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第1話 チキン南蛮 2

「ニャビー!」

「ニャビ公ー!帰んぞ、ニャビ公ー!!」

 冒険者組合のルー販売店では、既に店終い。

「すいません、小さい子が買いに来ませんでしたか?」

「うちにですか?来てませんが、あなた方は冒険者の方ですね?」

「はい。小さい子も、うちのパーティの子です。」

「ギリギリ営業時間内ですね。我々冒険者組合の情報網にお任せください。」

「ハント様。南口のはぐれモンスターの討伐をしている冒険者様では?」

「マルモス。小さい子ですか?」

「小さい子です。いえ……人間種族では無いので、私達より歳上かもしれませんが……」

 わたしが食いついた。

「ニャビはエルフかドワーフの子です!家族が魔物にやられて、わたし達が助けた子なんです!」

「ハント様。」

 冒険者組合の人は、魔術で投影画面を見せた。

「戦ってる」

「間違いないです」

「こちらのお供の方は、お連れ様で?」

 知らないファイターが前衛をしてくれてる。ニャビはよほどのことが無いと、呪文も言えないし杖も振るえない。

「知らないパーティの方です。でも、よほどお世話になったんだと思います。ニャビが恐怖で呪文を言えなくなれば、あの人しか戦えなくなります。」

 ニャビ。

 本名不明。エルフかドワーフの、人間にしたら3歳くらいの女の子。

 魔術師(ソーサラー)だけど、家族を失った事件から、呪文が言えなくなる。人間で言えば、元々吃音症の子なんだって。魔物がいなければ、ニャビは普通の子だ。

「……ご事情お察ししました。緊急措置にしましょう。18歳以下の冒険者手当を適用し、ニャビ様を救出します。」

「ハント様」

「お連れ様は盗賊(シーフ)ですか?」

「あい。」

「ただちにニャビ様と共闘者様を連れて避けてください。我々冒険者組合も、実戦は久しいので、射程距離外に避難お願いします。」

 ハント様の背にでっかい魔法陣が広がった。

 初めて見た。冒険者組合は戦える人が必ずついてると聞いたけど、このハント様はかなりの腕前の魔術師(ソーサラー)だ。

 チップはさすがの速さで、もういない。

 わたしは投影画面を見させてもらった。

 村の南口だ。わざわざニャビが村から出るはずないから、村の中であの魔物を見つけたんじゃないか。

「ニャビ……ごめんね」

 魔物が出るこのご時世で、お使いなんかやらなければよかった。

 チップが駆け抜けて、声までは分からないけど、ニャビと共闘者さんが走り出した。

「掃討開始」

 ハント様と部下の二人が、魔術を飛ばす。

 ハント様の出した物質転移術式に、魔術弾を撃ちまくる。それが、南口の魔物の元まで転移して、すごい勢いだ。こんなのが始まる前にニャビを離れさせてもらってよかった。

「強過ぎる……!」

「射出終了。これ以上は、南口の橋が壊れてしまいますよ。」

「了解致しました!」

「らびぃ、ちっぷ。にゃあ、まほういえたよぉ。」

「ニャビ!!よかった……!!ハントさん、ありがとうございました!!」

「いえいえ。冒険者組合一同、またのご利用をお待ちしております。」

 冒険者組合の方々は店を閉めて立ち去った。

「おったまげた。あんな奴いんなら、魔物の討伐依頼あいつに行けば、みんな平和になんじゃねーの?」

 チップは皮肉げだけど、冒険者組合っていうのは、全冒険者の味方で、冒険者の為の必需品を取り扱ったりするエキスパート。元は冒険者でもおかしくはない。

「助けてくれたんだからいいでしょ?ニャビ、怪我してない?」

「にゃあー。えうふ。なおしてくれたおっ!」

「エルフでーす。ちーっす。」

 角刈りのエルフ。優美なエルフって雰囲気じゃないけど、今までニャビを守ってくれてた戦士(ファイター)だ。

「ありがとうございました!前衛職の他に、回復魔法も?」

「あれ。もしかして村長の言ってた……まぁいい。俺は南口の方の宿のパーティの、戦士(ファイター)のリファイラスだ。エルフだから魔法もやるけどな。この子が戦ってるのに気づいたから参戦しただけなんだが。エルフやドワーフには、恩を作っとくと、後々助けてもらえるしな。まぁ、この子は判別つかないが……どっちなんです?」

 チップが答えた。

「ニャビはエルフだかドワーフだか、謎なんすよ。家族が呪いで灰になってたし、ニャビって名前も俺らがつけた第二の名前なんで。こいつがラビだから、妹分でニャビ。」

「なんと、親無しか……それは……君がラビ?あだ名?」

「あだ名です。アシュリカって名前があるんだけど……」

「……ラビ君、チップ君。俺の連絡先を教えておくよ。どんな旅でも必ず商業都市エルンディアナの金の羊亭に立ち寄るから。これ、住所だ。他のエルフやドワーフにも、出会ったら連絡先を聞きなさい。いいね?」

