第7話 王都アポロメルタン裏グルメ集! 2
靴までしっかり履き替えて、わたし達はいそいそと、王家の部屋へ。
外では、もう花火のオンパレードだ。
「エスメラルダ、お待たせっ!!」
「アシュリカ、言葉遣いを……」
エスメラルダがポンパドゥール侯爵夫人に告げた。
「ラビとあたしの仲で、敬語なんて。ポンパドゥールさん、気にしなくていいんだよ。」
「かしこまりました。ペンテシレイア王女、お召し代えを。ベルタン嬢、こちらへ。」
当然だけど、エスメラルダは中年太りのおばあちゃんだから、若かりし頃のスマートなドレスは入らないし。
目元は若い頃のまま、空想が膨らむくらい美しいけれど、服はいつだって大きいサイズで買ってきたのだ。
わたし達はドレスを漁るが、エスメラルダ程大きいサイズが無い。
「今日一日だけでも……亡くなった皇太后様のドレスは、如何でしょう?」
ポンパドゥール侯爵夫人に、ローズさんが測りながら告げた。
「体型は近くていらっしゃいますが、ちょーっと、皇太后様の方が、ウエストが細いんですよね……。」
「皇太后様のコルセットを使いましょう。ペンテシレイア王女、少し痛むかもしれませんが、ご容赦くださいませ。すぐに、専用のお召し物が完成致しますから。」
エスメラルダは壁に逃げていく。
「嫌だよ!コルセットは苦手なんだ、良いじゃないか、ドレスじゃなくても!!」
「王家の尊厳に関わりますので!ベルタン嬢、アシュリカ!王女様を捕まえてください!!」
わたし達、必死に捕まえるけど、なんせエスメラルダは猛女様なんだよ?
簡単に吹っ飛ばされちゃうよ。
「あ、いたたたた。腰打った。」
「え!?ラビや、ごめんよ!大丈夫かい!?」
「大丈夫、大丈夫よ。エスメラルダがコルセット締めてくれたら、わたしの仕事的には特に。」
エスメラルダ、大人しくなった!
「……コルセット締めるよ。ラビをぶっ飛ばす訳には、いかないからね。」
かくして、エスメラルダはコルセットをぎゅうぎゅう締められ、皇太后様のドレスが入った!
かわいいドレスじゃないの!
薔薇の柄のミントグリーンで、胸元に黒いシルクのリボン。
「わたくしは王女様の髪を編みます。アシュリカは靴を用意してください。ニャビは王女様のお膝で、励ましてください。」
ニャビがエスメラルダのお膝にゆくと、エスメラルダはしっかりニャビを抱きしめた。
わたし達、エスメラルダの次は急いでカイヤさんの部屋へ。
カイヤさん、今日はたくさん食べてないから、エスメラルダの若い頃のドレスが余裕で入った。
すっごく綺麗!品のあるペールブルーだ!
「なんか……ダサいな……」
エスメラルダの若い頃の好み、カイヤさんにはいやかぁ。
綺麗色で、とってもお姫様なんだけどなぁ。
「すぐにカイヤ姫専用のドレスが完成致しますわ。しばし、我慢なさってください。ただ……わたくしから見て、ペンテシレイア王女のセンスは大変美しいかと。カイヤ姫は、お好みにこだわりがあられるご様子。事前にお聞きしなければ、専用のドレスも、貴方様からしたらダサくなってしまいますわ。ぜひ、ご意見をくださいまし。」
カイヤさん、面倒くさそうに頭をかいた。
「まぁ!王家の姫君が頭をかいてはなりませんよ?万が一、臣下の前で頭皮がちょっとでも剥がれたら、威厳が台無しです。」
「……頭ぐらいかくわ。わたしの好みはロイヤルブルーやブラック、パステルカラーは苦手だ。」
「承知いたしました。リボンの加減は?フリルの加減は?」
「リボン、別に無くてもいいけど……つけたいんなら、肩とか、腰にしてくれるか?フリルも別にいらないけど。」
「承知しましたわ。さぁ、髪をアップしましょう。アシュリカは靴を用意してください。ニャビは、カイヤ姫の見える範囲で踊っていてください。」
カイヤさん、変な踊りのニャビを見て吹き出した。
「ふっ……アンタ、子どもの扱い上手いな……」
「わたくしにも、愛し子がいますからね。まぁ、育ってしまいましたが。」
カイヤさん、親近感からか、尋ねた。
「育っちゃったか。寂しさを埋める為に、仕事を張り切ってる感じ?」
「そうです。子供はわたくしとは違う人生に羽ばたいて行きましたから、わたくしも負担にならぬよう、夢中になれる仕事をこなすのです。」
