第5話 お手軽ホットドッグと、カイヤさんお手製!勇者プレート 3
夕暮れ、そろそろお腹もすき始めたわたし達。
エスメラルダがわたしに告げた。
「ずっと滞在する訳にもいかないし。そろそろ、ジェダイトの言う通りにするしか、無いのかもしれないねぇ。」
「誰も継がない場合は、ジェダイトさんに任せろって話?でも、それはカイヤさんが嫌なんじゃ無かったの?」
エスメラルダが遠い目をした。
「カイヤにとって、ジェダイトはいつまでも小さい弟さ。カイヤは自分の社会を捨ててまで、ずっとジェダイトを保護してくれた。……あたしは人生の半分は夫の介護だったし、本当に出来損ないの母親さ。育っていたクンツァイトとは違って、小さかったジェダイトは、カイヤが母親のようなものさね。でも、カイヤは……役目を終えてからも、自分の捨てた自分の居場所に、帰れなくなっちまった。あたしが母親をやれなかった分、カイヤの幼少期は全て母親業務だ。カイヤは自分が何者なのか、子どもの時間に何もわからないまま。カイヤに届くのは、あたしの声じゃあない。ジェダイトなら……いや、ジェダイトだけだ。」
若いカイヤさんが、自分の居場所を捨てて幼いジェダイトさんを育てたっていうのは、わからなくもない。
わたしだって、ラゴゥやエスメラルダがいなかったら、ニャビにかかりきりになって、同い年の友達と遊ぶ余裕も無くなってしまうだろうし。
「カイヤさんが何者なのか。わたし達で、それを示していけたらいいね。カイヤさんの新しい人生を、一緒にスタート出来たら、一番じゃない?カイヤさんが王位継承したら、全部丸く収まるんだろうけど……」
「そうなればねぇ。ともあれ、あたし達に出来るのはここまでだ。あとの話は、ジェダイトにして貰おう。」
カイヤさんのことは、心配っちゃあ心配だけど、だからって拒絶モードのカイヤさんの部屋に押しかけるわけにはいかないし。
わたし達はせめて、カイヤさんが匂いにつられて出てきそうな、美味しいご飯を作ることにした。
「はい、切れ目いれたよ。」
エスメラルダがパンに入れた切れ目は浅いけど、マーガリン塗ってるうちに、パンの切れ目は広がった。
「マーガリン塗ったよー!」
わたしからチップへ。
「ほい。キャベツとウインナー挟んだぜ。」
トースターで焼いて、ワクワク。
・ホットドック
グラハムロールまたはバターロール 10個
千切りキャベツ 適量
ウインナー 10本
ケチャップ 適量
粒マスタード 適量
マーガリン 適量
下準備
キャベツを適量千切りにしておく。
(市販で刻まれてるものがあるならそれでも可)
バターロールに深めに切れ目を入れ、切れ目の内側にマーガリンを適量塗る。
刻んでおいたキャベツを多めに挟み、キャベツの上にウインナーをのせる。
トースターを使い、焦げない程度に焼いていく。
焼けたらお皿に盛り付け、ウインナーの上にケチャップやマスタードをお好みでのせ、完成。
「キャベツが甘ーい!!」
「ケチャップいる人〜粒マスタードもあるよ〜」
ラゴゥがケチャップと粒マスタードを配ってる。
「麦酒だな。こういうジャンクな味は定期的に食いてぇもんだ。」
「おぉ!?クロウの兄貴の好物発覚かぁ!?たしかに盗賊家業は手っ取り早く食えるジャンクフードがお袋の味より馴染みの味だぜ!」
「チップ兄ちゃんもクロウのあにきも、お母さんの味より盗賊家業の味なの?でも、確かにこれ美味しいや。ラゴゥの兄ちゃん、粒マスタードちょうだい!」
「はいよ〜。モコ、大人だね。ニャビは粒マスタードこれっぽっちも食べれないよ。」
ニャビ、モコちゃんが粒マスタードを食べているのに驚き、スプーンを伸ばす。
「らごぉ!にゃあも!にゃあもちゅぶますらあどッ!!」
「だめだよ、ニャビ。お残し厳禁、大人になってからにしなさい。」
エスメラルダ、ケチャップと粒マスタードを堪能。
「油っこくないから、いくらでも入っちまうね。焼いたキャベツの甘みとパリパリのウインナー、それに粒マスタードが味を引き締めて。うーん、も1個いけるか。もぐもぐ……もう1個」
わたし達、寝る前にカイヤさんの部屋の前に来た。
「カイヤ……王位継承のことで、また負担かけちまったね。ごめんよカイヤ。あたし達は、明日にでもまた旅に戻るから、好きなだけ部屋から出ていいんだ。」
エスメラルダ、カイヤさんのことになると、自分を責めてしまうのね。
エスメラルダも、カイヤさんも、お母さん。分かり合えたらいいのにね。
ジェダイトさんがドアの前に立った。
「姉ちゃん。なんなら、俺が王位継承するよ。」
「…………」
「金持ち生活が変わるでもないし。でも、さぁ。王位継承したら、自由ってなくなるだろ。俺が姉ちゃんを今まで通りここに養うことは出来るけど」
カイヤさん、ちょっとドアを開けた。
「……やめなよ。わたしは、そんなことの為にジェダイトを守ってきた訳じゃないから。」
「じゃあ、姉ちゃんはどうしたいの?母さんが継いだって時間の問題だ。母さん、歳も歳なんだからさ。」
「ジェダイト。今すぐじゃなくたって……」
「姉ちゃん、きっと答えは決まってるんだろ?俺の為に代わりに王になるけど、何日か欲しいって感じには、決まってる。」
ジェダイトさん、先手の打ちすぎじゃない?
