第7話 王都アポロメルタン裏グルメ集! 7
会議が終わって、わたし達、グッタリ。
エスメラルダがちょっとでも休みたいから、コルセットを外してあげて、寝巻きに着替えさせてあげて、いま女中部屋はわたしとマリアンヌさんだけだ。
「カイヤさんに知らせなくちゃなのに、余力が無いよ……。」
わたしが間に合わなくて、わたしも汗だくになりながら走りまくったけど、わたしより仕事でクタクタのマリアンヌさんが、フラフラと立ち上がった。
「わたくしが行きましょう……」
使命感強過ぎる!誰か止めてあげて!!
「マリアンヌさん!無理し過ぎよ、倒れちゃうわ!!誰か来て!ラゴゥ!!」
「……ここかな?」
ラゴゥだー!!
「お願い、マリアンヌさんを休ませて!会議の内容、カイヤさんに伝えてくれない?」
「はーい、了解〜。」
駆けつけたラゴゥが、マリアンヌさんを抱えてチェアに座らせた。
「ポンパドゥール侯爵夫人はお休みください。じきに正装も届きますから、そちらの対応を。俺がカイヤ姫にお知らせに参ります。」
「しかし、殿方では姫の室内はご禁制ですわ。」
「ドアを開けていただいて、部屋の外でお話しましょう。」
「……頼みました、ラゴゥルレッド殿。」
ラゴゥが去ると、マリアンヌさんが告げた。
「後からお説教とは言いましたが、お説教は無しです。アシュリカ。貴方なりに、わたくしを思いやってくれたのでしょうから。」
「マリアンヌさん」
「次回からは、腕時計を欠かさずに見るのですよ。」
あー……。
「マリアンヌさん。実はわたし、おばあちゃんのくれた腕時計、壊れちゃったままで……」
「え?」
「ひーん。うちはあくまで貧困パーティだから直せなくて……しかも、わたしもエスメラルダも、服ばっかり買っちゃう悪癖持ちだし。時計は、ラゴゥやチップのをあてにしてました。」
「時計を持っていないのですか。」
恥ずかしい話だけど。服はまだまだ断捨離出来てない上、時計の修理すら出来てない。
マリアンヌさんは、手首の綺麗な、パールのブレスレットみたいなのを、外した。
わたしに、差し出している?
「この時計をお使いなさい。貴方には、きっと必要です。」
このパールのブレスレットみたいなの、時計だ!
「こ、こんな高価そうなもの、受け取れません!マリアンヌさん、わたしこれでもがめついんだから!早くしまって!!」
マリアンヌさんは、優しくわたしの手首に時計をつけた。
「わたくしの、今は亡き、妹の時計です。貴方はほうってはおけません、アシュリカ。きっとこれも、妹の導きなのでしょう。」
え……
「亡くなったの?妹さん……マリアンヌさん、そんなに大事なもの、なんでわたしに?」
マリアンヌさん、優しい眼差しをしている。
「わたくしの妹は、流行病に勝てませんでした。あの子は、あわてんぼうでおっちょこちょいですが、根は清廉潔白な子。きっと善の天使になって、貴方を守ってくれるでしょう。品というのは、ゆくべきところへゆくのです。わたくしはこれでも貴族夫人ですから、変えの時計はある。気になさらず、お使いなさい。」
マリアンヌさん……
きっと、妹さんを思い出しているのね。
わたしは、マリアンヌさんの妹さんに、似ているのかなぁ。
思い出の、時計だ。
「わたし、どんな服より、大事にするね。マリアンヌさんの妹さんの時計。」
「ふふ。修理費に困ったら、ここに送りなさい。直して返してあげます。」
サラサラと、綺麗な筆記体だ。
マリアンヌさんの、住所?
