第5話 お手軽ホットドッグと、カイヤさんお手製!勇者プレート 2
わたし達がジェダイトさんちに戻った頃には、既に鍋のカレーが空っぽになっていた。
「よかった、カイヤさんカレー食べたのね。」
エスメラルダはドレスの詰まった箱を抱えて、カイヤさんの部屋の前で問答した。
「カイヤ!開けとくれ、無理やり出したりはしないから!!」
カイヤさんノーコメント。
前に一回だけ、私たちに挨拶させる為に、エスメラルダが無理やり引っ張り出しちゃったのよね……。まぁ、そのおかげで私たちはカイヤさんを知ってる訳だけど。
警戒は、されてるんだろうなぁ。
ジェダイトさんが来て尋ねた。
「その箱、どうしたの母さん?」
「カイヤに買ってきたドレスだよ。どの道、誰かが王位を継承したら、家族はみんな王都アポロメルタンの宮殿に顔出さなきゃならないんだ。面に出ないんだから、サイズはわかりゃしないが、カイヤだってスウェットで宮殿は嫌だろう?」
ジェダイトさん、ケラケラと笑いだした。
「でも、姉ちゃん今絶対そのドレス入らないよ。だって、昼飯に何人分かってぐらい、残ったカレー全部平らげちまって」
ちょ……ジェダイトさん。
ドアの向こうから、ドン、ドン、て、叩く音。抗議の声だ。
「ほんと、トイレに行くまでは、すげーお腹だから。あぁ、でも、宮殿でも食い意地貼ってたら、ドレス壊れちゃうんじゃない?」
あぁ!言い過ぎだってば!!
ドアが開いた。
すっごいちょっとだけ開いた。
カイヤさんがジェダイトさんを睨んでる!
ま、まぁ、でも、カイヤさんとジェダイトさんは、エスメラルダの子の中でも一際仲良しなの。その仲だからこそ、よね?
「ほんとだ。カイヤ、お前少し太ったんじゃないかね?」
うわー!!エスメラルダー!!!
カイヤさん、ドカンとドアを開け、ドレスの箱に食いついた。
ガサガサ、箱からドレスを持って行き、着て見せようとしたのか、ドアを閉めたんだけど……。
…………。
「うっ………くぅ………ひぃひぃ………」
エスメラルダが中に入って行く。
「無理するんじゃないよカイヤ、留め具が壊れちまう。きちんと御手洗に行きなよ。御手洗の後は、普段のお腹のカイヤなんだからさ。」
「う、うぅ………!」
「カイヤ!やめときなって」
駄目よ、エスメラルダ。
カイヤさん意地になってる。
わたし、部屋にお邪魔させてもらった。
「失礼しまーす。カイヤさん、ドレスの着付け手伝うね。もうちょいリボン緩めなきゃダメよ……大丈夫、調節したら入りそうよ。」
きちんとドレスを着たカイヤさんに、ジェダイトさんとエスメラルダがチヤホヤ。
「馬子にも衣装。髪の毛も結って貰えば?」
「お化粧もしなきゃあね。」
そこへ、ニャビが歩み寄った。
不吉な予感しかしないけど、やはりニャビは言った。
「かいあ、おにゃかにあかちゃん、いゆの?あかちゃん、うまれゆ?」
カイヤさん凍りついた。
そりゃそうよ。
いくら小さい子が言ったとしても、誰だって傷つくのよ。
小さい子が言う事は、見たまんまの本当のことだから。
わかってるから、尚更傷つくよ。
カイヤさん、エスメラルダもわたしも、部屋から押し出して、ドアを閉めた。
「んもう!ニャビったら駄目よ!」
「なんれ?あかちゃんじゃないのらぁ?」
ラゴゥがニャビを抱えて、エスメラルダとわたしに合図。
「悪気は無いと思うけど、きちんと教えた方がいいね。」
「だけど、どう教えたもんかね。妊娠と肥満の違いかい?」
「ちょっとお腹が大きくなっただけでさ!みんなしっかりしてよ、三つ子の魂百までって言うでしょ?今きちんと叱ってあげなきゃ、ニャビまた言うよ!」
「闇雲に叱るべきではないけど……ニャビ?お腹の大きい人には、赤ちゃんがいる人と、そうじゃない人がいる。赤ちゃんがいない人は、お腹が大きいこと、気にしてるんだよ。」
ラゴゥの優しい言い方で、ニャビ全然頭に入ってない。
「なんれ?」
「普通の枠から外れると、いじめや迫害の的になりやすいから。うーん。もっと言い方あるよな?」
「わぁんないよッ!!にゃあわるくないッ!!」
エスメラルダがニャビをつついた。
「ニャビや。ニャビが太ったら、どうなんだい?」
「やらっ!にゃあは、ふとったりしないお!!」
ナイス、エスメラルダ!!