任せて大丈夫なのかしら?
「そりゃあ……だけど。すぐには、いかないよ……」
「姉ちゃん。ずっと俺、聞きたかったんだけど。俺を養う為にプロムも行かなかったの、後悔してるだろ。きっとプロム行ってたら、今姉ちゃんこの家にはいなかったよ。」
「違うよ!!そんなの後悔してない!!」
ジェダイトさん、ずっとそんなの考えてきたのね。
自分のせいでプロムに行けなかったら、気にするもんかなぁ。
ジェダイトさん、告げた。
「今夜、プロムナードをやり直そう姉ちゃん。温水プールのビーチに村中の同世代を集めた。どの道今夜で、俺か姉ちゃんは村を去るんだからさ。」
早ッ!根回ししてたんだ!!いや、お別れ会……なのか?
「そんなこと、望んでない」
「行くんだ姉ちゃん。今日一日で百年分は自由にしてやるからな。俺がそうする。姉ちゃんが自分の人生に立ち直れるように。」
なんかなぁ。
きっとさ、カイヤさんの望みは全然違う。
きっと、ジェダイトさんもすれ違っているのよ。
ジェダイトさんは、プロムナードで、そりゃあ羽根を伸ばせたのかもしれないけどさ。
カイヤさんにとって、幼い弟と彼氏じゃ、そりゃあ全然違っただろうに。
「カイヤ……」
「……行くよ。ジェダイト、言い出したらきかないから。」
カイヤさん、ムスッとだが、大人しく、エスメラルダにドレスを着せてもらって、温水プールまで歩く。わたし達も見守りに来た。
ジェダイトさんは顔が広いらしく、温水プールは昼間と違って賑やか。紳士服とドレスの社交場に成り代わっていた。
そこに、かなり積極的な同級生が。
「カイヤさーん!!学生時代から思っていましたがやはり今宵も美しーい!!貴方のいないプロムナードで僕はお母さんと踊りました。クラスのムードメイカー、ジョルジュでーす。ひゃは〜っ。よろしかったら、僕のダンスのパートナーになってくださいませんか?キリッ。」
カイヤさん、いきなりジョルジュさんに往復ビンタ。
「下がれジョルジュ!そしてお母さんと踊ってろ!」
「わわ、カイヤさん!!」
「手荒ーい!!相変わらずのリアクション、ありがとうございまーす!!さては未だに僕のライバルは弟君ですねー!?うひゃ〜っ。貴方の母性に惹かれながら、僕は今宵もお母さんを連れて来ました!貴方に会えぬとばかり!うっかり!!」
学生時代から往復ビンタされてるの、ジョルジュさん。なんだか不憫。あと、何歳までお母さんを連れて歩くのかしら。
エスメラルダも、オロオロし始めた。
「あぁ。ジェダイトはあんなこと言ったけど、カイヤは、意中の人に会いたいって、本当に思ってるのかねぇ。あたしには、カイヤが困ってるように見えるけれど……」
困ってるでしょ、エスメラルダ。
何だかんだで、クンツァイトさんは長男だし、ジェダイトさんは末っ子よね。
保護者の愛と恋愛の愛は、実質違うのよ。
ニャビはわたしが買ってあげたチュールのワンピースを着て、いつもなら寝てる時間なのに、おませにも踊っている。
「ニャビ、ワルツ教えてあげようか。おいで。」
「わるちゅ!!」
ラゴゥはさすが騎士様、こういう時社交界慣れしてるのよね。
ジェダイトさんは、舞台の見回りやらプロデュースをしてたらしく、ようやくやって来て、ラゴゥを見て笑った。
「ははは。ラゴゥさん、ラビさんを誘ってあげたら?ニャビちゃんは俺が見てるよ。ずっとお父さんしてたら、ラゴゥさんだって将来迷子になりますよ?」
「そうかな?俺はね、ジェダイトさん。ニャビが大きくなったら、大きくなったニャビをダンスに誘うのが、一つの夢です。子供からしたら鬱陶しいのかもしれないけど、大人の視点からしたら、一人前になった子供と踊るほど幸せなことは無いよ。エスメラルダや、ラビや、俺がニャビに抱く愛は、そういうものだから。代わりがいないのが親子、きっとカイヤさんとジェダイトさんも、代わりはいないんじゃないかな。」
ラゴゥの言葉に、ジェダイトさんは目を丸くした。
ジェダイトさんは、誰が来てもうんともすんとも言わないカイヤさんを見て、自分の頬っぺたを両手で叩いた。
「ラゴゥさん。その解釈、間違ってたら責任取ってね。」
「いいよ。行ってらっしゃい、ジェダイトさん。」
ジェダイトさん、カイヤさんに歩み寄り、カイヤさんの手を取った!
