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創設の放旅者 --ラウールヴァンデラード--  作者: 滝翔
2章 鎖が解くとき
60/205

世界のたった一坪1 檻の中の夢


ーー俺の名前は番号29060

奴隷をしている

いや 生まれたときから奴隷だったと言うべきかな


朝起きてやることは乾燥したパンと水を飲む

そして洗浄場で監視員にホースで水をぶっかけられる

痛いのなんの 裸を見られることはもう何とも思ってない

こういうことから人間という立場を自発的に忘れていくんだな


ボロいシャツにボロいズボンを履いて外に出る

俺達のやることは何百年にも渡って造られている島と島を渡る橋

その続きだ


もちろん先が無いと言われているのと変わらない

誰かが死んでも俺らみたいな若い奴らが次々と運ばれてくる

女がいないという点でも地獄みたいだなと年上の奴らが良く言っている


女と言う生き物を理解している訳では無いが

男として生まれてきて良かったのかどうか 現場を知らないから分からない


俺の母親は俺を生んで死んだと知らされている

どこぞの飼い主との子供だか知らないが 父親と会う機会は無いと理解出来る

むしろ会いたくはない 会ったとしても殺されるだけだ


なんやかんや話しながら今日も煉瓦運び

隣で誰が死のうが見向きもしなくなったな


約十一時間働いて牢屋の中に入る

そして配給された乾燥のパンと水を飲んで寝るだけ

他にやることはない こう考えると元囚人の話は興味がある

取引で酒が飲めたり 娯楽なども出来るし ここよりよっぽど楽しいのだろう


でも 俺はここが良いと思ってしまっている

今の生活より悪くなることを考えてしまうと

ここがずっと良いと思っている


「お前は学習的無力感に陥っている」って言っていた老人がいた

老い先短い爺ぃの戯言など誰も耳を貸さなかったが今でもあの生き生きとした目が頭に残っている


洗浄場にある鏡をふと見た そこには死んだ目をした俺がいた

どう足掻いても今より良くはならないと俺に語りかけているように見えた



どうせ今が幸せだ 改めて自覚した



「ようニクロ……」


「なんだホビー 相変わらず今日もやつれてんな」


ーー29060の0を取ってニクロ 俺のあだ名になっている

そして奴はホビー あっちもあだ名らしい


「し~~っ! あんまそういうこと言わんでくれ 処分しか待ってねぇんだからさ」


「悪ぃ悪ぃ さて…… 煉瓦を運ぶか」


ーーホビーとはそれほど仲が良いという訳ではない

ただ牢屋が一緒なだけでよく話すだけだ


「なぁニクロ」


「なんだ??」


「お前の楽しみってあるか?」


「はぁ?!」


「俺達は奴隷だから こんな希望を抱くことはタブーだが お前はあるか??」


「ねーよ…… 黙って煉瓦運べ」


「それも今日までだ……」


「は?」


ーーホビーがいきなり暗い顔をした

そして俺は不意に足を止めてしまった


「おい!! そこサボってんじゃねぇ!!」


ーー監視員は鞭で足場を叩く

これはまだマシな方だが俺達は急いで足を進める


「つーことは牢屋も変わる訳か……」


「あぁ…… ヘブンズレットに選ばれたからなぁ……」


「!!」


ニクロは一瞬でもその言葉を聞いた途端 動揺を隠し切れなかった


「お前……」


「時間が来てたんだよ 俺の体調はこんなんだしなぁ」


隣で死人が倒れようとも気にしなかったニクロだったが その時は心の奥で何かが引っ掛かった

その晩は無駄にホビーと語り合った 小さな声で時間の余す限り


そして翌朝 彼はいなかった



ーーヘブンズレット 

俺らの雇い主 ルシファード教会の一部の間で流行っている賭け事みたいな つまりゲームだ

その地獄みたいなゲームを馬のように出場しなければいけないのは俺ら奴隷

ゲーム内容は簡単 細い糸を50m早く渡った奴隷に賭けていた者が 配当金を得られる仕組み

しかも一番に渡り切った奴隷には普段より楽になる仕事が待っているらしい

だがほとんどの奴隷は渡り切れずに死ぬ かれこれ何十年も渡った奴隷はいない 

その場合 一番長く進んだ奴隷で処理され 教会側からしては然程問題では無い


糸の下には何百本ものの針の山があって 落ちれば至ってシンプル

つまり俺らからすればギャラリーが目立つ地獄に連れて来られたという訳


ホビーがいなくなっても俺の日常に支障は出ない

そう…… 全く…… 支障は……



ニクロはふと牢屋での最後の会話を思い出した


〝 そういえばお前の楽しみ聞いてなかったな 〟


〝 だからねぇーよ! この暮らしのどこに楽しみがあんだよ 〟


〝 俺達十七だろ!? もっとそういうの見つけてもいいんじゃねぇの? 〟


〝 環境が違うだろ…… そう言うお前は何かあんのかよ? 〟


〝 ふふん~~♪ 〟


〝 なんだその笑い方は 〟


ーー得意げに笑ってたホビーがいた こんな場所に羨ましがる物など無いのに


〝 煉瓦運ぶ時さ! 橋は徐々に進むだろ? 〟


〝 まぁな…… 〟


〝 その時にさ! 時々見えるんだよ 〟


〝 何をだよ…… 勿体振らずに言えよ 〟


〝 島だよ 〟


〝 島ぁ? 〟


〝 まるで海賊の航海みたいに思えたよ 

上陸は出来ないけど…… まだ見ぬ冒険があるって思ってさ 〟


〝 そうか…… 〟


ーー嬉しそうにしゃべるな…… こんなホビーの顔は最初で最後なんだよな……


〝 でも…… 今日でその楽しみも終わりだな…… 〟


〝 ………… 〟


〝 だからさ お前もこうなる前に楽しみ考えとけよ 俺のマネしても良いからさ 〟


〝 ……あぁ 気が向いたらな 〟


ーーあれがホビーとの最後の会話だった

俺は気が付くと涙を流しながら煉瓦を運んでいた

どうでもいい奴 そんな存在だった筈なのに

失って初めて 思うモノがある



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