ギルド入社試験会場7 奇襲
カーソンのもとに悲報が届く
先ほど出て行った者達に気付かれることなく後を追った仲間が戻り
顛末を話す表情は血相が変わる程だった
「二人がやられた……」
「…………」
戻って来た男の話を聞いて周囲に緊張が走る
そんな中でカーソンは冷静に聞いていた
「相手はどんな奴だった? 人数は?」
「人間では…… ない……」
話せば話すほど震えあがる男の顔の血色は最悪だ
「もう一人隠れてた受験者が捕まっていた それが唯一逃げるチャンスだった…」
「……そうか」
カーソンは男を遠くの方へと配置させ持ち場に戻る
「ねぇライト……」
イリアが持ち場を離れて最前線にいるライトのところまで駆け寄る
「危険だぞ! 何しに来た?」
小声でイリアを注意するライトに対し イリアが一つの不安を溢す
「ニクロとヴェル…… 大丈夫かな?」
「アイツらなら大丈夫だって……! 悔しいが強い」
「え……」
ライトの今の発言にイリアはクスクスと笑い出した
「何がおかしいんだよ……」
「だって…… ライトが誰かを認めるなんて…… あの嫉妬のライトがだよ?!」
「うっ…… うるせい!」
笑ってるイリアを見ながら ライトもついつい薄ら笑みを浮かべる
ーーいつ見ても良い笑顔だな……
ライトの視界いっぱいに入るイリアの笑顔が彼の唯一の癒しであり支えであった
よく分からないこの穏やかな感情が恋だと解った時からライトは決めていた
ーーギルドに入って金を貰える人間なれたら 告白しよう
イリアの顔を見る度にその思いがいつまでも忘れられなくなった
急に吹く強風 ライトが思わず瞬きしたその一瞬だった
視界に入るイリアの背景にいる猿のような大男 ライトは状況の理解にかなりの遅れを取る
イリアは後ろを振り向くが それと同時に化け物も自分の手をイリアの顔に近付けて
気付いた時には
「対象物発見!! 全員戦闘準備に入れ!!!!」
カーソンの声と共に全員は敵に集中する
出遅れる者はライトだけではなかった
彼はイリアを抱いて遠くまで距離を取っていた
「ラ…… ライト?!」
「ハッ…ハッ…ハァ……」
発作気味のライトは自分でも分かっていなかった
イリアが殺されそうな光景を見ていただけだった自分が
気付いたらイリアを抱きかかえて遠くに避難している
「これが突飛な反応って言うのか?」
ライトは我に返り 急激に筋肉を動かした反動で背中から痛みがジワジワと沁みる
「うぅ……」
「ライト!! 血が……」
去り際に猿男の手が擦ったのか いやそんな生ぬるいものではない
「抉れてる……」
近くに来た衛生班のアタランテがライトの背中を見て絶句する
「アタランテさん! 治るんですかこれ!?」
「まずは二人共下がるよ!」
アタランテはライトを背負いイリアと共に後衛に下がった
猿男の周りは前線にいる者達が囲み 各々武器を構える
「お前は革命軍の一員か?」
「あぁ!?」
カーソンの質問に 猿男は手に付いた血を舐めながらニヤリと微笑んで
「俺の名前はハヌマンだ よろしくっ!」
「ふざけてんのかテメェ!!」
ハヌマンの後ろにいた男が銃を向けるが 鋭い爪が男の口の中に入り首から貫いた
「あ……!! あがぁぁ!!」
男の身体は痙攣し やがて動かなくなる
「この野郎……」
隣にいた男は赤と黄と白の魔蛍を集め 全身の肉体を膨張させた
「〝鬼人化〟」
赤い肌と剥き出しになる鋭い牙 まさに鬼
「力じゃ負けねぇんだよ!!」
鬼男は腕を振り上げて一気に振り落とす
「全然躱せるぜぇ?」
ハヌマンが移動しようとした時 足が地面から離れなかった
「これは……」
「やれ!! ラジア!!」
振り落とされた腕はハヌマンの頭上に直撃し地面ごと叩いた
「所詮は弱い生き物よ さすがだぜジュガロ!!」
「お前の攻撃は強力だが 当たらないのが弱点だ」
精鋭の一人ジュガロが 元から試験を共に受けるチームだったラジアと拳を交わす
そして 押し付けたラジアの腕が地面に落ちる
「ぎゃああああああ!!!!」
ラジアはその巨漢で地面をのたうち回り 地面から出てきたハヌマンの足が彼の顔を押し潰す
「これで二匹目……」
ハヌマンの不気味な笑みは増し 標的をジュガロに定めた
「各々装填確認オッケー? 合図と共に一斉射撃!!」
遠くの木の上で待機する遠距離狙撃班は全ての銃口をハヌマンに向け
いつでも撃てる体勢に入っていた
「俺等は一旦固まりながら距離を取るぞ!」
カーソンの指示でその場の迎撃班は遠くに離れ 近くで構える防衛班の後ろまで下がる
「撃てぇぇぇ!!!」
合図と共に各自発砲する予定だった しかし発砲音が鳴らない
「え?」
合図を出した女受験者は後ろを振り返る そこにはハヌマンとは異なる
7メートル近い身長を誇る怪物が その女性の顔をジッと見ていた
女性の視線の下には 銃を構えていた全員の首が無くなった身体が
血を吹きながら転がっている
「ウホゥ……」
「いやぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」
骨を噛み砕く音が辺りに響き 生存している者達に恐怖を与える
「一体だけではないのか……」
「やるしかないようだな」
各自纏蛍を発動し 武器に魔装させ
タイミングを伺いながら攻撃に転じようとしていた
少し離れた 衛生班待機所
「うがぁ!!」
応急処置の間に必死に声を堪えるライトだが
あまりの激痛に声を出さずにはいられなかった
「これは酷い…… 戦闘には復帰できないわ」
「ライト……」
近くで見守る衛生班のイリアとダルタ
処置を施すアタランテと数人の助手
そして外を見回るその他の受験者数人
「俺は…… まだやれます」
その言葉にアタランテはライトの頬を叩く
「痛っっつ!!!!!」
「アタラン! 傷に響くぞ」
助手がアタランテを必死に止めるが アタランテはライトの髪を掴み
普通じゃない形相で彼の顔を睨みつける
「死ぬ事でどれだけ男らしいとか思うなよ!!
その発言は周りを見ていないってことだからな?!」
そう言ってライトの髪を離し その場から立ち去った
「悪いねライト…… アタランは昔……
共に冒険していた恋人を失ってね 怖いもの知らずで死んだ彼と比較したんだよ多分」
「そうだったんですか……」
アタランテの過去を知ったライトは静かに横になる
戦況を気にして止まないが しかし絶望的な危機はライト達のすぐ近くに迫っていた




