第1話 チキン南蛮 1
このお話は、勇者パーティのヒロイックな武勇伝や、転生魔王の愉快なダークファンタジー……ではない。
第1話 チキン南蛮
エルン=ファルファロ歴825年。秋も入ってわたし達パーティーは、温泉目当てのマカトフ村に滞在し、竜退治クエストに挑んでいた。
ま、竜退治前にわたし達が相応しいかどうかの、村長の試練クエストだけどね。
「村長の依頼こなせたよね!?」
「バザーの出品間に合う!?」
「バザーはチップに任せる、先行けー!!」
「あーいよッ」
ドタバタ、ドタバタ。
夕刻、わたし達パーティは急いでマカトフ村に入る。
「ラビとニャビは買い出し行っていいよ。俺たち村長んちで報告してくるから。」
「話長いもんね村長。じゃあ、買い出し行くよ!」
「にゃあも!!」
パーティリーダーのラゴゥがお財布をわたしに投げて、ここからは別行動だ。
わたしは小さなニャビの手を握り、途中までは一緒に歩いた。
「よし。わたしはお肉と玉ねぎ買ってくる。ニャビはルー買ってきて。」
「にゃあのすきなのでいいの?」
「いいよ。っていうか、苦手なルーは食べれないじゃない、ニャビが。はい、こっちはお菓子代。ルーの後ね。」
「らびぃ、ぱんぱんは?」
「パンパンはまだ宿に残りがあるよ。寄り道しないでね?」
「うゆ!!」
「じゃあ、行こう!!」
例え田舎の冒険者でも、レストランには入れなくても、食べておきたい格安肉。
「残ってた!鶏ももかぁ……豚は全滅……」
「お嬢ちゃん、何に使う?」
「煮込みかなぁ。玉ねぎと肉で、火が通ったらルーをぶち込む」
「なら、クリームシチュールーがいいね。鶏肉によく合う。それにしてもなんだ、冒険者さんはルーを買いまくるとは聞いたが」
「日持ちするんですぅ。それに料理が苦手な皆で作れるし……鶏もも大盛り二つください。」
「毎度あり〜!ついでに、こいつは親父の良心、持ってきな。」
わたしはチラ見した。ビラだ。
「レシピ……?」
使わないだろうけど、貰えるものは病気以外ならなんでも貰うかんなぁ。
わたしが玉ねぎを買い終えた時、チップにはちあわせた。
「チップ、バザー終わったんなら手伝って。今日の利益は?」
「アメジストがだいたいひとつ4000だな。値が下がってるぜ、明日はもっと安くせにゃ売れないね。」
「あの石買ってくれるだけ有り難いじゃないの。あんなの、田舎の宝箱にはごまんとあるよ。」
「けっ。馬鹿もん。アメジストは立派な宝石なんだよ、この地方原産の。魔術師や貴族連中、色んな奴らが買いたがるから、田舎側の俺たちのバザーが成立してんの。これが今ひとつたったの4000だぜ、景気悪すぎだろ。」
「あ。ほんとだ!宿屋の宿泊費が値下げしてる!景気わるーい!!チップ、荷物はわたしが持つから、すぐ交渉行ってきて!わたし達の滞納料金も値下げしてもらえるかも」
「いや、ねぇだろ。」
「いいから行け!」
わたしはチップを蹴って送り出す。
「おまいはァ!人使いの荒い奴め……」
そうして、宿の二階の部屋へ。
荷物を置いて、クーラーボックスの残存魔力を確認。まだまだばっちり。魔力が切れたら、ソーサラーに冷やし魔術をかけてもらうの。
「お肉よし。人数分の野菜ジュース……よし。」
大人数用の部屋で、幸いわたしはベッドを使わせてもらってるけど、男性陣は雑魚寝のメンバーもいるから、ラグは今のうちに綺麗に掃除してあげて、せめてものクッションを綺麗なやつと取り替えておく。
「ラビ!!あぁ、キッつい、……ラビや!!」
大声に気づいて、階段まで迎えに行く。
「エスメラルダ、今行く」
「あ、いたたたた……うっくぅ、だから嫌なんだよ二階部屋は!!」
エスメラルダだ。
うちの戦士は頑固なおばあちゃん。
病気の旦那さんを最後まで介護して、その死を見届けてから、世界を知りたくなったんだとかで、冒険者になったんだ。一応、お子さん達が暮らす街に行く度、引き止められるんだけど。