「それなのよ、ニャビ!太るのは、みんなやだよ。太ってたって誰かに言われたくないのよ。みんな理想の自分像を持ってて、みんな可愛くなりたいよ。だからさ、周りから現実のお腹のこと言われたら、傷ついたりするの。ニャビは、ちょっと食べすぎた時に、太ったって言われたい?」
ニャビは、真剣そうな顔で。
多分、この子なりに、脳みそをフル稼働してる。
「いわれたら、にゃあは、やら。かいあは、たべすぎちゃったらけなの?」
みんな、ホッとしてため息ついた。
「そうだよ。食べすぎちゃっただけ。だけど、きっと気にしてるよな。」
「にゃあ……ごめんしゅゆよ……」
でも、やっと一つ学習したニャビは、今日のところは限界っぽい。
「ニャビは明日になったら、ごめんしに行こうね。今日はなんか、これ以上あったら知恵熱出しそうだし。」
「そりゃあそうだ。ニャビが倒れちゃ、ツンケンしたカイヤも、もっと辛くなっちまう。あの子も、小さい子の意見だとはわかってるんだ。」
ジェダイトさん、感心しながら見ていた。
「すげーなぁ。母さんはともかく、ラゴゥさんやラビさんは、俺とそんなに離れた歳じゃないのに。育児かぁ……」
ラゴゥは穏やかに答えた。
「ジェダイトさんもいずれ、お父さんになるかもしれないよ?」
「いやー。姉ちゃんが自立しないと、とても自分の将来なんて。」
ところで、わたしはクロウ達を探してキョロキョロと見回す。
「あ、クロウさん達?」
「うん。今日試験終わったはずなのよね。クロウの司祭服も新調したし……」
ジェダイトさん、わたしに合鍵を渡した。
「貸切の温水プールにいますよ。これ、鍵。丁度いいから、メロン持って行ってください。村長から届いたんで。スイカの代わりにメロン割って遊んできたら?」
貸切!!
温水プール!!!
クロウ、どんだけ贅沢してんのよー!!
まぁ、村はクロウのおかげで救われたけどさ。
「ジェダイト、まさか前に勢いで株を買ったあのプールかい?まだ売りに出してなかったのか。」
「いいじゃん、クンツァイト兄さんと俺で経営はきちんとしてんだから。クンツァイト兄さんはああだけど、俺はプチ富豪なんだしさ。母さんも温水プール遊んできなよ。水着あるよ。」
水着かぁ。
「レニさんの大きいサイズのと合わせて買ったばかりなのよね。ベージュのパーカーと生成のショートパンツを。」
エスメラルダ、目を細めた。
「ラビ。アンタ、若いくせに相変わらず消極的だねぇ。パーカーとショートパンツは水着って言えるかい?」
「いーのよ!だいたいエスメラルダみたいな、胸がバーンとあって、くびれがあって、お尻がボーンとある人に言われたくないのー!!」
「にゃあのは?らびぃ。えめらるだみたいなきえーなみじゅぎ、かった?」
ニャビは基本、綺麗な色を着るエスメラルダがお手本なのだ。わたしのスタイルには憧れないらしい。
「買った、買ったよー!ニャビのビキニ!このおませさん!」
「え。ちょっと待って。ラビ、ニャビにビキニは早過ぎない?もっとこう、ワンピース水着とかないの?」
心配性のラゴゥ。
でも、ニャビの夢見る方向性はビキニなのよね。
「ラビ、あたしのビキニは?」
「エスメラルダのもバッチリよ!セクシーなやつに新調したからね!!」
温水プール。
チップが水鉄砲を打ち、浮き輪のモコちゃんと遊んでいる。
クロウはビーチで、謎の美人二人に囲まれて、タバコを吸っている。
「誰よ、その人達ー!!」
わたし、ビーチに飛び出した。
「何だろうな……ラウムの頃の愛人、みてぇなもんか?」
「はーい、貴方がラビちゃん?」
「神出鬼没のクロウの愛人でーす。お邪魔してるわよ。」
エスメラルダ、マイクロビキニで歩いて来た。
「あんた達、そりゃあ過ちだ。幸せになんてなれっこないさ。男は一人の女を生涯かけて幸せにするもんだ。クロウ、アンタはどうなんだい。一時チヤホヤされて、責任は取らないんじゃあ無いのかね!?」
クロウと愛人さん達、気圧された。
「……わたしは貴方より愛されてるわ!」
「何よ!わたしだって愛されてるわよ!!」
クロウ、もはや、やかましい、という顔だ。
ニャビは真っ先にプールに飛び込んだ。
「もこ、ちゃあん……あば……」
「ニャビ!!まだ泳げないのに!!」
すかさずチップがニャビをつまみ上げた。
「ぷあ〜っ」
「おーい。浮き輪ー。」
モコちゃん、魔術で浮き輪を作った。
「はーい、あげる〜!」
「サンキューモコ!ニャビ公はこれでよしと。」
ニャビ、浮き輪を得て真っ先に泳ぐ。
「もこちゃーん!!」
わたし、声を張り上げた。
「メロン割りしよーっ!!村長さんにいただいたメロンなんだって!!」
エスメラルダがバッドを構えた。
「よし。じゃ、あたしが割ろうか。」
クロウは何か察したのか、エスメラルダの背後まで避難した。
目隠ししたエスメラルダ、いざバッドを持ってふらふら歩く。
「エスメラルダーもっと右!」
「エスメラルダ、そっち!」
「メロンはあっち」
エスメラルダ、ふらふら、メロンから外れたルートへ。
「エスメラルダってば、そっちじゃ」
エスメラルダ、会心の一撃!
「ふん!!」
ラゴゥに直撃!
ラゴゥの頭は砕けた音を出し、血が飛沫になる。
「ラゴゥが割れたーッ!!」
すかさずクロウがラゴゥの治癒を始めた。
「おめぇら、俺の仕事を増やしてどうする。試験合格を労いに来たんじゃねーのか?おい。」
メロン、あまーい!!
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