第2話 白菜とキノコの和風旨鍋 1
わたしの名前はアシュリカ・A・アップルヘイム。
もっとも、本名よりもあだ名のラビで呼ばれることのほうが多いかな。
クラスは吟遊詩人、ジョングルールって呼ぶ。パトロン付きの宮廷歌人や、ケルトの吟遊詩人のバードと違って、あんまり主流の職業じゃないから、珍しがる人もいる。
吟遊詩人は吟遊詩人でも、歌で戦ったりはしない。ヴィオロンを持ち歩いてはいても、戦闘中はショートソードで前衛のお手伝いをする。
一流のケルト吟遊詩人や吟遊詩人は歌声で雑魚を一掃するんだとか、商業都市エルンディアナで聞いたことはあるけど、わたしじゃせいぜい音階の酷さで魔物が逃げるくらいだ。楽器が出来てもアガリ症は治らないんだから、もはや特技みたいなもの。
でも、なんでかなぁ。
人がいない時は、そこまで酷くないみたいで。動物相手には、良い感じのリラックスマシーンなんだよね、わたしは。
わたしが初心者ギルドに通ってる時期、森で兎の群れのお世話クエストを日課にしている時だ。
わたしの歌を頼りにチップとラゴゥが現れた。
その時のわたしは、チップいわく、たいそうな美少女で、兎に囲まれた歌の女神様みたいだったそうな。自画自賛だけど、チップの褒め言葉なんて滅多にないことだから、しっかりと覚えてる。
そしてチップとラゴゥに出会った瞬間、わたしはアガリ症で音痴になったのよね。
それまで、知らなかったのよ……同年代の若者を。本当に本当に田舎から来たわたしはさ。
二人には心配かけて、呪いかと思われて教会まで連れてってくれたっけ。
そんで、芋づる式にクロウが教会の助司祭やってて……
長い話になるから端折るけど、ラビってあだ名は兎の世話クエストをソロでやり込んでたから、らしい。
美少女扱いなんてどこへやら、今では貧乏パーティの女将さんぐらい、えっちらこっちら働いている。
元々美少女呼ばわりされたのはチップが初めてだから、たまたまチップの合格点だったのか。エスメラルダなんて、目元からして、どれだけ美人だったのかわかるもんね。
多くを語らないエスメラルダだから、エスメラルダ過去編はよくよく想像するネタだ。
朝、皆でパンを食べてから。
「結局、村長の依頼って終わったのかな。お眼鏡に叶えば、わたし達だって竜退治に行けたんだよね?」
「無理じゃね?村長新しいパーティ雇ったんだろ。宿屋の滞納金払ったら、温泉楽しんで、旅を再開しようぜ。」
チップは見限りモードだ。
「元々チップがバザーの稼ぎを、ギャンブルですったから滞納したんじゃない。村長の印象だってその辺から悪くなったに決まってるよ。」
「うるせぇやい。稼ぎ直したんだから良いじゃねーか!」
ラゴゥがわたしに言った。
「村長とのお別れ、なんだかしまりが悪いし、挨拶だけでも、行く?」
「そうだね。後味悪くさえなければ、また温泉来る時気まずくないもんね。挨拶行こうか。」
村長の家には、わたしとラゴゥだけで向かった。
「ハウアッ!!」
村長はわたし達を見つけて、青い顔で固まった。
「?」
「村長さん。俺たち、試験は受からなかったけど、温泉楽しんでから、帰りますね。」
「あなっ、ラゴゥさん!やめてください!!わた、私の命が!村の命はあなた次第です!!」
「どうしたのこの人?」
「あー……クロウが昨晩、キレちゃったからなぁ……」
あー。クロウ、怒るといつも、素性明かすんだよね。イキリと違って、実績がある訳だし。
俺は魔王軍と共闘した盗賊団ラウムの頭クロウ・イビルスノウだ、て。
もちろん、怖い話でしかないのだが。
