第6話 減量レシピ!ベオアルス卿の為のヘルシー献立!! 3
かくして、わたしとチップは市場へ。
「エスメラルダとニャビのチーム、心配だなぁ〜。」
「おまいよか、あいつらのがしっかりしてらァ。」
「でも、ヘルシー食材なんだよ?カイヤさんが同行した方が良くない?」
ラテさんがわたしに告げた。
「そこは大丈夫よ。猛女様、カイヤって子に習ったこと、一通りメモに書いていたわよ。それより、チップ君の言う通り、ノーヒントの貴方たちが問題だわ。」
なんだかなぁ。
ラテさん、わたしを観察してる?
ついてきちゃったのよね。
「あの〜。ラテさんは、なんでわたし達に?」
ラテさんはウインク。
「な、い、しょ♡……て言っても、怪しまれるから、話すわね。残虐なアスタロトを改心させた人間の女の子。貴方よ、ラビちゃん。わたしは貴方に興味があるの。わたしだって勇者候補なぐらいだし、その手の経験談は率先して聞いていかないと。魔王城の大陸では、魔族との対話が重要になるとも聞いたわ。」
わたし、なんとなく腑に落ちなくて、モコちゃんを助けて後悔はしてないけど、尋ねた。
「あの。モコちゃんて、一度ラテさん達に見逃してもらって、約束破って、人里襲ったのよね。なんか、喧嘩腰だったわたしも悪かったです。モコちゃんはわたしには大事な弟分だけど、魔族なんだから人を食べていたのは、知っていたはずなのに。」
ラテさん、ニッコリ返した。
「あら、いいのよ。貴方のそういう義理堅さが、アスタロトを変えたのかもね。……アスタロトは、魔王軍配下の頃は猛威を奮った上級魔族なの。勇者パーティにやられて、此方の大陸に来た頃には、中級ぐらいまで弱ってたから、わたし達が撃退出来た。今は名前すら失うほど弱っているけど……アスタロトが力を取り戻した時、貴方についてくれたらいいと思っているわ。わたしはね、勇者候補ではあるけど、冒険者みんなが勇者候補と変わらない、魔王軍打倒の一員だと考えてる。だから、ラビちゃんとアスタロトが魔王を倒して平和が来るのも、アリだと思うのよ。」
うわ〜ッ。
ラテさん、出来た人だなぁ〜。
わたしはこんな人に喧嘩売ったのか!
「な?誰彼構わず喧嘩売るたあ、良くねぇな?」
わたしはチップの足を力いっぱい踏みつけ、慌ててラテさんに返した。
「でぇっ!!こんの暴力女!!」
「ラテさん!わたし達、そんな大掛かりな冒険者パーティじゃないんです。確かにエスメラルダは魔王倒したいって言うけど、わたし達は村村の治安パトロールで気楽な戦いに陳腐な儲け。特に、幼いニャビを連れてるし、クロウだって僧侶としては初心者並で、わたしに至っては、歌も音痴の吟遊詩人なのであって。酒場で伝説を歌い紡ぐポピュラーな吟遊詩人とはまるで違う、酒の席ではご飯に夢中だし」
チップが補正した。
「ご馳走が旨すぎて歌い出しはすんですがね。なにこーれなにこれおいしーすーぎるー!みてぇな、感動してりゃあがり症は出ねぇけど、歌詞が問題でなぁ。」
ラテ=ジェラートさん、ひとしきり笑った。
わたし達、そんなにおかしいこと言った?
「ハッハッハ……笑ってごめんなさいね。ただ、貴方たちのお話って、アットホームで微笑ましくて。殺伐としたわたし達には無い、温かな談笑だわ。良いじゃない、ご馳走に感動して歌ってくれる吟遊詩人。わたしがそこにいたら、きっとご飯が二倍美味しくなるわ。ご飯時は、団欒が一番のスパイスだものね。」
褒められたー!
「任せてくださいよ!ご馳走の歌なら幾らでも披露するんだからー!!」
「チョーシにのりよってからにー。む?」
チップ、くたびれた看板に気づいた。
「あれ、中国茶の専門店じゃね?」
わたしが食いついた。
「よりたい!紅茶が欲しいのよ。ローズティーが!」
「あら、いいわねローズティー。美容に効くのよ。わたしは残念ながら、今は栄養失調で、お肌はガサガサだけれどね。」
「でもでも、ラテさんだって頑張って栄養取らなきゃなんだし!砂糖を入れなければ、封印されないでしょ?入ろうよここ!」
「うい〜」
中国茶専門店に入ると、なんと紅茶の棚は空っぽだ。
「ぇぇ〜!!店主さん、紅茶は?在庫無いの?」
アジア系の店主さんが来て、カタコトながら説明した。
「紅茶は在庫切れヨ。今、結界が邪魔で、商品仕入れラレないシ。ワタシも遺憾!中国茶は紅茶だけじゃ無い、ヨロシ!アナタタチ、ワタシを見なさい!」
あらら〜?
