第6話 減量レシピ!ベオアルス卿の為のヘルシー献立!! 4
チップ、蒸し器を値段交渉中だ。
「で。サービスの点心のレシピも欲しいとこ。この店のディナータイムのレシピ……は、企業秘密だろーし。ここ、封印かかってねーだろ?ヘルシーで辛くて、美味いんじゃねぇの?」
「蒸し料理はヘルシーだからね。ただし、餃子やシウマイの皮は、現状は使っちゃだめだよ?カロリーが高いのよ、皮が。レシピは、蒸し器の競り次第かなぁ。ただしウチの秘伝のラーメンレシピはダメよ。ご当地グルメだから、売り上げ無くなっちゃうからね。」
「商売人めー。だいたい、この竹の蒸し器、お古だろーがい。」
「失礼だねぇ。きちんとビニールに包んであるから汚れてないよ。これは、せいろ。蒸し器の中のナンバーワンよ。」
ラテさんが陶器を置いた。
「これも買いたいんだけど、レシピはつくかしら?」
店主さん、布巾で埃まみれの陶器を拭いて、メガネをかけて皿を確認。
「おや、お目が高い。この美しいブルーの加工は、我々の国の国家遺産的な技術なのね。元々は、王侯貴族の為に入荷したんだけど、魔王軍魔王軍て、芸術には振り向かないし。マロン=マロヌスの王様が死んで、わしもこんなに年寄りになった。わしが死んだらゴミ同然に捨てられるか、同じアジア民に持ってかれる運命よ。お安くしとくから、買いなさいよ。家宝にしてもらった方が、わしにも悔いがないからね。」
ラテさんとわたし、びっくり。
「こんなに安値で、いいの!?」
「ははは。わしは商売命過ぎた。新品せいろはしっかり買ってもらうがね、管理を怠った陶器ぐらいは、安くしなきゃあね。独身だから、老後の金も足りているし。だから、価値のある陶器は、買って行ってね。」
「わたしも!わたしも買う!!深めの麺皿と中国茶のティーセットがね!すごくない?中国茶のティーセット本格的なのよ!!」
「おまいは買いすぎだっつーの!麺皿はともかく、ティーセットはもう人数分持ってるだろーがい!」
チップと店主の睨み合いだ。
「で?価値が高い陶器は値下げして、なぁんでせいろは高い訳?」
「せいろは管理怠ってないし。わしらの大事な食文化。竹のせいろはとても価値が高いもの。それにせいろは鍋付きセットでしょうよ。ただし!二個買うなら5%割引!」
チップ、打って出た。
「三個買うから、一個の値段にまけろい!!」
「ハッハッハ。一昨日出直しなさいよ。街は困ってるんじゃろ?皆、ヘルシーな蒸し料理食べたいよね〜?でも、道徳的に協力はしなきゃね。五個買うなら四個の値段にしてあげてもいいよ?」
チップ、立ち上がり、店主をスルー。
「ラビ!ラテさん!帰っぞ!」
「えぇ〜!?短気起こさないでよチップ!わたし達、まだ買い物したいのに……」
「来いっての!強突く張りの商売人には、一円だって払っちゃなんねぇ!!来た道戻ろうぜ。似たのが売ってたかんな。」
わたしとラテさん、チップの狙いがわかって、従って店を出ようとした。
焦った店主が叫ぶ。
「せいろ五個で値段は三個!!」
「あんなにビニール埃まみれなのに?最大で中性洗剤しかいけねぇんだろ、あれ。洗う手間を考えろやい。さ、交渉決裂だな。」
「せいろ五個で値段は二個分ッ!!中華鍋は半額!!持ってけ、最安値だっ!!」
わぁー!!
すっごい安くなった!!
チップもホクホク顔でお支払い。
「安心しな、ラーメンももっと儲かるぜ。アンタのとこで買ったせいろで、ベオアルスを追い出してやっからよ。アンタの店は俺らが語っとくから、客が怯まねーように、商品磨いときな。」
「酷い客に当たったもんだ。磨くから、本当に宣伝してね……この値下げ分、儲からないと、割に合わないのよ……。」
わたし達も念願の陶器をゲット!
わたし達大人数パーティに加え、今後もエスメラルダのお子さんが加わることを踏まえて、数枚多めに買っておいた。
漆黒の塗りにでこぼこ具合、料理が映えるわー!
ラーメンにも使えるし、チャーハンにも使える!パスタも良いわね!