「……宿屋にはわたしから、宿泊費50%offに値下げするよう言いましょう。ラゴゥ様、ぜひ竜退治に向かってください!別に雇ったパーティもおりますが、竜は強大、別ルートから挟み撃ちもよろしいかと!」
「おぉ」
棚から牡丹餅とはまさにこれか。
「ダメだってラビ、断らないと……」
「でも、わたし達だって試験こなして来たんだよ?時間に遅れただけで、負けた訳じゃないもん。」
「ラビ」
「村長さん、お引き受けします!どうせここで別れても、村長さんが盗賊団の悪夢にうなされるだけでしょ!?」
「ラビさん!おっしゃる通りで!早く竜を退治して、出て行ってください!!くれぐれもクロウさんが納得の行かない事態にならぬように!!」
「大丈夫!任せてください!!」
ラゴゥが人が良さそうに頭をかいている。
「ラビ。依頼ってのは、勝ち負けじゃないんだ。村長さんが新しいパーティを雇っても、頑張りが認められなくても。決して、脅して言う事聞かせるのは、良くないよ。」
ラゴゥはやっぱりお説教した。
「わたしが勝手に決めちゃったけどさ。どの道、クロウの影からは守れたんだから、良くない?」
「良くないって。この依頼、報酬は辞退しよう。それなら竜退治は引き受ける。俺たちはあくまで別パーティの補佐でさ。」
「あぁ……ラゴゥ、人が良過ぎるよ……絶対人生損するってば。」
「でも討伐した竜の鱗とか爪は回収出来るんだし。俺たちの経験が何よりの宝だろ?次回竜に挑む時きっと役に立つよ。」
「お人好し。チップとラゴゥで半々くらいが生きやすいのにさ。」
「なら大丈夫だろ。チップとは小さい頃から組んでる、二人で一人前だよ。」
「おーい!ラビ君!」
「リファイラスさん!」
わたしとラゴゥは、リファイラスさん一行と立ち話しているチップとクロウに加わり、改めて挨拶した。
「おはようございます!もう竜退治、出発するんですか?」
「君たちも竜退治だろう?俺たちで別ルートから攻めて挟み撃ちにしてやろう。改めて、紹介するよ、俺のパーティだ。」
「わ」
ラゴゥが顔を赤らめた。
すごく美人の女の人だ。それに、すごく豊かなバスト。装備だって、胸元が開いたドレスの……
同じ冒険者なの?
「魔術師のレニ=アリアだ。あと、僧侶のマシュー、拳法家の……」
なんか……
美女に群がる男達って言うか。
なんか鼻持ちならない。
「よ、よろしくお願いします!ラゴゥです!」
「何よラゴゥ。鼻の下伸ばしちゃってさ。だいたい、ドレスで山登りや川下りが出来るわけ?お姉さん、そっちのパーティはともかく、うちのパーティに色仕掛けしないでよね。」
「よろしく、ラゴゥ。小娘、最初に言っておくわ。」
「お?おぉ?」
レニ=アリア、わたしにすごんだ。
「胸が豊か過ぎてブラのサイズが無いのよ。こう言う露出ドレスでしか、胸が入る装備が無いだけだから。誰が真冬に露出したいってのよ。激しい戦闘時に何度ポロッて赤っ恥かいたと思ってるわけ?コイツらは胸が目当てでもわたしは違う、真面目に冒険者やってるのよ!!」
「うわぁ、切実ぅ……意外に真人間だった。それじゃ、オーダーメイドは?」
リファイラスさん一同は笑った。
「うちは君たちのパーティより貧乏だからな!お互い上級者パーティなのにLv6村付近をウロウロしている身だ、オーダーメイド出来る身分じゃなかろうな。」
「リファイラス!貴方の鎧はオーダーメイドしてたじゃないの!その口で良く言えるわね。」
「いやはや。だってレニーは隠したら損する、俺たちがな。」
言われてみればリファイラスさん、鎧ピカピカ。抜け駆け……。