「店主さん、ガリガリじゃないじゃないの!むしろポチャめの健康体って感じ!きちんと食べられてるってこと?」
店主さん、素晴らしい体型美!
「ワタシがいくら説明しても、スルタ町人は理解しないネ!ワタシは鶏を蒸して、皮を剥いで、味付けして食べてるし、青茶があれば、脂肪や油分を流せる、ヨロシ!」
ラテさんが尋ねた。
「え?何?鶏を……蒸す?どうやるの?」
「そのレシピください!」
「ウン、任せるヨロシ。ちなみに、今の街の環境下では、当店自慢の青茶、オススメヨ。」
「青茶って、なあに?」
チップが呆れた。
「おまい、知らないで飲んでたんかい!烏龍茶が青茶代表でい!世界史やら文化を習うのは、盗賊じゃなくて、おまいら吟遊詩人だろーに。」
「悪かったわね!冒険者試験では、紅茶までしか習わないのよ!」
ラテさんが青茶のコーナーを見ながら、首を捻る。
「青龍烏龍茶とか、たくさんバリエがあって、わからないわね。今までの店主さんのまとめだと、鶏に合わせて青茶のセットだと、封印規制に引っかからないのよね。これは、重要だわ。」
「店主さーん、どの青茶が効くの?」
店主さん、レシピを書きながらも教えてくれた。
「一番効くのは高級な黒烏龍茶ネ。でも安心して。当店オリジナルブレンドの安い黒烏龍茶でも、効き目はあんまり変わらない、ヨロシ。」
わたし、高級な方の黒烏龍茶の値段見て、飛び上がった。
「なにこれ!?本場の黒烏龍茶って何者?お茶の値段じゃなくない?」
「それ言ったら、白人の管理してる畑の紅茶もそうヨ。貴族のブランド紅茶とか、何ヨアレ?黒烏龍茶は、お茶であり漢方、薬のようなモノネ。当店オリジナルブレンドの黒烏龍茶は破格ヨ。」
ラテさんがオリジナルブレンド黒烏龍茶の箱を取って、在庫を確認した。
「安いし、効き目があるんなら、これは街の市民分わたしが買うわ。在庫全部買えるかしら?レシピは購入後のサービスってことにしてちょうだい。」
「まいどありネ〜!ちなみに、蒸し鶏の調理器具だけど、この先に売ってるから。MAP描いたから、見ながら行く、ヨロシ。」
「ありがてぇヨロシ!!」
「まずは一個、レシピと黒烏龍茶ゲットだヨロシ!さぁ、どんどん行くわよ!!」
ラテさんは黒烏龍茶の荷物をチップと半分こして抱えて、レシピを見ている。
「ねえ、ラビちゃん、チップ君。白ネギって何かしら?塩、白ネギ、レモンで、蒸し鶏を味付けするみたいなんだけれど……」
チップ、びっくりしてすっ飛んだ。
「でぇえ!?白ネギ知らねぇの、アンタ?村から来たっちゅうがよ、結構な富民層じゃないん?」
ラテさん、慌てて否定する。
「違うわよ!あんまりアジア圏の食文化が無い地方の村から来ただけで。むしろ、アジア圏の料理をたくさん知っている貴方たちの地方の方が、不思議だわ。貿易だって、海の魔物で大変なのに。」
わたし、試験時代の記憶を呼び起こした。
「あー。なんか、わたし達のいた地方は、エルン=ファルファロ歴よりもっと大昔に、ローマなんちゃらって国があって、ローマがアジアと貿易が盛んで、なんか、温泉好きも共通点だったみたい。そんで、時代を重ねて特別仲がいいみたいね。安全ルートも古代からあって、アジア側から売りに来てくれるらしいよー。」
チップが珍しく感心。
「ほえ〜。おまい、やれば出来るじゃねえの、吟遊詩人らしい知識深い話。」
わたしは偉そうに胸を張った。
まぁ、その古代のローマなんちゃらが、都市国家か、王国なのか、帝国なのかは、サッパリ忘れちゃったんだけどね。
「つまり、わたしの生まれたアップルヘイム村は、どちらかというとラテさんのアニ村寄りの西欧食文化よ。チップとラゴゥは王都の育ちだから、世界中の食材が当たり前なのかも。わたし達パーティが節約出来たのは、旅先のローマなんちゃらのおかげね。」
ラテさん感心しながら、尋ねた。
「勉強になったわ。というか、実技の多い戦士や魔術師と違って、吟遊詩人の試験は知識ジャンルなのね。ちなみに、わたしは白ネギを知らないけれど、このスルタ町は王都への街道町だわ。世界中の食材が、あるかしら?」
「わたし達が来た村がまだ近いから、あると思うな。それに、王都はもっと世界中の食材があるんでしょ?」
チップが頷く。
「うにゃ。俺の好物のケバブ屋台もあっし。まぁ、最大は商業都市エルンディアナだけどな。」
わたし達はMAPの通りに歩いていくと、寂れたお店を発見した。
お店、何語!?
