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ロストファビュラス主要国議事堂 西の庭園3 カルト・ジン・ハダシュトの昔話 前編


俺が育った場所は

まだ大国と呼ばれていなかった頃のトゥ・トア・フリカ共和国から遠く離れた小さな町だった

レンガを積み上げて藁の屋根を被せただけの小屋みてぇな家に

七人家族がギッシリ詰め込まれて住んでいたさ


「お兄ちゃん…… お腹空いた」


図々しくも可愛い弟は自分で何かを食べることもままらない程まで衰弱していてな

自分の中で一番に綺麗だと思っていた姉の目も 今は薄汚れて何も見えない状態でいる


「仕事行くぞぉカルト!!」


母も寝たきりで祖母に関しては生きているのかどうかも分からねぇ

口を開ける動作に合わせて祖父が飯を食わせる光景は日常だった

唯一頑丈で動ける祖父と父と俺で家族を養うなんてことは当たり前


「ヤム芋は積んだな 出発するぞ」


「うん……」


ここいらで駄載獣ださいじゅうとして使役されるヨツコブラクダの両端から突き出るコブに

ヤク芋が入った袋を掛けて父と一緒に数キロほど離れた街まで売りさばきに行く

帰りには等価交換で貰う食料と飲める水を積んでまた数キロの道のりを歩く

この仕事で丸一日が潰れる

積み切れない荷物を自分が持つことで大きな役に立てると

小さい子供の猪を持つ俺は誇らしげに担いで帰ったのを今も覚えている


何もする事がない空いた時間には弟と遊んでやっていた

姉は近くの切り株に座り 俺達が楽しく遊んでいる様を耳で聞き取る

それが一番の楽しみだったそうだ

近所の子がよく木の皮を丸めたボールを持って来る光景に興奮していた

そのボールを蹴り上げているときは

数人の子供達と同じ物を見ていると自覚したときは気分が昂ぶっていた

姉の傍で見学している弟にかっこいい所を見せたかっただけかもしれないが


日が暮れて家に帰ると 父が料理を作って待っていたさ

既に帰っていた姉も出来る範囲で手伝い 小屋の裏で祖父が薪を割る音が俺の夕方のイメージだ


「お帰りなさいタトゥ カルト」


「ただいまぁ!!」


弟が母に近寄る

俺は弟が生まれたときから母に抱きつくことを卒業していた

そんなクール振っている俺を察して 姉が俺を抱きしめてくれていた


「皿を運んでくれ ピアス」


「はいお父さん カルトも座って!」


いつの日か姉を母と照らし合わせていた

目の見えない弱々しい姿が当時の俺には強く気高く

食事は男四人外で食べていた

家族というよりも活気に話す父と祖父と食べることで大人同士の食事だと捉えていたからだ


「フリーク! 俺は明日ヤク芋の収穫で動けねぇ お前は市場で肥料を買ってきてくれ」


「親父だけじゃ無理だろ」

 

