第7話 王都アポロメルタン裏グルメ集! 16
わたし達が城に帰ったのは、深夜だ。
エスメラルダは、正装の白薔薇模様のドレスから、寝巻きに着替えて、ベッドでぐったり。
ニャビもお腹を空かせて起きてしまった。
「お腹空いたけど、どうしよう?」
「シェフを起こすのは、悪いしねぇ……」
マリアンヌさんが立ち上がった。
「わたくしが厨房を借りて、軽食を作って参ります。マロン=マロヌス様もお腹を空かせているでしょうし、女王陛下もカイヤ姫も、わたくし達女中も、明日に備えて食べなくては。」
わたしも立ち上がった。ニャビも自ら立ち上がる。
「わたし達も行きます、マリアンヌさん!!」
「にゃあもいくお!おしごと!!」
マリアンヌさんはちょっと照れながら告げた。
「二人共、女中としてよく成長しましたね。ですが、わたくしの作る軽食は、ただのサンドイッチなのです。貴族社会で育ち、本格的な品は作れませんから。」
「サンドイッチ、昨晩マロン=マロヌス陛下がもりもり食べてたけど、すごく美味しそうだった!マリアンヌさん、手伝うから、あのサンドイッチのレシピを教えて!!」
「……わかりました。取り引きならば、応じましょう。今宵は人数分です、頼りにしますよ、アシュリカ、ニャビ。」
わぁーい!!
マリアンヌさんのサンドイッチが食べられるぞー!!!
厨房に入ると、見た事無いぐらいの広さだ!
「クーラーボックスとガスコンロに近い、あの場所に陣取りますよ。」
わたし達はマリアンヌさんについていく。
マリアンヌさんが選んだパンや、お肉を見て、わたしとニャビはワクワク。
「クーラーボックスの作り置きのなますを使って、具材は数種類作りましょう。アシュリカはパンに切れ目を。ニャビはタレを混ぜてください。火を使う調理は、わたくしがやります。」
「まぜまぜ、まかしちぇお!」
「了解よ!昨晩も思ったけど、マリアンヌさんのサンドイッチ、異国情緒っていうか。えも知れぬいい匂いよね。」
「わたくしのサンドイッチは、バインミーという異国のサンドイッチですから。わたくしも調理はあまり器用ではなく、薄いパンのサンドイッチでは、破けてしまいますからね。まぁ、文献では、こちらの国より美味しいと読み……湯が沸いたようです、鶏ササミを……」
マリアンヌさんはお肉や卵を出して、先にお肉に取りかかる。
「マリアンヌさん?卵くらいなら、わたしも焼けるよ?」
「いいえ、アシュリカ。オムレツのバインミーだけは、最後にしましょう。焼きたてのオムレツが、一番美味しいのです。」
・マリアンヌさんお手製!
3種のバインミー盛り合わせ!
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鶏ササミのシンプルバインミー用↓
※ベトナムなます
(2人分)
大根 約8cm(200g)
人参 2分の1本
塩 小さじ2分の1
ヌクチャム 大さじ2
粉末ピーナッツ 小さじ1
大根、人参は千切りにする。
塩を振って揉み、しんなりしたら、水分をしぼる。
ヌクチャム、ピーナッツをくわえて和える。
3時間、漬ける。
※ヌクチャム
(作りやすい分量)
輪切り唐辛子 2本分
ニンニク ひとかけら
砂糖 大さじ1と小さじ1
酢 4分の1カップ
ニョクマム 4分の1カップ
水 大さじ2
唐辛子は粗く刻み、ニンニクは細かくみじん切りにする。
↑と砂糖、酢、ニョクマムを合わせてよく混ぜ、砂糖が溶けたら、水を入れて混ぜる。
※↑冷蔵庫で約1ヶ月保存可能。
・鶏ササミのシンプルバインミー
(2人分)
鶏ササミ 6本
水 1500CC
酒 大さじ3
米粉のバゲット 中2本
(↑中々売って無いため、普通のフランスパンで代用してもいい。市販の長さであれば、半分に切る。)
A
ヌクチャム 大さじ3
マヨネーズ 大さじ3
ごま油 大さじ1
ベトナムなます 100g
パクチーまたはスイートバジル 適量
無塩バター 適量
マヨネーズ 適量
粗挽き黒胡椒 適量
ホットチリソース 適量
1・鍋に水を入れて沸かし、沸騰したら酒を入れ、鶏ササミを投下。大きさにより、6分〜7分茹でる。
湯切りする。
茹だった鶏ササミを冷ます。
粗熱がとれたら、細かく割いて、Aをくわえて和える。黒胡椒をふる。
2・バゲットは横に深めに切れ目を入れる。
オーブントースターで軽く焼く。
外はパリパリ、中はフワフワを意識して。
切口の上にマヨネーズ、下に無塩バターを塗る。
3・2に1、ベトナムなます、パクチーまたはスイートバジルを挟む。
理想の配分は、肉4ベトナムなます4ハーブ2。上からホットチリソースをかけたら、完成。
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肉団子のトマト煮バインミー用↓
※ベトナムなます2
(3人分の分量)
大根 300g
