞ。バーナードとの義理も果たせた、ペンテシレイア様にはラゴゥ君がいる。」
「ありがとう、ガラングル。今まで、本当にありがとう!あたしが人生を謳歌出来たのは、あんたのおかげだ!グランデール達にも、世話になったと伝えておくれ!」
「かしこまりました。ただし、人生はこれからが本番ですぞ、ペンテシレイア様。わしより長生きしてくだされよ。ほっほっほ。」
本当に本当に、優しいガラングルおじいちゃん。
別れ際に、エスメラルダは涙ぐんでた。
わたし達、今度は進路変更だ!
「カイヤさんとマリアンヌさん、マロン=マロヌス陛下とは、ここでお別れだから、地下室に行こう!」
「うん!」
ラゴゥがエスメラルダを抱えようとして、余りの重さに汗だくだ。
「エスメラルダ!鎧はずそう!俺でも、持ち上がんないよ」
「あぁ、そりゃあそうだ。すまないね、ラゴゥや。」
ラゴゥが改めて鎧をはずしたエスメラルダを抱えて、わたし達は階段を降りて、マロン=マロヌス陛下のいる地下室へ。
マリアンヌさんとカイヤさんは、マロン=マロヌス陛下の側へ。
「お姉ちゃん達、その格好は……もう、旅立つんだね?」
エスメラルダは弟に告げた。
「栗坊。ひとときの、お別れだ。しばらくはカイヤを頼むよ。坊や、アンタはもう、王じゃない。全て終わったら、あたしと長男の家においで。家族で一緒に暮らそう。そして、死ぬ前に、たくさんゲームをしようかね。」
マロン=マロヌス陛下は嬉しくてか、涙ながらにブンブン頷いた。
「うんッ!うんッ!!連れてってね!!約束だよ、お姉ちゃん!!」
エスメラルダはカイヤさんに向き合った。
「カイヤ。結局、アンタに母親らしいことは、何も出来なかったが……国を押し付けて、ごめんよ。」
「わたしはいい。母さんが弟を振り返れたのは、成長の証だし。この件で、わたしと母さんが分かり合えたことは、結構大きいんだ。政権は任せなよ。まぁ、わたしの好き勝手に遊ぶと国が傾くからな。程々に真面目にこなしとく。」
エスメラルダはカイヤさんを抱きしめた。
「あんたは、あたしの自慢の娘だ。」
わたしもカイヤさんの手を握った。
「カイヤさんのゲーム、楽しかったよ!」
「はっはっは。ゲームマスター的にも、ラビさんのベガ=ギガルガは楽しかったよ。」
モコちゃん、カイヤさんに擦り寄って、抱き上げられた。
「どした、モコ。」
「なんだか、知らない気持ちなの。カイヤは仲間だったから……人間的に言えば、寂しさ?」
「モコ。その気持ちを失うな。お前はアスタロトっていうすごい魔族だった頃の力を、取り戻せ。そして、自分に生まれた人間性を、大事にしていくんだ。お前の旅路の幸運を願うよ。わたしの、第二の弟よ。」
「……うん!カイヤの知らないこの先も、僕、見てくるよ!そしてすっごく強くなったら、カイヤを背中に乗せて飛んであげる!」
一方で、ニャビがマリアンヌさんから離れない。
ラゴゥが困ってる。
「ニャビ。マリアンヌさんと、お別れしなきゃ。」
「やらー!!にゃあ、ぽんぽんをつれてく!!」
わたしも、実はそれ、言おうと思ってたのよね。
「マリアンヌさん。わたしもニャビも、マリアンヌさんがここで仲間になってくれても、良いんじゃないかなって思ってるんだ。今まで縛られてきたんだもの。羽を伸ばして自由になっていいと思うよ。わたし達と、一緒に行かない?」
「アシュリカ、ニャビ……ありがとう。ですが、わたくしはこの王都で、カイヤ姫の側仕えをします。わたくしも、貴方達のような冒険には惹かれます。ですが、アシュリカ。貴方が、わたくしに手紙を書いてくださるのでしょう?わたくしは、それを楽しみに、王都での使命を果たしますから。」
モコちゃんに続いて、わたしまで寂しくなってきた。
厳しかったマリアンヌさん。
優しかった、マリアンヌさん。
「忘れないよ、マリアンヌさんのこと。手紙、絶対書くから。待っててね。」
「アシュリカ。いつも、いつまでも。貴方の旅路の幸運を、祈っておりますよ。」
素敵な人だった。
綺麗な栗色の髪の、透き通るような緑の目をして、凛として佇む清廉潔白な人。
最初は、斜めに見ちゃって、厳しいことが嫌だったのに。
とても優しい人だった。
マリアンヌさんは、わたしの誇らしいお姉ちゃん。
絶対絶対、忘れないよ。
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