大人の会話を余所に 藁を敷いて寝ながら聞いていた俺は

一緒に寝ている弟が起きないように二人のもとへと向かった


「パンク爺ちゃん!! 肥料は俺が買ってくるよ!!」


「大丈夫か? お前だけで?」


「子供扱いするなよ!」


頭をバシバシ叩かれる俺はふて腐れつつも 認められたことで夜も眠れなかった

近くで開かれているマーケットも等価交換だ

俺と そしてどうしてもと付いて来た弟と一緒に頼まれた肥料を探す

弟に関しては初めて大勢いる場所に来たもんだから 握っていた手からその緊張が伝わる

肥料と言っても馬糞だから匂いのする方へと辿れば 自然に店の前に着く簡単なお使いなんだがな


「一袋分下さい!」


「あいよ……」


日常だが愛想の悪い店主から 弟は俺の後ろへと隠れる

ずっと離さない手を俺が離すわけにもいかず

片手で持っていた子猪の肉と交換して肥料の入った汚い袋を受け取っていた


「お兄ちゃん……」


「もう帰るから大丈夫だタトゥ」


鼻水を垂らした弟の笑顔を見ながら家に帰ろうとした そのときだった

奥から小さく鳴る発砲音 その恐ろしい音に理解出来たのは 向こう側から走ってくる男の形相から


「逃げろぉ!!! 異民族だぁ!!!!」


叫ぶ男も脳天を撃ち抜かれ 事の危険が周囲に広がる


「お兄ちゃん!!」


「逃げるぞ!! 俺におぶれ!!」


奥から攻めてくる武装集団に逃げ惑う人々

この辺りは民族紛争が絶えない土地で

複数国家という統治不可能な現状で起こる異民族達の虐殺が絶えない

賑わっていた市場も地獄へと化す


耳を澄ますとあちこちから悲鳴が鳴り響く

その覆いたくなる断末魔の方向はいよいよ俺達が暮らす場所からも聞こえてきた


「父ちゃん……! 母ちゃん!! 爺ちゃん!!! 婆ちゃん!!!! 姉ちゃん!!!!!!」 


裏路地を陰にして走る俺は馴染んだ表通りへの光に安堵した

その角を左へ曲がれば


ーー曲がれば…… いつものように家族が


足に何かを感じた それと同時に俺はその場に転び 地面に足を擦り着ける

血に染まる身体を無視して落とした弟へと目を配ったのだが


「うわぁぁぁぁぁぁ!!! タトゥ!! タトゥぅぅぅぅぅ!!!!」


人間は正直だ それ故に尊く恐ろしい生き物だと悟った

俺を撃ったであろう異民族の一人は俺が振り向く間に弟を殺していた

そして弟は俺に助けを求めていたかの表情を遺して逝ってしまった


俺はふと殺した相手を眺める

彼 いや彼女 いや少女は何とも思っていない目で銃口を向けていた

また死角からの発砲音 それと同時に目の前の少女が頭から血を噴いて倒れる

俺はしばらくその場を動かなかったが 次の銃声音で弟を担いだ

不思議と倒れて死んだ彼女ではなく彼女の衣類に書かれた赤い文字を読む


ーーエボラ・リヴァリス


少女の名前か 気にした俺は正気じゃなかったのかもな

何を思っていたのかホント不思議なもんだ

そんな言動を取る俺は 角を曲がるときには何かしら察していたのかもしれない

その情景を見るまで考える時間があったんだからな


親父と祖父は案の定 家の前で死んでたよ 蜂の巣にされてな

同じくその場で倒れていた姉に近寄ってようやく自分を取り戻した


「姉ちゃん!!」


姉は一発の銃弾を腹部に受けているにも関わらず息をしていた

冷たい弟を家の中の母親の隣に寝かせると 隣から声がする


「カルト……」


両手を腹部で握っていた母親とその隣で寝ている祖母には銃弾の跡が無かった

敵が仕留めたと勘違いしたんだろうか


「母ちゃん…… ごめん…… 皆を守れなかった」


人間は正直だ 自分の言葉にすら従順なのだからな

俺は改めてその現実を見渡す そのときの心情がどれだけ苦痛で地獄だったか


「ぅぅぅぅ………! ぁぁぁああああああ!!!!

守れながっだぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!」


同時に思った 母は強ぇよと


「誰が生きているの?」


「姉ちゃんが息を…… でももう……」


「では守りなさい あなたの唯一の家族を」


「えっ……」


目も見えねぇのに俺の座る場所を理解していたのは驚いた

両手で俺の身体をまるで見えているかのように包み 自分の肌へと引き寄せる


「これからはカルトとピアスだけで生きるのよ…… 目の見えないピアスの分も頑張るのよカルト」


「何言ってんだよ…… 四人で逃げようよ!!」


ここぞと甘える俺に母親も失望しただろうな

何年分と我慢していた我が儘をここぞとばかり叫く俺に

ようやく落ち着いたのは祖母が笑ったときだった


「ぅぅ! ぅぅぅぅ!」


頼り甲斐のない弟が姉を背負って家を出て行く

残された母親は死体となったタトゥを〝寒くないよ〟と言い続けていた

俺がいつも抱いていた妬ましさから魅せる とても美しい光景だったよ 生涯一の芸術だ

そんな家から俺は離れて行くのだと 何で出て行かなくてはならないのだと

家に帰りたいと 誇りだったと


ーー帰りたい 帰りたい 帰りたい!!!!


夕日に家路を急ぐあの感覚へと戻りたい


ーーあれ? すぐ後ろがそうだよな? 振り向けばそこが……


そこにあるのは燃えさかる俺の家だった

異民族の奴らが戻って来てあちこちで火を放ち始めていたのだった

まだ母が生きている 祖母も生きている 


ーー何笑ってやるがんだ異民族共……!! ……でも


〝 これからはカルトとピアスだけで生きるのよ 〟


枯れた涙で俺は姉を背負い 前へ前へと足を引き摺った



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