世界のたった一坪3 失った者
ニクロと老人は燃え盛る建物から脱出し 船着き場に着いていた
しかし船は一隻も無く 他の人間は全員逃げた後だ
「ハァハァ…… 大丈夫か爺ぃ?!」
「…………」
酷く消耗していた
ニクロは咄嗟に海の水を掬い老人に持っていく
「ほら水だ!! 飲めよ!!」
それを見た老人はクスクス弱い笑いを見せる
「海を飲んだら…… バチが当たる……」
「何言ってんだよ! ほら水だ! さっさと飲め!!」
「ハァハァ…… よく聞け二クロ」
「…………」
老人は壁に持れながら座ると二クロと目を合わせた
「お前はこれから一人で生きることになる」
「え?」
「儂はお前達に色んな事を教えてきたつもりだが…… 全てじゃねぇ……
お前のような馬鹿は海を平気で飲もうとする だからガキのお前らに知識を教えてやったんだ
……お前の母親にも頼まれた」
「!!?」
老人の最後に言った言葉にニクロは過剰に反応した
「俺の…… 母親……」
「お前に伝えたい事はここからだ……」
「…………」
すると突然老人は 血反吐を吐いて過激に咽せ始める
「爺ぃ!!」
「ハァハァ…… 黙って聞け!!
残酷だがお前の母親は子供を大量に産まされた
身体の弱いお前の母はやがて力尽き 無事に生まれた最後の子供もお前一人だった
だが死にゆくお前の母親からお前宛てに遺言がある」
「遺言……?」
「〝ナット〟 それがお前の名前だ」
「ナット……」
「そうだ!! お前はナット・ウ……」
その時だった 乾いた音と共に老人の胸から血が跳び出る
「じ…… じぃ……」
「ハァハァ…… 奴隷の分際で何助かろうしてんだ!?」
ニクロはゆっくりと後ろを振り向く そこには銃をもった監視員が
「奴隷は奴隷らしく 俺ら人間様の道具してりゃぁいいんだよ!!」
銃口はニクロに向けられた
「てめぇ…… よくも…… よくもぉ!!」
「奴隷如きが!! しゃべってんじゃねぇ!!」
勝てないと分かってても足が瞬時に動き出した
今ならハッキリと判る あの奴隷達の言っていたことが
いや もっと前から理解していた 大切なものを失う辛さが
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「くっ!! 死ねやぁぁぁぁぁぁ!!」
監視員が引き金を引く動作が見えた
ーー俺には力が無い 自由になる為の力が……
一瞬の出来事だった
監視員の頭を何者かが掴んでそのまま地面にめり込ませた
「……!!?」
銃口は適当な方向に放たれ ニクロに届いていない
「ハァハァ……」
呆然と立っているニクロの前には
めり込ませた監視員の頭をゆっくり放し 身体をまっすぐに伸ばす一人の男
「…………」
そいつは黒装束を着ていた
ニクロにはそいつがさっきの宙にいた奴の仲間だとすぐに分かる
「お前……」
「…………」
ニクロの声に反応してその男は振り向いたが顔は見えない
そしてその場から彼は姿を消した
ニクロは訳が分からなかったが次第に老人の方へと足を進めていた
「死んだ奴は…… 土に埋めるんだっけか? 爺ぃ……」
ニクロが話しかけても老人は答えない
彼は老人を担いで海の方に向かった
「ごめん…… ここに土は無いからせめて海で寝てくれ
酷いやり方だと思うがあの場所に見捨てるのはなんか苦しくてな」
ニクロは浅瀬を歩き 深いところに着けば老人を静かに海に沈める
海は暗闇で 老人がそこに吸い寄せられるように見えた
身体が見えなくなるとニクロはそっと手を放す
そして何も言わず すぐに燃え盛る陸の方へと歩き出す
「俺って何も知らねぇな…… 死んだ人をどうするのかすらよく分かってねぇ……」
ニクロはひたすら自分自身を蔑んだ
自分は人を助けられない 自分は何も出来ない
奴隷が似合ってるんじゃないかと
気が付くと燃え盛る建物に戻っていた
ニクロはそこに座ってしばらく呆然と海を眺める
「ホビー…… 爺ぃ…… 皆……
なんで俺は生きてんだ? 俺だけ生きてどうすんだよ……」
しばらく独り言を呟いていると ニクロは決心したのか
立ち上がって海に向かってまた歩み始める
ーー死のう…… これから何したいのかすら分かんねぇ
ただ何も考えずに老人を沈めた海にまた戻る
歩いているとき ニクロはアイツとの日々を思い出していた
思い出深いのは当然 檻の中の最後の夜
〝 ホビーの楽しみは何だ? 〟
〝 俺はいつか海賊になることだ 〟
〝 え? 島を見るのが好きなんじゃ……? 〟
〝 島を見つけて上陸して宝探し!! それが楽しんじゃないか! 〟
〝 ホビー…… お前いつもより元気だな 〟
〝 ハハハ!! 何言ってんだよニクロ!! さぁ宝探しだ!! 〟
ニクロは夢を見た 海に流されながら
身体は暗闇の中をどんどん進み 業火の陸地から徐々に遠ざかって行く
「おい!! なんで俺を置いて行った!?」
〝 リーダーはアイツなら大丈夫だって言ったんだよ~~
それより個人的な任務はどうだったの? 〟
「……そっちは問題無い」
〝 どっちにしろ船は満杯 自力で戻って来てねラウル 〟
「……チッ 仕方ねぇ嵐で帰るか」
〝 天候を変える程の魔法は七大国に位置がバレるよ~~!! 〟
「大丈夫だ 俺強いし!」
〝 とにかく例の場所で合流だからね! ……嵐持って来ないでよ? 〟
「ハイハイ…… じゃぁ帰るとするか」
奴隷を強制労働していたこの場所は 七大国ファミリアフォードット西の領地
その島と本国を繋ぐ橋を造るという無理難題を 奴隷の数で賄っていた島だった
しかし事件当日から数日間 その島を中心に突如として嵐が吹き続ける怪奇が続いたとか
そしてこの奴隷解放事件の首謀者は 革命反士ラウル・ウォードと判明