人参 300g
砂糖 240g
酢 300g
塩 6g
大根と人参は細切りにし、砂糖をまぶしてよく揉む。水気が出てきたら、水分をよくしぼる。
酢と塩をくわえ、20分漬ける。
ザルで汁気を切る。
・肉団子のトマト煮バインミー
(3人前)
豚ひき肉 250g
A
ニンニク 3かけら (みじん切り)
シーズニングソース 大さじ1と小さじ1
ニョクマム 小さじ1
グラニュー糖 大さじ1と小さじ1
粗挽き黒胡椒 小さじ2分の1
B
玉ねぎ 2分の1個 (みじん切り)
細ネギ 3分の1束 (小口切り)
C
ニンニク 小さじ2分の1 (みじん切り)
サラダ油 適量
D
カットトマト缶 1個
ニョクマム 大さじ1
グラニュー糖 大さじ1
水 300ml
水溶き片栗粉 適量
無塩バター 適量
マヨネーズ 適量
ベトナムなます2 ひとつ100g
パクチーまたはスイートバジル 適量
シーズニングソース 適量
米粉のバゲット 3つ
1・Aを混ぜてから、豚ひき肉と混ぜあわせる。Bをくわえて更に混ぜる。
30gずつ丸める。
2・鍋にCを入れて炒め、香りが出てきたら、Dをくわえて煮立てる。
3・2に1をくわえ、ひと煮立ちしたら、弱火にする。20分煮て、水溶き片栗粉でとろみをつける。
4・バゲットは横に深く切れ目をいれ、オーブントースターで軽く焼く。
外はパリパリ、中はフワフワを意識して。
切口の下側に無塩バターを塗る。切口の上側にマヨネーズを塗る。
5・パンに肉団子のトマト煮を6個つめる。
ベトナムなますをつめる。
パクチーまたはスイートバジルを上につめる。
シーズニングソースをかけて、完成。
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細ネギ入りふんわりオムレツのバインミー用
※甘酢
グラニュー糖 大さじ3
湯 大さじ2
米酢 50ml
グラニュー糖を湯に混ぜて溶かす。
米酢をくわえ、混ぜる。
※人参のなます
人参 150g (千切り)
塩 ひとつまみ
甘酢 適量
1・人参は塩をまぶしてしばらくおく。
2・1の汁気をしぼり、甘酢に約15分漬ける。
軽く水気をきってから、挟む。
・細ネギ入りふんわりオムレツのバインミー
(1人前)
細ネギ 小口切り 60g
卵 3個
A
ニョクマム 小さじ1・5
グラニュー糖 小さじ1
黒胡椒 少量
サラダ油 大さじ1
人参のなます 20g
シーズニングソース 適量
ホットチリソース 適量
黒胡椒 適量
無塩バター 適量
マヨネーズ 適量
米粉のバゲット ひとつ
1・細ネギを計る。レンチンして、火を通す。汁気はきる。
※ここで、4を先にして、出来たてのオムレツを挟むのも良い。
2・器に卵を入れ、Aと1をくわえ混ぜる。
3・フライパンにサラダ油を熱し、2を入れる。かき混ぜながら、ふんわり整えて焼く。
4・バゲットは横に深く切れ目をいれ、オーブントースターで軽く焼く。
外はパリパリ、中はフワフワを意識して。
切り口の下に無塩バターを塗り、上にマヨネーズを塗る。
5・バゲットにオムレツを入れる。
上から、人参のなますをつめる。
なますの上から、シーズニングソース、ホットチリソース、黒胡椒をかけて、挟み、完成。
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※市販の調味料↓
ベトナムのニョクマム(ヌックマム、ヌクマムとも呼ばれます。)
ベトナム産かタイ産の、ホットチリソース
シーズニングソース、ベトナム産かタイ産 (シーズニングディッピングとも書かれています。)
※香菜
パクチー
パクチーが苦手な人には、スイートバジル
出来上がったバインミーを、クッキングシートで丁寧に包装する。
そしたら、バスケットに詰めて、バスケット三つ分に。マリアンヌさん、わたし、ニャビがバスケットを一つずつ持って行く。
いい香りでお腹がぐうぐうなるけど、皆を集めなくっちゃ。
「エスメラルダー!カイヤさん!出来たよー!!」
エスメラルダが重い腰を上げた。
「大丈夫?腰痛いんじゃあなかった?」
「大丈夫じゃないけど、歩けるだけマシさね。栗坊は足が無いんだからさ。そのサンドイッチ、栗坊のとこ行って、皆で食べよう。なんにせよ、城じゃあ最後の晩餐だろ?」
エスメラルダ、根性だけで何とか歩いてる。
カイヤさんが、エスメラルダを見て、微笑んだ、気がする。
カイヤさんはすぐに、エスメラルダに肩を貸した。
「弟と食卓を囲むのは賛成だ。母さん、わたしが支えになる。」
「ありがとう、カイヤ。」
マリアンヌさんも肩を貸した。
「貧弱ながら、わたくしも支えになりましょう。女王陛下がいらしたら、マロン=マロヌス様もさぞお喜びになられます。」
そして、元マロン=マロヌス陛下の部屋の、ベッドサイドテーブルをどかして、地下階段へ!