「なんだか、レニさんかわいそうじゃない?エスメラルダのマントいる?エスメラルダ、綺麗色しか着ないから、紺色の大きいサイズのマントが余ってるよ。」
「小娘!気が利くじゃない……その、ラゴゥ。女の子はなんて名前なの?」
「ラビです、レニ=アリアさん。」
わたしがトランクからエスメラルダの余ったマントを出して、レニ=アリアさんに渡すと、レニ=アリアさんはすっぽりマントにくるまって、胸を隠しこむ。すると、性格がキツそうに見えてた不機嫌オーラが消えて、ほっこりした笑顔に。
ほんとに、綺麗な顔してるんだから。
「暖かいわね……ありがとう、ラビ。こいつら酷いのよ。」
リファイラスさん達は言い訳。
「冒険には花がつきものだろ?砂漠の花しかり、レニ=アリアの胸しかり」
「神もこうお告げです。オーダーメイドするならビキニアーマーにしてくれ!と。」
「ナイスチョイスだ神。」
「女魔術師のビキニアーマーは古典的ロマンだよな。」
チップがニヤニヤしながら尋ねた。
「そっちのパーティは男のロマンパーティ?美女がいていいよなぁ〜」
わたしがチップの足を蹴った。
「あだっ!あにすんでぇ!!」
「だらしないよ!しまりのない顔!!それに、レニさん困らせてロマンとか言うの、酷くない?仲間なんじゃないの!?」
「そぉよ!言ってやりなさいよ!!」
チップとリファイラスさんが怯んだ。
「いきなり仲良くなりよってからに!」
「ラビ君は強敵だな。レニ=アリアもすっかり懐いてしまった。女将恐るべしだ。」
誰が貧乏パーティの女将だ。
そりゃあレニさんは懐いてしまった気はするけど、この人の豊かな胸を見世物にしてる仲間だなんて、そりゃあ怒るよね。
「レニさん、もう少し寄ってく?美味しいお茶のお茶っ葉もあるし、エスメラルダの着なかった大きいサイズ、結構あるのよ。」
「あ……それは、嬉しいけど……」
「たまには別行動するか、レニー。友達が出来たならそれもありじゃないか?」
レニさん、少し迷って、首を振った。
「悪いけどわたしは貴方達と違って主力のソーサラーよ。無責任ではいられないわよ。ラビ、竜退治の後にまた、貴方の宿にお茶をしに行くわね。」
この人……気が強いとは違うな……気高いっていうか。言動はちょっとエレガントだ。貴族の階級だろうか?
「いじめられたら、逃げてきなさいよ。うちは女の子世帯だから、エスメラルダもニャビも、味方だよ。」
レニさん、微笑んで、杖をかざした。
「じゃ、行くかレニ=アリア。峠の麓まで。ラゴゥ、君たちは峠を西に行きなさい。現場で会おう!」
レニさんの杖の先が光る。
瞬間、リファイラスさん一行は消えた。
空飛んだのかと上見ても、いない。
いない……
幻の転移魔法だ。
「えぇっ!?これ転移じゃない!?人間社会では物質転移しか成功してないよね?魔術師だと飛行が普通じゃない?レニさん、もしかしてすごい大魔術師なんじゃ……」
クロウが瞬きして、意外そうにわたしを見た。
「知らねぇのか。あいつは勇者パーティと競い合ってた、魔族の魔術師だ。最近じゃ牙を丸めて、魔王軍を辞めたって話してたな。お前は俺をどやすような肝っ玉だから、懐かれたんだろうよ。」
「ふぁ……」
魔族?
「見たことも聞いたこともないよ!あんまりにも田舎にいたし。え、じゃあリファイラスさんがパーティ組んでるのは、長命種?」
チップが答えた。
「たりめーよ。僧侶はドワーフ、拳法家はハーフエルフだ。400年先も変わらねぇだろうって言ってたぜ。」
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