「え。なんで……」

 リファイラスさん、真面目な眼差しで告げた。

「親がいないニャビの為にだ。ニャビは君たちと一緒に成長は出来ない。君たちが年老いて朦朧した頃がニャビにとっての一年だ。この幼さでは、一人で生きろというのは過酷な話だろう。そんな時生きてるのは長命種だけだ。」

 わたし達は驚いた。てっきり、ゆっくりだけどニャビは成長していくと思っていた。

「え?じゃあニャビが毎日食べてる栄養はどこ行くんですか。」

「魔力だよ。ニャビが毎日食べてるエネルギーは、ニャビの魔法力に変わるんだ。ドワーフだったら、筋肉やら鍛治スキルかな。なんにせよ子供服は遠慮なく買っていい、サイズは変わらないよ。」

「ほへぇ〜。ニャビ、おまい、俺がじさまになっても赤ちゃんなの?」

「ちっぷが、じさまらと、にゃあのぱんぱんたべれないの?」

「パンパンは食えるだろ。ったく、自分のパンの心配かよ。」

「はは。まぁ、差し迫ったら手紙を出せ。仲良しでいいな。それじゃ、俺はこれで。」

 リファイラスさんは踵を返し、手を振って立ち去った。

「ニャビ〜!!」

「ラゴゥだ!」

 ラゴゥ、エスメラルダ、それにクロウ。

「おいラビ。今のは?」

「リファイラスさん。ニャビがお世話になったんだ。」

「エルフか。マニアに売り飛ばせば桁外れな荒稼ぎが出来らぁな。」

 ラゴゥとわたし、慣れたもので、クロウの問題発言を途中からかき消す雄叫び。

「わあああああああ」

「まあああああああ」

 チップがクロウににやけて尋ねた。

「クロウの兄貴の現役時代じゃ、エルフは幾らだったね?」

「まぁ、捕まるエルフなんて弓矢の扱いが未熟な森番くらいだが、一人で一億稼がせてくれる奴もいたぜ。もっとも、あんな角刈りの男エルフでは、売るまでに髪の毛を何とかしねぇと。まぁ稼ぎに比べりゃあ安い投資だ。」

「わあああああああああああああああああああ」

「ぶあああああああああああああああああああ」

 ラゴゥがチップの頭にゲンコツの真似をし、チップがニヤニヤしながら降参した。

「うへへ。クロウの兄貴は盗賊家業が一番お似合いだぜ!」

 ニャビがクロウの足に意地悪した。

「?なんだ、ニャビ。何故俺の足をグリグリ踏んでやがる。」

「えうふのかたきだぉ!くろ、かみしゃま!かみしゃまにごめんしゅんだよ!!」

 クロウ、ガラリと変わってお祈りした。

「またやっちまった。神よ!慈しみ深い神よ、御手で正しきを唱え、罪深いわたしを戒めてください。いつまでも盗みを引きずるこの頭に罰を。……ふっ。エルフは友達。皆みぃんな、神の祝福を受けているぞう。」

 引きつったいいひと顔だ。

「くろ、かみしゃま!かみしゃまみてゆ!!」

 クロウは作った顔でニャビを撫でた。

「可愛らしいエルフだぜ……くっ……みぃんな、仲良しだぞう……」

 地獄の苦行みたいな声だよ。

「クロウ……プリースト向いてないよ……」

「俺は信仰に目覚めたんだよ。」

「昔の癖、全然抜けないなぁ……」

「そりゃ……頭を何十年もやってりゃ、すぐにとはいくめぇよ。」

 クロウ・イビルスノウ。

 元盗賊団ラウムの(かしら)で、今はうちの僧侶(プリースト)