ラテさんも怯む。
「違うお店じゃ、ないわよね?」
チップがMAPのメモとお店の看板を照らし合わせる。
「何語かわからんくても、記号としては同じだぜ。ここが、調理器具屋なんだと。」
お店を開けたら、でっかいハエが二匹出て来た。
わたしとラテさんは、ドアを閉めて退散。
「おまいら!オネェの勇者候補もかい!ったーく!女ときたら、すーぐ結託して現実逃避すんだから!」
ラテさんは身振り手振りした。
「だって嫌よ!調理器具は、食べ物を作る器具なのよ?そんな店にハエが二匹もいたわ!!」
「そーだそーだ!言っちゃえ、ラテさん!!」
チップは旅の道具ポケットから、洗剤を出して見せた。
「洗いや、清潔なの!殺菌効果もあんの!!」
わたしとラテさんは、チップを店に押し込んだ。
「こら、こら!なーにしやがんでい!?」
「チップ今から代表で。わたし達、ハエのいない場所探してるから。チップ買い物して来てね。」
店の中は、金物は錆びてはいないけれど、すっごい古いし、とても女子が立ち入る感じはしない。男子がチャーハンの為に、中華鍋を買いに来る穴場って感じだ。
あぁ、でも、それ考えたら、中華鍋は本当に本格的だ。埃は被ってるけど……。
「チップ!この中華鍋も買っといて。これ、ラゴゥの趣味のチャーハン作りがはかどるでしょ?」
「ええい、指示だけ出しよってからに。」
だって埃まみれの中華鍋、触りたくないんだもん。
ラテさんはわたしより辛そうだ。
わたしは男所帯のズボラ女将だが、ラテさんは美を追うオネェさんだものね。
「ラテさん、大丈夫?無理なら、店の外にいてもいいのよ?」
「ううん。心配かけて、すまないわね。確かに汚い店よ。それより、青い陶器や美しい陶器が、全然手入れされていなくて、哀れんでいたのよ。これなんて特に、洗って磨けば美しいものを。」
わたし、陶器を見た。
本当だ、元はかなり綺麗な作りじゃないの?
「しかも、結構高いお皿なのにねー!なんで?王家がいなくて、価値を見出す人が消えたから?魔王軍の相手で忙しいせい?」
ラテさん、一個手に取った。
「マロン=マロヌス陛下は、ゲームブック好きの方だったから、生涯無縁だったんでしょうね。ペンテシレイア姫だったら、このお店の品は博物館行きだったかしら。この青い陶器、本来なら価値が高い品よね。わたしが買って、洗って磨いて、事件が解決したら実家に贈ろうかしら。」
「うん!御家族、喜ぶと思うよ!」
わたしも、気になってるのよね。
陶器のコーナーの、麺類のお皿。
「チップー!ラテさんが陶器買うから、取り引きしてー!」
「おまい……人使い荒すぎやせん?」
見に行ったら、店主さん、カウンター席でチップにお茶と点心を振舞ってるじゃないの!蒸し器の実演販売ってやつ?
「あー!なんか食べてる!ずるいー!!」
店主さん、薄らハゲのおじいちゃんだけど、ニコニコしながら、カウンターの奥でも美味しそうな料理作っていらっしゃる。
「ハエが出ちゃって、ごめんねぇ。管理がわしだけだから、料理してると匂いに釣られて入ってきおるのよ。調理器具屋としては、客足はパッタリ途絶えたから、管理ついでに、料亭やってんだよねぇ。ランチタイムとディナータイムだけ。調理器具を買いに来る人は、本当に久しぶり。」
「ラーメン屋さんに寄ってくるハエと同じ原理かぁー。美味しいもの作ってたから、ハエが来たのね。」
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