「チップ君は上手いわね。うちのパーティにも一人は欲しい逸材だわ。」
「宝箱は開かないけど、口先は誰より達者な盗賊ですから。」
「宝箱開かなかったのは、一度や二度でい!いつまでも語り継いでからにー!!」
「ふふ。交渉上手な盗賊は中々いないわよ。ところで、ラビちゃんの買った、その深皿は、なにかしら?」
ラテさんにはわたしから解説した。
「和食や中華で、そばとかうどんとか、麺類を食べるから。だいたいスープでヒタヒタになるのよ。この黒塗りのデザインなら、どっちにも使えるし高みえするでしょ?」
ラテさんは気づいた。
「そば粉……国産でも、そばは作れるらしいわね。天ぷらそば……とかいう、ものすごく海老が美味しくなる料理?を聞いたわ。食べた事あるかしら?」
「エルンディアナの蕎麦屋さんで食べたよー。もんのすごく美味しい!うちは貧乏パーティだから、一度きりだけどねー。」
「夢のようね。わたし達は、王都アポロメルタンの後に、エルンディアナに行こうと考えてるのよ。」
チップがわたし達をどんどん急かした。
「でぇーい!おしゃべりは調理中にでもしやがれってんだ!もう夕刻、市場がしまっちまわあ!!」
やばーい!!
「チップ、レシピ見せて!」
「指示してもらって、手分けした方が早いわ。チップ君、指示を!」
「白ネギ!鶏ササミ肉!レモン!塩はあるから、豚ひき肉!グリンピース……」
夜に入った五時半頃。
エスメラルダとニャビのチームと、道で合流した。
「ラビや。あんた達、何買ったね?」
「お肉類かな。街の人も食べるでしょ?かなりたくさん仕入れたよー。ヘルシーの秘訣はアジアの料理に習ってきたから。エスメラルダは?」
「ニャビが荷物持てないからねぇ。ニャビにあたしが書いたカイヤのメモ、読んでもらって、なんとかね。野菜メインにたくさん買ってきたよ。」
チップがボヤいた。
「あれ。主食は?」
「あーーーッ!!」
わたしが叫ぶが、エスメラルダが制した。
「安心しな。カイヤの指示で、冷凍うどん買ってきたからね。」
「さっすがエスメラルダ親子!ナイスファインよ!!」
「まぁ、あたしには、カイヤが作るものは検討もつかないんだがね。」
ニャビはなんか食べてる。
「あれ?ニャビ、おやつ?封印されないおやつがあったの?」
ニャビは袋を見せた。
「しおあじの、ぽっぴゅこーんらお!あんまり、おいしくないお!」
まぁ、ニャビにとっては、素っ気ない味よね。ニャビは甘党だし、いつもならキャラメルポップコーンだしね。
「塩味も悪かねーぞ、ニャビ公。舞台鑑賞中なんか、塩のほーが集中できっしな。」
「にゃあ、ぶたいのとき、ためす?らびぃ、もっこいはいえぐーのぼーけん、いくんらよねっ?」
チップがわたしにしっぺした。
「何すんのよー!」
「ニャビに下ネタ冒険者舞台を観せるなやい。一人でいけい、この下世話!」
「連載終了で即舞台化なんて、人気な証拠なんだからねー!?」
市民の場所に帰り道歩いてると、教会からラゴゥとモコちゃんが出て来た。
「ラゴゥ!モコちゃん!契約出来たの?」
ラゴゥは緊張したまま、固まっていた。
モコちゃんは明るくしっぽふりふり。
「安心してー!今夜、ヘルシー料理が出来たら、僕がベオアルスを呼んでくるから。そこで判定勝負って感じかな!」
「そっかァ。モコちゃんの為にも勝とう!!」
わたしはなんだか様子がおかしいラゴゥに歩み寄った。
「大丈夫、ラゴゥ?どうしちゃったの?」
「なんか。モコが言うほど、フレンドリーな場じゃ無かったっていうかさ。昼から今まで張り詰めてた感じ。ベオアルスは人間には敵意は向けないけど、モコにはバリバリ怒ってたしなぁ……」
「なんで?」
「なんか、魔族の契約は、貴族の領地の奪い合いと似てるみたいで。ベオアルスを追い出すということは、この街をモコの傘下に治めることだから。モコは前科あるらしくてさ。ベオアルスはどちらかというと人間保護寄りらしくて。そりゃあ、信頼が無いまま行ったら、怒るよ……。俺じゃなくて、ラビが行ってたら、誤解はとけたのかもなぁ。」
わたし、気になって尋ねた。
「下級魔族が挑んだから、怒った……ううん、昔のモコちゃんのことね?えーと、ベオアルスはどんな魔族なの?」
「あぁ、俺びっくりしたんだけど。ベオアルスに会うには、モコは正式な姿にならなきゃいけなくてさ。初めて人間型のモコを見たから。ベオアルスも人間型で、痩せた紳士って感じかな。俺にはユニークな貴族紳士って感じでいいひと、変人て感じじゃなかったよ。」
モコちゃんが告げた。