わたし、置きっぱなしにしてたトランクを開けて、マリアンヌさんの書いた住所を手帳に貼り付けた。
大切なものだから。
「少し、旅をする貴方が、羨ましいです。様々な経験や感動が、あるのでしょうね。階級に縛られた、わたくし達貴族社会とは違う。」
わたしはマリアンヌさんの手を捕まえた。
「わたしが、手紙書くよ!わたしが感動したことやびっくりしたこと!マリアンヌさんのことも、びっくりさせてあげるからね!」
マリアンヌさんは微笑んだ。
綺麗な笑顔。
こういう人も、いるんだ。
厳しくて、口うるさくて、でも心から世話焼きで。
貴族って立場に縛られてても、応援してくれる人が。
なによ。今までわたし、なんでこういう人に先入観があったのかしら。
夕方五時前。
お針子さんが、納品にやって来た。
昨日のローズ・ベルタンさんが、お針子さんと話しながら、歩いてくる。
「ベルタン嬢!仕上がりは如何ですか?」
マリアンヌさんとわたしが駆けつけた。
ベルタン嬢はグッドサインだ。
「完璧ですわ!ペンテシレイア王女様のお好みの綺麗色のドレス数着に、戴冠式の正装は王家の伝統の白薔薇模様。もう無理なコルセットはいりませんわ。カイヤ姫のお好みのロイヤルブルーのシンプルエレガントドレスや、ブラックの肩リボンドレス、戴冠式の正装。戴冠式の女中一同の慎ましい黒いドレスには、ニャビちゃんのジャストサイズも。久しぶりの王家の仕事に、針子達のモチベも絶好調です!」
わたし達、ドレスを見せてもらえた。
「すごーい!!一日目にインタビューした通り、各自の好み使用だァ!!それに、エスメラルダの正装のドレス!なんて綺麗なの!!」
「王家の白薔薇模様は、王家のみが許されるデザインです、アシュリカ。フランク=バジリコ王国で最も美しい花柄とされています。」
「頷くしか出来ない!!だって、美しいものー!!」
ベルタン嬢、わたし達用のドレスを見せた。
「貴方様達、女中も、王家の女中ですから。胸元に白薔薇の刺繍を入れましたよ。」
「ひゃわー!嬉しい!お揃いの白薔薇刺繍だァ!しかも、初めてのマイサイズドレス!!」
「こちらの箱は髪飾りやアクセサリーの一式です。こちらがペンテシレイア王女、こちらがカイヤ姫。こちらの箱は、貴方様達の髪飾りですわ。」
アップした髪にとめる、大きい黒いリボンだ!真ん中に金縁のパールがついてるの!
「わぁーい!!わぁーい!!」
「無邪気に喜びますこと。本当に服が好きなんですね、アシュリカ。ですが、早くドレスをクローゼットに運ばねばなりません。晩餐会まで、時間がありませんよ。」
「よぉーし!頑張るぞーっ!!」
マリアンヌさんとわたしで、まずカイヤさんのドレスを運んでく。
「カイヤさーん!クローゼット開けてー!」
「アシュリカ!カイヤ姫をこき使っては、なりませんよ!」
カイヤさんはクローゼットを開けてくれて、ドレスにびっくりしてる。
「早ッ。昨日言ったドレスが?」
「王家の針子達は常に王家が最優先なのです、カイヤ姫。」
カイヤさん、何か察した。
「マリアンヌさん、なにか、夜更かしした?貴方、疲れ過ぎてやしないか?」
え?夜更かし?
「……少々、夜更かし致しました。ですがお仕事には手抜かりありませんわ。」
カイヤさんがベッドを勧めた。
「仮眠したら?ニャビだって寝ている。」
「お気持ちを有難く受け取りますわ。しかし、スケジュールがつめつめですから、仕事を致します。」
わたし達、次はエスメラルダの大っきいドレス、引きずらないように、シワにならないように、運んでった。
「エスメラルダー!見てー!超綺麗な正装よー!!」
エスメラルダもひとしきり感動。
「この白薔薇模様は、王家でも王か女王しか着れないんだ。王妃だって着れないんだよ。あたしが、これを着る日が来るとはねぇ。さすが国で一番美しい花柄だ。いずれカイヤにも、着せてやりたいね。」
わたし達、さらにクローゼットにドレスやアクセサリーを運ぶ。
「これもー!綺麗色のドレスに、めちゃめちゃすごいイヤリングとネックレスー!!戴冠式は王冠をかぶるから、髪飾りはしないんだってー!」
エスメラルダ、イヤリングとネックレスに注目した。
「これを使った後、売り払っちゃあいけないの?これだけの高価なアクセサリーだ、しばらく旅の路銀に困らないんじゃあないのかい?」
わたし、ピンと来た。
チップの話、思い出した。
「ダメよエスメラルダ!王家のお金は国民の税なの!国民の税をわたし達のパーティで勝手に使っちゃあいけないわ!!これらのアクセサリーは、次世代の為に、王家のお部屋に残すべきなのよ!!」
マリアンヌさんが褒めてくれた。
「偉いですよアシュリカ。ようやく学び始めたのですね。立派な女中になって……。」
そして、晩餐会だ!
ラゴゥ、チップ、クロウ、モコちゃんが、正装してやって来た!!