「貴方、名前なんだっけ?」
「ポンパドゥール侯爵夫人と。」
「旦那さんの名前じゃないよ。あなたの名前を聞いている。」
「……マリアンヌです。」
わたし、食いついた。
「素敵な名前じゃないのー!侯爵夫人より、マリアンヌさんがいいよ!!優雅なお顔に合ってますよ!!」
マリアンヌさん、圧力。
「アシュリカ。靴は?」
「へーい!テヘッ!戻りまーす!!」
カイヤさんが笑った。
「ラビさんの言う通りだ。わたしが世話になってんのは、旦那さんじゃなくて、マリアンヌさんだから。」
マリアンヌさんはどこか嬉しそうに、照れた顔を逸らした。
王家が二人、仕上がって。
急ぎ足で、晩餐の場へ。
どうやってタイミングを合わせたのか、宮廷料理はホカホカだ。
大臣さん達がやって来て、膝まづいてから、言った。
「よくぞご帰還なさいました、ペンテシレイア王女様。本日はお疲れでしょうから、明日改めて挨拶に参ります。我々は、政治、外交、魔王軍対策の話と、戴冠式の話をしに参りますので。王女様の御準備中に、ラゴゥ君から粗方王女様のご意向を聞いております。御安心めされよ。今はどうぞ、お食事と睡眠を優先なさってください。」
大臣さん達が去って、エスメラルダとカイヤさんは目を合わせた。
「マリアンヌさん?エスメラルダ達、食べていいのよね?」
「勿論です。さぁ、王家の御二方、お召し上がり下さいませ。」
エスメラルダが聞いた。
「あのさ。ラゴゥやチップ、クロウにモコはどこなんだい?あたしは、皆で食べたいよ。」
「了解しました。明日からは、迎賓としてお呼び致しましょう。」
カイヤさんがエスメラルダをつついた。
「今は食べるしかない。ドタバタしてたんだ。」
「ラビとニャビは?」
「アシュリカとニャビは女中です。王家の食事の後で、わたくし共は食事を済ませます。」
ひーん。
なんか、なんだか話が違うじゃないの。
そりゃ、ご馳走を目の前に我慢するのも、キツいけどさぁ。
それ以前に、エスメラルダと引き離されるような、この感覚はなんなのよ。
絶対、後でエスメラルダの部屋行って、話し込んでやるんだからね。
エスメラルダとカイヤさんの晩餐が終わって、ドレスから寝巻きに着替えるのを手伝って、ベッドに入ったら、天蓋のカーテンを閉める。
「ラビ。あたしゃまだ起きてるから、気が向いたら来なよ。」
「うん!!エスメラルダ、ワイン飲んだから、トイレも行くでしょ?わたし、近くで寝るから、起こしていいからね。じゃ、寝る前に来るねー!」
ようやくマリアンヌさんとわたしとニャビは、食堂へ。
出されたのは、エスメラルダ達が食べきれなかったさっきのご馳走ではないか。
「王家の女中はそこらの貴族より食生活は豊かです。王家と同じ献立を食べられるのですよ。有り難く思いなさい。」
「た、確かにご馳走だけどさぁ〜……これって、いわば残飯整理じゃないの?」
マリアンヌさんは至極真っ当な意見で返した。
「残したら捨てる等という概念の方がよろしくありませんよ。それではただの散財、お金を水に流すようなものです。王家のご馳走の残り物は、わたくし達宮廷スタッフが食べて片付ける。それならわたくし達の夕飯代もかかりません。」
た、確かに……。
わたし、ゼリーに包まれてハムに巻かれた、何らかのご馳走を食べてみた。
「うんまっ!!なにこれ!?こんなの、食べた事無いッ!!」
格が違い過ぎて、何がなんだか。
「アシュリカ……貴方は臨時女中ですし、もう注意はしません。」
「あっ。おいしーでーす!」
ニャビに至っては、夢中になり過ぎて、美味しいも言わない。
「ふふ。小さい子がいて、初日の緊張はだいぶ薄まりましたね。」
ニャビ、ようやく話しかけられたと気づいた。
「モゴモゴ。ぽんぽん、にゃあ、おしごとれきてた?」
「出来てましたよ。アシュリカも、初日にしては上出来です。英気を養うためにも、たくさん食べるのですよ。」
なぁーんか、マリアンヌさん、口うるさいけど憎めないのよね。
飴と鞭が上手いのよ、これが。
教え上手ってこういうことなのかしら。
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