「うげえ!!やばいッ!!これ、根性だけじゃ無理かもッ!!腰が!!階段キッつい!!」
「エスメラルダ、無理しちゃだめよ!マロン=マロヌス様だって、エスメラルダの再起不能は望まないわよ!!」
なにせ、ダンジョン攻略だって出来ないわたし達だ。階段はエスメラルダの天敵なんだから!!
カイヤさんが確認した。
「母さん。これ以上、降りてく覚悟はあるのか?」
「ギェェ!!あ、会いたいんだ!!ググッ、弟に、今まで出来なかったことを、やりたいんだよ!あたしゃ、行くよォッ!!!」
エスメラルダ……。
激痛で泣きながらも、歩みを辞めない。
いま、きっと、エスメラルダとカイヤさんの心はひとつ。
しかし!
エスメラルダは次の一歩でドレスの裾を踏み、転倒して滑り落ちていく!
「うわああああああッ!!!」
「エスメラルダーーッ!!」
ニャビが高速詠唱し、宙を飛んでエスメラルダの元まで真っ先に駆けつけた。
「えめらるだ、らいじょうぶ!?こし!!」
わたしが尋ねた。
「ニャビ、その魔術最初から使ってよー!」
「にゃあは、にゃあしかとばせないんだお!」
「あー……いたたたた……」
エスメラルダの元に、車椅子が来た。
マロン=マロヌス陛下だ。
「お姉ちゃん!?大丈夫!?落ちた!?」
車椅子から手を貸すマロン=マロヌス陛下。エスメラルダはその手を掴み、立ち上がった。
「あやややや……なんとか、来れた。お前に、会いに来たのさ。」
「僕の為に来てくれたの!?マリアンヌ、予備の車椅子を出してあげて!」
「御意に!」
マリアンヌさんの運んで来た車椅子に座って、エスメラルダはまだまだ痛いだろうけど、気合いで笑って見せた。
「マリアンヌさんとラビとニャビが、サンドイッチを作ってくれたから、お前と皆で食べようと思ってね。おそらく、あたし達は明日の夕飯時には、もういないからさ。」
「えー!!嬉しい!!僕、いつもは一人ご飯だからさ!僕、お姉ちゃんが旅立っても、絶対絶対、忘れないよ!!」
マロン=マロヌス陛下は、部屋に入るなり、テーブルの上の紙束を片付け始めた。
「そういや、栗坊はなんで起きてたんだい?結構な深夜だが。」
「えへへ。今日はご飯抜きは覚悟してたけど、次のゲームのシナリオを書いてたの!ところでお姉ちゃん、戴冠式どうだった?」
「それが、あたしが聖剣抜いちゃってさ。だから、今後の王位継承の儀式をどうするかで、大臣達を困らせちまったよ。」
マロン=マロヌス陛下、夢見る少年の眼差しで大喜びだ。
「聖剣抜いたのー!?かっこいい!!アーサー王伝説みたいだ!!それじゃ、お姉ちゃんは真王様だね!?」
皆で席について、談笑しながらバインミーに食いついた。
「うわっ!!なにこれ!?やば、おいしー!!」
オムレツフワッフワ!マリアンヌさんの言った通り、出来たてがやばい!