 チップの憧れ、裏社会の怖い人。

 なんでそんな人が何もかも辞めてまで冒険者資格を取りに来たのか。それは、抗争の時の臨死体験と、盗賊団への呪いを解呪した、とある僧侶(プリースト)からの影響だ。

 クロウはパーティでは回復魔法担当、でも、背後にいると怖いし、たまに前衛に出てくるけど、投げナイフは百発百中、多分わたし達のパーティで一番強いんじゃないかな。

 プリーストはLv5くらいだけど、シーフはLv90くらいのボスなんだもんね。

「ほら。不穏な話は抜きにして、宿に戻ろうぜ。ニャビの話は風呂で聞くよ。」

「やらっ。にゃあは、らびぃとえめらるだのいるおふろっ。」

「えぇ。男湯でいいじゃん、ニャビ。」

「いいよ、わたしがニャビ洗ってあげるから。」

「でも、エスメラルダもニャビもじゃなぁ……ラビ大変過ぎるだろ?」

「いいって今更。仲間なんだし。」

 宿に戻って、新しい一階の部屋で、皮鎧を外してベッドにダイブ。

 ニャビがわたしのお腹の空いたところに飛び込んだ。

「いたいよ、ニャビのバカ」

「にゃあはばかじゃないお!!」

 ニャビ、何しに来たかと思ったら、鞄に入れてたおやつのクッキー、わたしとエスメラルダに分けてくれた。

「えぇぇいいの?」

「優しい子だねぇ……」

「にゃあ、いいこしたら、えめらるだ、ながいきできゆ?」

「長生きしなきゃあね。嘘はつかないよ。だいたい魔王も倒さずして、まだ墓には入れやしないよ。」

「いひー」

 暖炉は暖かいし、ムードもあったかい。わたしは、ウトウトと、眠気が……。

「……おい、おめぇら。」

 クロウが珍しく焦ってる。

「なに?虫でも出たの?」

「なぁ……まさかだが、ルーが無いってこたぁ……ねぇよな……?」

 私達、戦慄が走った。

「ニャビ!」

「にゃあね。かいにいこうとしたんらよ。そしたら、まものがね。」

 全員がっくり。

「エスメラルダ。年の功って今打ち明けるべきじゃない?」

「悪いが箱入り娘でね。料理は無理だ。」

「クロウ」

「チッ。俺の趣味の料理で何人が教会行きになったかわかるか?罪深かったあの頃……悔い改めます……」

「チップ!」

「昨日助けた村の奥さん、レシピぐらいくれるんじゃねえの?」

「レシピ!!」

 ラゴゥが頭をかいた。

「でも、奥さん、家族を取り戻して、今夜が久しぶりの食卓だろう?気合いの入った食卓の邪魔するのはな……。」

 わたし、紙袋を漁る。

 あった!

「肉屋がくれたレシピ、あるよー!!」

「それだあぁ!!!」


 わたし達のランチボックスには、常備されたケチャップとマヨネーズ。

「これを使う日が来たのね……」

 エスメラルダはふつふつ、お湯の中の卵を見た。

「ゆで卵、出来たら潰してね」

「それだけでいいの?」

 包丁仕事はラゴゥが、タントンタントン、刻んでる。

 皆が怯んだ揚げ物は、クロウがポイポイ、うまいものだ。

「クロウの兄貴、そっちはトリカブト。胡椒はこっち」

「ダメか……」


 チキン南蛮 (レシピ考案/猫芦みぃ)

(2人前)


 ・タルタルソース

 お湯を沸かし、塩を数振りとお酢を大さじ1入れたお鍋に卵4個をゆっくり入れて10分茹でておく。

 玉ねぎ半分を細めのみじん切りにしてボウルに入れる。

 マヨネーズ大さじ10、ケチャップ大さじ1(多め)、塩胡椒適量を入れておく。

 卵を茹で終わったら、冷たい水をいれた器の中でゆで卵の殻を剥き、ボウルに投入する。

 白身が多少小さめになるまで卵を砕きながら混ぜ完成。

(ピクルスのみじん切りや粒マスタードをいれると、さらに贅沢な味になるよ!)


 ・南蛮酢

 しょうゆ大さじ4、酢大さじ5、砂糖大さじ6、ケチャップ小さじ1を混ぜて、お皿にラップをし1分ほどレンジで温めておく。


 ・チキン

 フライパンにサラダ油を注ぎ、熱しておく。

 鶏肉に塩胡椒を適量し、小麦粉適量(多め)を念入りにまぶしてはたいておく。

 卵一個を溶き卵にしておく。

 油が温まったら、鶏肉を溶き卵に両面くぐらせて焼き揚げにする。

 両面がしっかり揚がったら、南蛮酢に揚がったお肉をサッと浸けて衣をしっとりさせる。

 お皿に鶏肉を盛り付け、上からタルタルソースをかけ、タルタルソースの上から余った甘酢をお好みの量かけて完成。

 お好みでパセリを上にかける。


 揚げたてホカホカのチキンに、南蛮酢を塗り、タルタルソースを贅沢乗せ。

 アジア貿易の本領発揮!

「ん〜!!おいしいわぁ〜!!」

「んまぁ!!にゃあ、るーより、ひきんなんばんがすきらぁっ!!」

「うめぇな」

「飯進んじまうわ!!」

「お弁当でしかチキン南蛮を知らなかったから、揚げたてのチキン南蛮にこんなに肉汁が出るとは、驚いたねぇ!」

「今後も、こうやって皆で作ったらいいかもね。市販のルーより美味しくて安いし。」

「しかもクロウ揚げ物うまいのね!パリパリじゃない!」

「くろ、てんしゃい!!」

「トリカブトを戯れに入れるより、実用性のある旨い飯か……確かに、レシピを集めてみんのも悪くねぇ」

「トリカブト?」

「たはは。兄貴、内緒内緒!!」

「ふっ」

 わたしもレシピ集めに大賛成だなぁ。

 こうしてわたし達パーティーの初料理、チキン南蛮は好評のうちに、みーんな、お腹の中に収まったのだった。


 わたし達のグルメと珍道中は、まだまだ、始まったばかり。

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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