友が眠る場所8 入れ替わる歯車
俺に対して本気の恐怖を感じているキスティアは
俺から避けるかの様 家を飛び出して行った
自分がそこから動けなかった 何が起きたのか理解出来なかったからだ
数時間経って俺はギルドの方へと向かった そこにキスティアがいそうな気がしたから
ギルドの扉を開ける
そこには社員がキスティアを匿うように密集していた
俺は声を掛けた その瞬間社員達が俺を睨み付けて来て
「アイツか……」
社員達が構える
「……キスティア! 家に帰ろう」
俺の言葉にキスティアは怯え 社員はさらに身構える
そして先頭にケルンが出て来た
「誰だか知らないが人の家に勝手に上がってどういうつもりだ!?」
「何を言ってるんだケルン! 俺を騙しているのか?」
ドルが一歩進むと 銃声が鳴った
「!?」
撃ったのはケルンだった
「俺達の仲間に近付くな!!」
次々と構えられる銃にドルは思わずギルドから飛び出す
何が起きているのかも分からない 帰る場所も突然無くなる
必死に逃げ回って気が付けば町の裏路地に寝ていた
取り敢えず地下闘技場に行く 考えずとも足が進む場所だったから
しかし控室に行こうとした時にスタッフに止められた
「申し訳ありませんが この先関係者以外立ち入ることをお断りしています」
また意味のからない言葉に襲われた
「俺はここのチャンピオンだろ?!」
急に叫ぶ俺に数人のスタッフがまたもや銃を構えて
「デタラメ言わないで下さい ここ地下闘技所のチャンピンは〝ルラン選手〟です
これ以上迷惑を掛けられるとこちらも対処しなければなりません」
最初の居場所からも追い出された
ドルは国中を走り回った 走りながら整理した
俺が何をしたのか 皆で俺を弄でいるのか
そう考えながら森の奥で立ち止り 声が枯れるまで叫んだ
叫んで叫んで暫くそこで座り込んでいた
考えて思い浮かぶのはキスティアだった
彼女の言葉は常に嘘は無かった だからこそ現状が分からない
考えて考えて 俺は単純な答えに辿り着く
ずっと我慢させていたんだ
こんな身勝手な俺に 周りはずっと我慢してくれていた
ケルンも地下闘技場の奴等も 俺の我が儘に付き合ってくれていた
それが今になって愛想を尽かされた
ーーハハ…… 簡単なことだ
俺は人知れず笑った 笑って泣いて 泣いて笑って
そして目が痒くなる頃には朝になっていた
俺は決意し この島を出る事を決める
だが一つだけ 最後にキスティアの顔が見たいが為にギルドへ向かった
顔を隠しながら町を歩く すると妙な噂が聞こえてきた
「まさかチャンピオン自ら椅子を軽々捨てるとは」
「聞けば恋人が人質に取られて 要求を呑んだんだとよ」
「どこぞの下劣な店で働く女って噂だぜ?」
「偽善者振って本気になっちゃって感情移入しちまったんじゃねーの?」
「結局その女も敵側の美人局だったって話だ 金でも積まれたんだろうよ」
「せっかく登り詰めた地位が…… 救えねぇ話だ」
俺にそんな恋人はいない
闘技場の奴等も俺を知らない こいつらの言ってるチャンピオンも知らない存在になってた
まるで国中の記憶が書き換えられているようだった
ギルドに着き 窓から中を覗いてみる
そこには昨日とは嘘の様にキスティアはケルンと笑っていた
そこにもう一人見知らぬ奴もいた
何はともあれ幸せそうで良かったが
人の心というものが分からなくなってくる
手元にあった少ない金で船を譲って貰った
稼いだ金はキスティアが預かってくれていたからな
二年くらいここを離れようと思う もっと自分を成長させる為に
またここに戻ったらギルドに入ろう
そしてキスティアに謝る ケルンにも謝る
もう一度あの頃に戻れるように
ただ一つだけ気掛かりなのは〝ルランという存在〟
結局この国に戻っても何一つ変えられない
試験は曖昧に終わり 昔の時間も取り返せない
挙句の果てには元奴隷だった奴の背中も押してやれない
生まれた時から中途半端な俺はただ死んでいくのか
ーー違うだろ!!
やっと俺にも出来た仲間 いや
あの歳で俺達みたいな仲間を持てるニクロ
世間知らずの奴隷だった奴が自ら危険に立つ向かって仲間を助けていた
俺でも出来なかった安全の無い現実に立ち向かうアイツの姿を見て
助けてやりたい アイツのヒーローになりたい
だから目の前のオーガに立ち向かっている
なのにこの様だ 身勝手に死のうとしている
ーー違うだろ!?
「もう立ち上がるなよドルさん!!」
「十分だろ!? 逃げろよドル!!」
オーガのトドメにさすがの俺も動けない でも聞こえてくる
壁越しで必死に手を貼り付けて心配してくれている
これも一つの幸せだ そう教えてくれたのは
俺は必死に足を動かしてニクロ達のいる壁に凭れ掛かる
「ニ…… クロ……」
「……!?」
教えてやれるものは無い 学も無いんだからな
だが俺が今まで生きていた中で言えることは一つある
いや生きて来たからこそ 〝これから〟に伝えていかなければならない
「どれだけ頭が良くなろうが…… どれだけ馬鹿でいようがな
……何かを守る事の大切さを忘れるな」
「……!!」
「……約束だぜ!!」
伝えたいことは伝えた 俺が今まで生きてきた中で伝えられることは
笑っちまうくらい一言で済んじまった
これであとはその言葉通りに俺が動くだけだ
背中をよく見とけ 口約束じゃねぇ 男の約束としてオーガに勝ってやる
ーー頂全速!!
全てを賭して 目の前の壁を打ち砕いて見せてやるぜ