それに、ホットチリソースがまた、オムレツの甘みに相性バツグン!
わたしは早、2個目に手を出した。
「まさに旨すぎてやばいやつだ。マリアンヌさん、サンドイッチが上手いねぇ。この、焼きたてのオムレツに、酸味のある甘いなます。魚の味の醤油や、甘辛のソースが、食欲をそそるよ。」
「エスメラルダ、肉団子のやつめちゃめちゃ美味しいのよ。こっちは、辛い感じじゃないの。」
「にゃあ、おかありっ!!」
ニャビの過食症にカイヤさんつっこんだ。
「ニャビ、確かに旨いが、一本でかなりの量だ。気をつけないと、食い過ぎたわたしと母さんみたいな末路になるぞ。」
わたし既に二個目だけどね!
「とっても美味しいでしょ?大好きなマリアンヌのバインミーがあれば、僕は贅沢な食事はいらないんだァ。」
「褒め過ぎです、女王陛下、マロン=マロヌス様。光栄では、ございますが……」
わたし、マリアンヌさんとマロン=マロヌス陛下を見ていて、思い出した。
「そういえば、マリアンヌさんは男性が苦手なんじゃなかった?マロン=マロヌス陛下は別なの?」
カイヤさんも尋ねた。
「そもそもさ。マリアンヌさんはポンパドゥール侯爵の奥さんだ。ま、わたし達が勝手にマリアンヌさんと呼んではいるが……男が苦手なのに、結婚した?」
マリアンヌさんはまず、答えた。
「最初に、言わねばなりませんね。わたくしをマリアンヌと呼んでくださる皆様に、マロン=マロヌス様の面影を感じました。わたくしは、確かにポンパドゥール侯爵夫人ですが、わたくしと夫は家柄の為の結婚をし、務めである子作りをなし、子供も無事成人致しました。わたくしも夫も、これで自由なのです。夫は昔からずっと愛していた幼なじみの家に通っています。」
「え?え……?それは、浮気じゃあないの?旦那さん、酷くない?」
「酷くないのですよ、アシュリカ。夫もまた、家柄に縛られ、愛を引き裂かれた人でしたから。育児中に、自分の想いを封じて、良き父をこなしたのです。まともなほうですよ。わたくしの殿方嫌いは、わたくしの横暴な父と、愛の無い結婚から始まりましたが……マロン=マロヌス様は別枠です。心が少年のまま、半分夢を見ながら生きておられます。どちらかというと、幼い子のようなお方ですから。」
わたしは、モジモジと躊躇い、思い切って踏み込んだ。
「マリアンヌさん、マロン=マロヌス陛下のこと、好きなの?」
「主君としても、ゲーム仲間としても、好ましい方ですよ。恋愛ではありませんが。友情の方が、近いでしょうか。わたくしは我が子の幼少期を、重ねて見ているふしもあります。子供がいくつになっても、子離れとは難しいものですからね。」
カイヤさんが頷いた。
「それはわかる。血筋かな。マロンおじさんは、小さい頃のジェダイトに似ている。」
「えへー!マリアンヌと姪っ子にモテる時期来たー!モテ系もいいよね、シナリオライターの腕が疼くよ!」
わたしは、まとめてみた。
「マロン=マロヌス陛下は、隠れ家の中で世話を待つ身だし、マリアンヌさんは、マロン=マロヌス陛下を世話することで、子供が自立した寂しさを埋められるってことかしら。」
「陛下がゲームマスターの時は、習う側ですよ。賢い方なので。ですが、そうですね、アシュリカ。わたくし達は、とても快適に共存しています。」
「大臣や、ラゴゥとは?」
マリアンヌさんは苦笑いだ。
「話せはしますし、良い方達ですが。内心では怯みますね。ですが、ラゴゥルレッド殿の連れて歩く、あの可愛らしい仔犬は、わたくしも触りたいです。」
小さい子が癒しなのね。
マリアンヌさん、もっとたくさん選択肢は、あるんじゃないかな?
エスメラルダがマロン=マロヌス陛下と同じくらいいっぱいバインミーを食べながら、尋ねた。
「それにしてもお前、食い過ぎじゃないかい?」
「男の子はある程度燃焼するよー!お姉ちゃんだって同じ数食べてるし!」
「栗坊、お前もう燃焼しない中年太りなんだよ。あたしみたいに、丸々とデカくなりたいのかい?」
「なら、一緒に丸くなろー!!」
わたし達は団欒を終えて、部屋で寝る為に、再びエスメラルダの階段のハードワークだ。
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