ロストファビュラス主要国議事堂 西の庭園5 カルト・ジン・ハダシュトの昔話 後編
男達は気絶してしまったが俺だけはしっかりと見ていた
俺にとって常に聖母のような姉が 今日に限って本物の聖母様の様に輝いていたんだからな
「姉…… ちゃん?」
目から流れる血の涙は奇跡かな
その眼差しは俺を見つめ 優しい笑みを俺は受け取る
〝 ごめんね 〟
確かにそう聞こえた
共鳴するかのようなその白く巨大な扉は姉の声に呼応して開かれる
「ねっ…… 姉ちゃん!?」
鈍っていた
姉が死ぬという感覚が麻痺していた
扉のそれはこの世の物では無かったからだ
「待って…… 待ってよ」
隙間から既に溢れる異様な 直感的に濁流とでも例えようか
その扉が開くとはつまり姉の死を悟らせた
〝 カルト…… 〟
姉の手を取った
それと同時に姉は俺を自分の胸に抱き寄せる
「奇跡だ……」
恐怖と共に漏れた感想は矛盾していた
〝 カルトを守れている…… やっと姉として…… 〟
「うん…… ありがとう」
〝 あなたを視認して抱き締めることも…… あぁ幸せ 〟
「うん…… うん……」
背後から無数の異色な手が迫っていたが 受け入れていた そっと姉から離れる
「姉ちゃん……」
〝 あなたを見ているわ…… ずっとよ 〟
その異色の手が触れた箇所は魔蛍へと還り
姉から分解された魔蛍の集合体はその扉の真っ暗な濁流へと吸い込まれていった
取り残された魔蛍が自身の周りをうようよと纏い 姉の走馬灯で俺はその場に崩れ落ちた
いつの間にか扉は消え
周囲の男達も目を覚まし始める
「俺達は…… 何を……」
混乱する空白の時間の答えを出したのは
男達の背後に現れた集団の先頭に立つ象乗りの男だった
「ヤヌス…… いやここは敬意を持ってマリヤと讃えるべきかな」
パーマの髪型で雷斧を担ぐ彼は象から飛び降り 俺のもとへと走ってくる
「君が魅せる奇跡の使い道は何だね?」
「…………」
運悪く いや運良くその場で気絶した
意識が朦朧とする中 何かに運ばれる感覚はあった
「遠いなぁここら一帯は……」
意識がはっきりしてくると分厚い皮膚に顔面を擦る俺がいた
立ち上がるとそこが象の上だということに気付く
野生のそれも遠目でしか見たことがない巨大な生き物に幼い俺は驚いていた
しかし驚くべきはまた別に 辺り全てが人に覆われた場所に俺はいたのさ
「〝オテル・デ・ミル・コリン〟……」
「難民を匿っている【ホテル】だ あっちの丸い建物は【マホロバスタジアム】
どちらも民族紛争から逃れて来た避難民があそこで暮らしている」
「異民族の問題はエボラ川周辺だけじゃなかったんだ……」
「【三つの大陸】全てだ ……まぁ取り敢えず君の家族の墓を作ろう
その地におらずとも眠る場所に魂が帰るからね
あっ遅れた! 私はバァルカ・アフリカヌス・ハンニバル!
ようこそ ここはウランダという国だ!!」
見たこともない建物を気にしながらも
丘の上へと向かう俺は 人の手を借りて家族分の墓を建てた
名前を彫れば忘れない自分がいると笑みを浮かべたときの安堵を今も覚えている
バァルカが〝君の家族の墓を作ろう〟と言ってくれたが
現状 嬉しいとは思わなかった
小道に出れば 人間が列になって死に倒れていたのだから
当事者から見れば日常になって死への尊さも薄れていた
ホテルに行く道中でバァルカにそのことを話したら
彼は俺の頭を軽くど突きやがった そして
〝 それは君がショックで麻痺しているだけだ
例え今まで付き合いの身近い近所の住人が死ぬ惨状が目に入って来ても
それを見過ごしてはならない 自分が生き残って伝えていかなければならないのさ
責任や覚悟の話ではない これから生き残る君は考えて そして逃げてはいけない話だ 〟
ホテルの中は外よりも満員だった
すでに過激派から逃れてきた穏健派と他の被害民族が身を寄せ合い
ホテルなのにまるで集落を築いている
そんな避難民はバァルカに敵意を向けていた
小さい驚きだ 自分の中じゃ既に彼を英雄視していたようだ
その彼は堂々とホテルの副支配人と話をしている
「毎日毎日万を超える死者が出ている…… 各国の政府が崩壊したという情報も聞いた
謎のラジオ放送が過激派を刺激させ 誰が実権を握っているのか分からない状況だ」
「スレイシャガル・ファミリアフォードット・ネイティビアス
この大陸のあちこちの小国を植民地化している大国だ
今回の発端はその植民地が原因と言ってもいいだろう
だがもっと掘り下げねばならないのは他民族とのコミュニテイの欠落と言っていいだろうな
スレイシャガルが和平協定を調印しても
ここの連中は暴動や虐殺が終わらないと理解しているのが証拠だ
この大陸内部を早々にまとめなければならなかったのが本筋だったのさ」
「だが敵は強大な…… 〝先進国〟だぞ!」
「どうせ差別され 奴隷になる未来なら 変わらなければならない」
「何をする気だ?」
副支配人とバァルカの話を聞いていた俺はふと背後から肩を叩かれた
「ヒィィ!! ご…… ごめん 僕トロヤって言います」
「…………」
訳も分からず萎縮する同い年くらいの少年に俺も戸惑った
それが俺とあの軟弱な王パリスとの出会いさ
バァルカはそんな俺達に近付き 二人の肩を掴みながら副支配人に言った
「この三つに…… たった三つだけに分かれた大陸を一つにしようと思う
トゥ・トア・フリカ共和国がこの大陸を統一国家にしてやるさ!!」
「……貴方方はどこからともなく現れた 何者なんだ?」
「さぁな……
だが歴史に遺る物はいつの時代も立ち上がるとこから始まったのさ
俺達の場合は今ここからだ!!」
これが〝バァルカ・アフリカヌス・ハンニバル〟 トロヤの兄貴だ
彼はこの後 戦死し 俺達二人は彼の意思を受け継いで七大国の一角になるまで頑張ったのさ
「カルト…… お前は世界を見てきてくれ!」
「どういう意味だ?」
「兄上が言っていた 〝この世では立場を理解する者が居場所を守れる〟と
俺は国の支配の立場から そしてお前は…… 自由の立場からこの大国を守ってくれ」
「旅人になれってか?」
「俺は…… 過去の虐殺で死体を見ていない」
「いやお前…… ホテルに来ただろ」
「当時の俺はそれを何とも思わなかった」
「…………」
「惨劇を上っ面で語るだけで現場を知らない 大人と同じ見て見ぬ振りの立場だ
だから自由に世界を見たところで何も得られない お前にしか出来ないんだカルト!!」
「ウキウキしながら言うなよ馬鹿王様……」
互いに大人になって 唯一上の者と下の者の関係を超えた絆を築き上げ 別れを告げていた
大国の王トロヤ・パリス・ハンニバル 後に人間国宝カルト・ジン・ハダシュト
パリスとジンは二人で名付け合った愛称
意味は〝俺達は同族だ〟という誓いだ