「姉ちゃん。まったく損な体質だな。早く小さかった俺を忘れて、自分の幸せ掴まないと。でも、今日は俺が踊ればいい?」
「遅い。ダンスなんて、ジェダイトの練習相手しかしてない。」
カイヤさんは踊り出した。ジェダイトさんをリードしながら……
これは、カイヤさんが男性パート、ジェダイトさんが女性パートね。
「プロムナードは満足?」
「バカなジェダイト。彼氏なんか、年老いてからでもいいんだ。わたしが手を伸ばさなければ、小さなお前はご飯も食べずに泣いていた。剣の稽古だって泣かされて。わたしはそのことに後悔はしてないんだ。遅れた勉強のことならまだしも、プロムナードなんて気にもしてない。」
「姉ちゃん、ちょっとは若返ってプロムぐらいかえりみたら?それに、俺はもう育たないよ。老いてくだけ。」
「本当にそう。体重も重たくなった。背も大きい。ジェダイトがこんなに大きくなったんなら、わたしもいい加減出てくしかないな……。」
いま、思えば。
確かに、わたしの人生には、打ち上げは必要だったのだ。
こうして、ジェダイトを独占した晴れ舞台や。
記念になる、何か。
わたしが、ピリオドの向こう側を始めるには、わたしの最初の道、ジェダイトとの道を、華々しくエンディングを迎えるべきだった。
その時が、来たのだ。
「そんなにいきなり立派になるの、姉ちゃん?」
「今しかないんだ。わたしは母さんについてく。でも姉ちゃんコミュ力不安だな。王になったら家老はジェダイトでよろしく、蜂蜜農家兼業。」
「うわ、すげぇ大ハードな生活が待ってたわ」
「……冗談だ。ありがとう、ジェダイト。姉ちゃんをよく今まで見捨てないでくれたな。」
「それこそ馬鹿だよ姉ちゃん。俺、誰に育てられたと思ってんの?」
「姉ちゃんな。この夜の思い出があれば、寂しくないよ……王様には相応しくないかもしれないけど、ジェダイトの暮らしが傾かないように、精一杯玉座に座ってやるからな。」
「俺だって。家老でもなんでも、呼びなよ。食い過ぎた姉ちゃんの体重で玉座が傾かないように、支えるからさ。」
カイヤさん。
ジェダイトさん。
よかった。
よかったね。
「カイヤさーん!悔しいけど、輝いてますよカイヤさーん!!母さん!俺たちも負けずに踊ろうぜっと!!」
他のコンビも白熱して踊り出す。
ジョルジュさんとお母さんも、中々のダンスよ。
「エスメラルダー!ハッピーエンドだよ、良かったねー!!」
「あいつら、仲良すぎて、本当にこれから別の人と生きてけるのか、あたしゃ新しい心配が先立つよ。」
「ジェダイトさん彼女いるから、でーじょぶ。」
これはチップだ。
「カイヤ……本当にジェダイトから離れて、後悔しないかね。」
「わたし達がその分励ましていけばいいじゃないの。今夜、意味はあったのよ。カイヤさんの人生の折り返し地点、明日からまた、新しいカイヤさんになれるのよ。うーん、吟遊詩人として詩を書きたい気持ちだわ。」
「おま、不器用だからやめっ。」
「カイヤに怒られるんじゃないかね?」
何よー。感動を詩にして、何がいけないのよ。
「ま、ともあれ詩は不器用なんでぇ。おまいは踊りでもしたら?」
チップ、わたしの手を取ってダンスの申し込みだ。わたし思わず笑っちゃった。
「わはははは!柄にも無いことを!」
「うるせぇやい。ほれ、ほれ!」
わたしとチップ、踊り出した。
まさかチップがダンスパートナーになるとは思わなかったけど、こういうイベントって参加者側だと本当に楽しいのよね。
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