「ほら、一段、も一歩。こんなに腰が悪いのにどーして前衛職になんかなっちゃったの?」
「階段とモンスターは違うさね。階段に比べりゃ、魔物なんか可愛いもんよ。あいつらは怯めば逃げるしね。」
そうなんだ。この人、魔物相手には猛女で、回避を捨てたその突進で数多の事件を解決した。回避しないんだから、毎回新しい鎧はかかせないけど。その勇敢さで快進撃。各地の村から画家や彫刻家が遣わされ、田舎じゃ有名人なのである。
そのエスメラルダが悲鳴を上げたクエストは、段差のあるダンジョンでの魔物退治。うちは二度とダンジョンは行かない。
「次の村では一階に宿泊出来るといいね。」
「あぁ、ラビや。靴はずしとくれ。屈めないよォ……」
エスメラルダはベッドに沈んだ。
宿のスタッフさんがお知らせに来た。
「一階で、温泉の準備が出来ましたが……」
「うわあああ!!なんでよりによって温泉が一階なんだい!?女湯だけ一階しか無いの!?」
「エスメラルダ、さすがに今日は二階の混浴入ろう。そもそも、エスメラルダの為の温泉旅行なんだからさ。」
エスメラルダは意気消沈。
「無理。夜中に一階の女湯に行くよ……夫以外にこの玉のお肌は許さないよ……」
頑固なんだから。
ラゴゥが上がって来た。
「よ、ラビ。エスメラルダどう?」
「どうもこうもないわよ。このまま二階暮らしじゃかわいそう。」
「だよなぁ……。」
「村長は?」
「だめ。俺たちじゃ頼りないからって、別のパーティに依頼したみたいだ……」
「そんな。散々お使い依頼こなして来たのに」
「だよなぁ。そんでクロウがキレちゃって。あれ、チップ。」
チップが帰ってきた。
「一階の部屋に引っ越したら滞納料金も一階部屋料金に変えてくれるとさ。なんか、明日から大事な客が二階に来るらしいぜ。一階にうつってほしげだったから、俺たちだって繁盛期に来たから二階しか空いてなかったって押してみた訳よ。」
「やったー!えらいよチップ!エスメラルダ、今日は女湯入れる!背中洗ってあげるからね!」
「チップ。アンタは見込みがあると思ってたよ。宝箱は開かないが、人の心の鍵は開けられる男さ。」
「うるせえやい!ばばあ!!宝箱が開かなかったのは一度か二度じゃねえかよ!」
チップ。
手先より口車の上手い盗賊である。
手先より頭が得意だから、日課はバザー管理。
なんでも師匠を騙しては酒で酔わせ、ろくに修行をしなかったらしい。
素早さが売りなので鎧はつけていない。
盗賊伝統のタイツは着ない。
一度、ある事件で宝箱を開ける時、チップの取り出した針金でタイツが破けて、ブーツの上全部丸出しになった。わたしも忘れられないけど、チップはそれがあって二度とタイツ装備はしなかった。
ラゴゥがエスメラルダを背負って尋ねた。
「ニャビはまだ?」
「まだだけど、ルー代の他はお菓子代あげたから、悩んでるんじゃない?」
「お前、ニャビにお使いさせたのかよ。全部お菓子代になるんじゃねーの?」
チップが冷やかした。
「ニャビはもう三回はお使いこなしてきたよ。まぁ、でも今日は遅い。わたし、迎えに行くよ。」
ラゴゥが言った。
「チップ、ついて行って、何かあったら二人を守って。その時はラビとニャビが俺たち呼びに来て。」
「はーい!」
「あーい。」
ラゴゥ。
本名はラゴゥルレッド・フォン・イグニナイツ。
パーティリーダーで、こっちも戦士。
由緒正しい騎士の家系の長男。
非の打ち所の無い美男だし、親切だし、紳士だ。
まぁ、エスメラルダに比べたら名声はないけど、腕だって立つ。
エスメラルダに比べたら……ずっと皮の鎧を新調出来てないし……剣だって最初から使ってた家宝の、お下がりみたいな剣だけど……
いいひと過ぎて、地味ではある。
かわいそうに。
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