海原への旅立ち3 予想外の助け舟
ヴァジュラの各街でも激しい戦いが起きていた
しかし漢の国の将軍数人で事が鎮まるのは早かった
「こんなものか……」
「関尾殿!!」
荒くれ者の身体を山積みにする 一人の大柄な武将の前に一人の兵が近寄って来て
「趙炎は戻ってきたのか?」
「いえ…… おそらくですが守護神を持つ趙炎殿でも手強い敵かと……」
兵の言葉に関尾が険しい顔をする
「七大国で危険視している海賊は全員行方知れず……
それ以前にあの船には海賊旗なども見当たらない まさか革命軍か?」
関尾はここの処理を兵達に任せ 残った兵と共に港に向かった
海上に張り巡らされた氷塊の地にて ニクロと趙炎の死闘が繰り広げられている
「生弓天照神の草薙・軍火竜!!」
神の力を炎へと変え 強化した趙炎はニクロの周りを不規則に飛び回る
「くそっ…… 動きが速すぎる」
目で追うニクロはあることを思い出した
ーー……絶円
「魔蛍達…… 教えてくれ」
ニクロは早速新しい技を試みた その隙を趙炎は見逃さない
「これで終わりだぁ!!」
何物も貫く槍先が ニクロの目の前まで近付くその時
ーー……遅い
ニクロの手は趙炎を捉えた その手からは黒雷が放たれる
「ロキトル!!!!」
黒い雷と炎の槍との打ち合い
どちらの大技も負けを譲らず相殺によって周辺を巻き込む衝撃が生まれた
「「 ………… 」」
趙炎は今の状況を受け入れられない
ーー馬鹿な…… 神の力と互角? やはり変な感じの正体はこいつか……
「ハァハァ……」
海から出て来るニクロは再度氷を張り直すが 一人分の面積が精一杯
「……今楽にしてやる!!」
トドメを刺そうとする趙炎に対してニクロは打開策を考えていた
しかしこの状況でしかも海の上ではまず避けられない
「趙炎!!」
遠くから現れる関尾の軍船を前に ニクロには迫り来る絶望しか見えてなかった
あの時と同じ奴隷だった頃の地獄を思い出す
老人を仲間を守れず 何も出来なかったあの頃
今この時 同じ状況に恐怖よりも惨めさが勝る
趙炎が距離を取って勢いを付けて突進した そして槍先がニクロの心臓を捉える
ーークソ!! クソ!! 俺はまた……
ニクロは目を瞑って自分を責め続ける
〝 ナット…… おいナット!! 〟
ーーナット…… それは俺の本名だ 爺ぃが教えてくれた
そうか…… アンタと同じところを行けたんだな
彼はふと目を開く 見る先は天国か地獄かそう思っていたが
「ナット・ウォード…… だよな?」
天国でも地獄でも無い光景にニクロは混乱した
目の前には趙炎の槍を自分の武器で受け止めている見知らぬ人物が宙を浮く
「お前は確か…… クロズメ!?」
「その名前覚えてくれてたのか燭の将軍さん 確かお前もガルバークにいたな」
槍を弾いて今にも沈みそうなニクロの手を取って距離を空ける
「大丈夫か?」
「ゲホッ!! ウエッホ!! ……誰だ!?」
「シフォン そう呼んで良い」
ニクロは呆気に取られる中 シフォンが着々と事を進める
「ということでこいつは俺が貰う」
「はい!?」
シフォンの言葉にニクロと趙炎が驚いていた
趙炎は魔力を溜めてシフォンと二クロを逃がさない
「〝革命反士のクロズメ〟 他のメンバーと違いお前だけは情報がまるで無い
そいつの存在に何か価値があるとでも言うのか?」
「さぁな…… これからかもな」
「〝これから〟だと……?」
「そろそろ行く 漢の国とはあまり関わりを持ちたくねぇ」
そう言ってシフォンの背後からは魔法陣が出現する
ーー転送でもやるつもりか?
趙炎は周りに白く光る複数の勾玉型の砲弾を生み出した
「神級魔法 生弓天照神の八坂」
手を振り上げると同時にその勾玉は ニクロとシフォンに向け発射された
「待ってたよ……」
後ろの魔法陣を前に出し シフォンは微かな笑みを見せた
数個ある強大な魔力が込められた勾玉はその魔法陣に次々と吸収されていき
「!?」
「悪りぃな…… ごちそうさん」
強力な魔力を吸い取ったシフォンは自分の魔力と練り合わせ
「無作為・無責任の悪魔!!」
シフォンがその呪文を唱えたとき 趙炎の視界が光で覆われた
目を見開いた先には巨大な怪鳥が現れる
「〝イツマデ酉〟…… やはりこれだけ魔力を賭ければ出てくる物の次元が違う」
シフォンはニクロをその怪鳥にぶん投げ シフォン自身もそこに乗る
「今ので魔力も大分減っただろう ここは見逃せ!!」
「…………」
確かに大技を数発撃った趙炎は 表に出さないもののかなりの疲労が溜っていた
「私がまだいる!!」
声がする方へ三人は振り向く そこには関尾が薙刀を持って宙に浮いている
「アイツも…… 神使いなのか?」
「神に忠誠…… つまり守護神を持つ者に服従を誓い 自身の能力を分け与えられた者
賢族士と呼ばれるのが奴だ」
「!!?」
神の力を使う者が二人も現れたことにシフォンも少々驚く
「むぅん!!」
魔力を溜めていたのか 突然の関尾の一振りで大気を裂く斬撃の塊が
怪鳥にいるニクロ達目掛けて飛ばされた
「チッ!!」
シフォンも怪鳥を操って逃げようとするがさすがに斬撃の速さは勝てない
それを悟るニクロは動かない身体を必死に動かして前に出る
「何をする気だ?」
「ハァ…… ハァ…… 守核!!」
ニクロは腕に魔力を溜める 持てるすべての魔力だった
「身体硬直・鋼化!!」
腕を鋼に変えて斬撃を受け止め 関尾の大技は二つに割れて二方向へと軌道が逸れる
「なんと……」
怪鳥は海の彼方へと飛び去り 趙炎は追おうとしたが関尾に止められた
「まだ守護神を使い熟せていない ここは見逃そうぞ」
「すみません……」
軍船に戻った趙炎は関尾に頭を下げる
「お前は後の漢の国を背負う戦力だ 今は無理を強いる時ではない」
趙炎は頭を上げるなり ニクロ達が飛び去った方角を見つめる
ーーナット・ウォード そしてクロズメ ……一体何を企んでいる
「関尾殿! 趙炎殿! 捕えた無法者達は全員軍船の牢に入れました」
「よし…… では皆の者ご苦労だった 燭の軍はこれを持って帰国する」
関尾の指示で兵達が準備に取り掛かるとまた別の兵がやって来て
「関尾殿…… よろしいですか?」
「どうした?」
「ライゴク王国がこれを……」
「…………」
兵から一通の手紙を渡される 内容は今回の掃討作戦についての〝分け前話〟だ
「……皇帝陛下が判断するだろうな
翌年は〝七大国協定会議〟
七大国を治める王の中の王達が集い
ここ数年で検討されている大事件全てがその日に清算されよう
故に何が起こっても驚いてなどいられん」




