大国漢の国 首都洛華2 大事な話
城の玉座へと招かれた趙炎
艶は皇帝が座るべき椅子には座らず 景色が見える窓の方へと進んで立ち止まる
飲み物を二人分用意して持ってくる従者から艶はグラスを受け取り 趙炎にも勧めた
「ここから見える景色は良い…… 空と海だけ」
「…………」
趙炎は飲み物を一口だけ頂き それ以上飲むことはなかった
「話とは……」
「あぁ悪い悪い 翌年の七大国協定会議は知ってるな?
翌年と言ってもそう遠くはないが趙炎 お前にも護衛兵の一人として付いて来るんだ」
「……?! 私がですか?」
「そうだお前だ!」
高笑いする艶に趙炎は混乱する
「何故…… 私なのでしょうか?」
「……期待の星って奴だからだ
これからの漢の国を息子達と共に支えてくれるお前に一つでも多くの現場を知ってほしい」
艶の言っている意味を理解していない趙炎
しかし心のどこかで察したかのような そんな嬉しい気持ちが微かに湧き出ていた
「そしてもう一つ話があるのだが…… これはどちらかと言うと頼み事だ」
艶の表情は先程までの表情とは打って変わって険しい顔となっている
「火女桜はお前からすればよく知ってるな?」
「はい…… 五年前のガルバークの一件以来まともに会ったことはありませんが……」
「うむ……」
「……?」
艶は言いにくい顔を趙炎に見せるが 一瞬目を瞑って艶は話した
「実はお前に火女桜の〝ある秘密〟を探ってほしいのだ」
「秘密?」
「この領界から逸れた東にある国……
ユレイシア海に数カ国存在する閉鎖国家の一つである【日の国】に関する事なんだ」
火女桜とは
漢の国を裏で支え暗躍する組織であり 晋に忠誠を示している暴力を背景に活動する犯罪集団
そして日の国とは 漢の国の領界より東部に位置する鎖国国家と呼ばれ
また当国もそれを主張している七大国の傘下に加入しなかった国
「噂ではあちらの国も似たような裏組織があると聞いているが
どうもうちの火女桜との接触があるらしいんだ」
「確かな情報が入ったのですね?」
「……近々我等は日の国を強引に攻め込む行動に出る」
「え?」
突然の艶の言葉に驚く
ユレイシア海を統治する連盟である七大国が 加盟していない国を無視してきた訳では無いが
横暴な処置を施そうとはして来なかった
それが甘さだったのか日の国や魔法都市すらもこちらの申し出に一切耳を貸さなかったのも現状
「戦争になるってことですか?」
「言ってしまえば一方的な勝敗となるだろうな…… 私は勿論否定したさ
だが私も予想にしなかった事が起きた」
「予想しなかった事ですと? 陛下が?」
「息子の司馬軌宛てに七大国から
日の国を漢の国の傘下国にするよう書状が送られて来たのだ」
「……陛下を通さずにですか?」
「大国の考えは分かっている
次の晋王候補は長男である第一皇子の司馬軌だと私も言い触らしておったのは事実だしな
品定めってところだ…… 私はこの事は周りに知らないとされている」
「はぁ…… ですが……」
「分かっている…… 筋が通らないのも重々承知
さすがに聞いた当初は大事な息子を危険に晒そうとしている奴等に腹が立った
しかし息子も今年でお前と同じ齢二十一を迎える 王位を受け継ぐ年齢でもおかしくはない
本人もやる気だ 間違ってもいない
次代の皇帝として息子のやる事に背中を押さねばならぬのか…… 悩んでおるのだ」
「っ……」
遠い海の果てを見据える艶に 何も言うことができない趙炎だった
「話を戻すが…… 今の話の流れならば司馬軌の動きが火女桜を通し
日の国に密告されている可能性があるやもしれん」
「……それが本当に行われているか確認するのが陛下の命令ですね?」
「……あぁそうだ 明朝一人で確認を頼む」
「はっ!!」
趙炎は陛下に頭を下げ 玉座の扉を開け出て行こうとしたその時 艶が不意に声を投げ掛ける
「無理はするなよ…… 趙炎」
「えっ…… あっはい!」
趙炎は再度お辞儀をしてその場を去った
廊下を歩き 入り口へと向かう趙炎に背後からまた別の声が掛かった
「父上と何を話してたんだ趙炎?」
「……司馬軌様」
趙炎が振り向くと そこには側近を数人引き連れた司馬軌が立っている
「司馬軌様が行おうとされている日の国への進軍の任に関して
火女桜がその情報を日の国に流していると情報が入ったようです」
趙炎は幼馴染故 彼の性格をよく知っている
このタイミングで出逢ったとなれば艶との話を聞かれていたことは間違いない
ので趙炎は隠すことなく話した そしてそれは当たる
「やはりお前には敵わぬな しかし火女桜の件…… それが本当なら厄介だな」
「ですから私が明日調査をしてくるよう命じられました」
「そうか…… 頼んだぞ趙炎」
趙炎は司馬軌に頭を下げ その場を後にする
「無邪気な頃より…… 呼び捨てはもう其方の口からは出ぬか……」
彼もまた反対方向へと歩いていった
城内の広場を通り過ぎて 門を出た彼の横には関尾が待っていた
「話は終わったのか?」
「はい 明日にまた別の仕事を任されました」
「気に入られたもんだな…… 良い事だ」
「ありがとうございます」
褒められる趙炎の素直な表情に 関尾は肩を優しく掴み
「これから飯でもどうだ? ライゴクでの一件を終えた祝杯でもしようぞ」
「……はい!」