「いいひとだよ、彼はね。人間保護に走ったり、仲良しの人間食べたり、トリッキー過ぎて魔王様の言う事も聞かないし。でもね、魔力呪症にかかってる。あの魔族は、強くなり過ぎた。魔力を蓄え過ぎて病気になったんだ。もう人間を暴飲暴食出来ないの。魔力呪症は魔族の病気でね。悪化したら魔術はおろか、魔力を失うからさ。魔力が潰えたら魔族は消滅するの。だから、この街のヘルシー料理限定の呪詛は、余興じゃなくて、自分が生きるためな訳。治療中に必要な食生活のヒントが欲しいって感じかな。」
ラテさんが口を挟む。
「余興だと宣言していたし、アイツは笑っていたわよ?」
「あの人、変にプライド高いから、楽しむスタンスは崩したくないんじゃない?」
「ふーん。でも、多分ベオアルスが怒ったなら、それは名前を失う前のアスタロトの所業を知っているからだわ。あのトリックスターは、あれはあれで厄介だけど、人間虐殺を嫌うのよ。怒って部下の魔族の首を跳ねた話は、余りにも有名だわ。」
わたし、念の為に訪ねた。
「モコちゃん。昔のこと、どこまで覚えてる?力を取り戻したら、残虐になる感じは、あるの?わたし達との思い出、残るのかしら。」
忘れてしまうのは、悲しいな。
モコちゃんは最初は笑ったけど、わたしの眼差しを見て、誤魔化すのはやめて、真面目に答えた。
「お姉ちゃん。僕が残虐なのは、実は何も変わってはいないの。名前という力を失った僕は、昔何をしたかはわからないけど、きっとラテ=ジェラートが言う通り、ベオアルスに危惧されるようなことをしたんだ。でも、魔族にも、感情や親近感は、ある。共に過ごした相手には……だから、なんていうか……」
モコちゃん、慣れない言葉だから困ってる。
がんばれ。
がんばれ、モコちゃん。
「僕は、残虐だ。幻術の人間だって、あくまで紛い物しか作れなかった。だけど、仲間って意識が芽生えたらさ。興味本位だったはずなのに、人間を理解することは、遊びでは済まなかった。お姉ちゃん達と上手くやって、談笑している街の人を、とても襲ったり出来ないし……僕のパパはラゴゥ。ママはお姉ちゃんとカイヤ。甘えて困らせるけど、死んじゃうのは、嫌なの。それに腰が痛いエスメラルダが階段登って、無関心には、なれない。この気持ち、まだ、わからないけど……エスメラルダに長生きして欲しいって、人間みたいなこと、考えちゃうし。チップ兄ちゃんやクロウの兄貴、大好きな人を、食べたりなんて出来ないよ。だって、心が悲鳴を上げるんだ。それは、僕の友好関係で、大切なことなの。僕に懐いてるニャビだって、最初こそ引き気味に見てたけど、もうほっとけないしね。ちっちゃい子って概念が、お姉ちゃん達のニャビの扱いから、伝わったからさ。」
わたし、感動して、涙をボロボロ流しながら、ヴィオロンをかき鳴らした。
「人は種族の垣根を超えて
魔族の子にも愛は伝わってゆく
魔王でも勇者でも無く
愛は皆を豊かに変えるもの
本当に素晴らしいものは仲間
小さな魔族の子がここに共存を語った」
チップが、歌に文句を言わなかった。鼻を赤くして、涙ぐみ、ティッシュで鼻をかんだ。
ラゴゥが、パチパチ、と、拍手してくれた。
エスメラルダは号泣しながら、モコちゃんを抱きしめていたし、ニャビは意味がわからなくても、モコちゃんの歌だとはわかってて、わたしにせがんだ。
「らびぃ、そのおうた、にゃあにも、おしぇーて!」
「グスッ。あがり症、治ってんじゃん。」
チップの涙につられて、モコちゃんが目をウルウル涙ぐませた。
「あれ?これ、なに?目から水が……前が見えないよ。」
エスメラルダが、しっかりモコちゃんを抱きしめながら、教えた。
「そりゃあ、お前さんの涙だよ、モコや。あたしが生きてるうちは、お前だってあたしの孫みたいなもんさ。ワガママで、残虐な時があっても、お前はあたしの大事な子だよ。」
モコちゃん、涙で顔をビシャビシャにして、毛並みがボロボロ。
ラテさんが、ラゴゥに一礼して、握手を求めた。
「貴方がリーダーでしょう?素敵なパーティだわ。吟遊詩人の歌も素晴らしいし……わたしも、もうモコと呼ぶわね。家族愛のようで、あたたかな気持ちになれる。貴方達とお近づきになりたいわ。」
ラゴゥは握手に応じて、微笑んだ。
「仲間は、俺の自慢の家族ですから。ラテさん、俺たちもこの先、王都アポロメルタンに向かうんです。馬車を共にして、宿を教え合いましょうか。ラビもすごく、貴方に懐いてるみたいだ。お世話になりました。」
「ふふっ。ラビちゃんに懐いてるのは、わたしよ。あの子ったら何にも知らないアニ村の出のわたしに、とても親切なの。」
モコちゃん。
初めて加わった日より、きっと、今なんだ。
今、ようやく、モコちゃんは、正式にわたし達の仲間に加わったんだね。
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