どこの貴族紳士よー!見違えたわー!!
まぁ、モコちゃんだけは首輪のリボンタイで、変わらないけどこれがまた可愛いのよね。
エスメラルダは綺麗色のドレス、カイヤさんはロイヤルブルーのドレス。
「ニャビー、おいでー。」
「ラビはなんでこないんだい?」
わたし達、キリリとお仕事モードだ。
「にゃあは、おさらはこぶかかりっ!!」
「わたし今めちゃめちゃ成長した女中なのよね。おもてなしは任せてよ!楽しんでってねー!!」
マリアンヌさんが苦笑。
「無理せず、ここはわたくしに任せて、行きなさい。アシュリカ、ニャビ。」
「わたし達マリアンヌさんと女中するのー!!」
「ぽんぽん、にゃあにおしごと、まかしぇてお!!」
わたし達は給使に回り、うちのパーティは食べる食べる!!
お酒中心なのはクロウぐらいで、まぁ、クロウはご馳走慣れしてるんだろうけどさ。
そして何故かわたし達と一緒に皆のお世話に回るラゴゥ。
「皆〜おかわりいかが?運ぼうか〜?」
「ラゴゥルレッド様、迎賓なのですから、お座りになられてください。」
「俺?気にしないでください。皆のおかわり運んだりするのが、俺のライフワークですから。」
ラゴゥ、本当に貴族の坊ちゃんなの?
まぁ、確かにいつも、旅館の女将みたいに、ご飯もりもり盛ってるけどさぁ。
エスメラルダは昨日は全然食べなかったのに、今日は笑いながらもりもり食べてるわ。
コルセットも辛かったんだろうし、何より今日は皆がいるもんね。
ご飯が何倍も美味しいのよね。
「うんめぇ!!ラビ、おまい、こんなご馳走食わんの?」
後から食べれるからいいんだもーん。
「気にしないで。ほら、チップ、こちらは王家の御用達のシャンパンです。どうぞ。」
わたしはチップのワイングラスにシャンパンをそそいだ。
「おまい、割と様になってるじゃねえの。」
クロウもワイングラスを寄越した。
「おい肝っ玉。俺にも寄越しな。」
わたしはワインの匂いを嗅いで、ソムリエのフリをしたが、これは無理だ。マリアンヌさんにヒソヒソ聞いてから、年代物を出した。
「お酒が好きなクロウにはこちら。30年物のマロヌスブランドの赤ワインです。」
わたしは得意げに、クロウのワイングラスに赤ワインをそそいだ。
クロウは香りを嗅いで、わたしより詳しく語った。
「マロヌスブランドか。王家縁のマロヌス葡萄、この香りと舌で転がした味は、間違いねぇな。30年はちと浅いが、マロヌス葡萄ならではの充分な芳醇さをもっていやがる。」
あんた、シーフLv90台で、ソムリエLvもどんぐらいあんのよ。
ニャビは型崩れしないしっかりしたパイの大きいお皿を、慎重に慎重に運んでいた。
「あい!しおみざかなの、くいーむしょーしゅぱいえすっ!!」
わたしも今回で、ニャビの真面目さを思い知ったわ。割と責任感しっかりあったのね。
「ニャビ、偉い……頑張ってるね。」
「ニャビの意思なのよね……歯がゆいけど……」
ラゴゥもわたしも、子離れ出来ないバカ親モード入っちゃうのよ。
「そんでさぁ、クロウの兄貴がいくらキレても、うちのバカ親父喜んじまって。どこのドM盗賊だよ。俺は魔王軍と共闘した盗賊団ラウムの頭だ。あんまりうぜぇと、殺すぜ?に対し、かっこいいー!!クロウさん良いね!!最高だ〜って!」
「あの夢見る親父には、ラウムの名は喜びなんだろうよ。ったく。ドM盗賊め。」
「ガッハッハッハッハッ!チップの親父さん、そんなに言われちゃ不憫だが、確かにドMだよ…………うっ!?」
「エスメラルダ?」
エスメラルダ、丸まった。
「なんか、お腹痛い……それに、半端なく腰がぎっくり来た。」
「大丈夫!?」
カイヤさんが冷静に指摘。
「母さん、食い過ぎ。腹がデカくなり過ぎて、重たさで腰にぎっくり来たんだよ。」
そういうカイヤさんも、お腹回りパンパンよ。
カイヤさん立ち上がって、エスメラルダに肩を貸した。
「母さんとわたし、トイレだから。楽しんでって。」
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