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しみ  作者: 大窟凱人


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2/9

人型

 二十分ほどして、ベッド周りの作業は一段落した。


 高橋は残置物を分けている。最初は一つ物を動かすたびに相馬を見ていたが、今は入れる袋を自分で決め、手を動かしていた。

 相馬は、汗で背中に貼りついた防護服ごと腰を伸ばした。


「ここ終わったら、次あっちな」


 廊下の左手にある小部屋を顎で示す。


「あの狭い部屋ですか」


「そう」


「了解です」


 壁の時計が正午に近づくころ、相馬の腹が鳴った。


「腹減りましたねえ。あ、もしかして先輩、今日も昼、おにぎりだけですか」


「悪いか」


「飽きないのかなと思っただけっすよ。コンビニ行けばいいのに」


「アホか。コンビニなんて高えよ」


「三百円くらいじゃないですか」


「その三百円を毎日払うのが嫌なんだよ。自分でつくれば百円で済む」


「ほんと金使わないっすね」


「お前も節約しろ。自販機でジュース買うとかありえないから」


「何でそんなに貯めてるんです?」


「教えるか。職場の人間に話していいことと悪いことくらい知っとけ。あと口より手」


「はいはい」


「はいは一回」


「はい」


 高橋が笑った。

 相馬は返事の代わりに、汚れたウエスを袋へ落とした。


 給料が入れば、先に貯蓄と投資へ回す。昼は塩むすび二つ。水は大きめの水筒へ入れて家から持ってくる。別に、車も時計も欲しくない。彼女なんてのもいない。

 腹が減ってから米を炊き、洗ったTシャツが乾くまで待つ。

 そんな日を自分で選べるようになるまで、あと少しだった。


「そこ、燃えるゴミじゃねえぞ」


「はい!」


 高橋は返事の勢いのまま、ゴミを別の袋へ移した。

 次を拾う手を止め、高橋は相馬の肩越しを見た。


「……相馬さん」


「なんだよ」


「袋」


 相馬は振り返った。

 壁際の黒い廃棄袋が、畳から数センチ浮いていた。

 ガサ、と中で布が擦れた。袋の底がふくらみ、しぼむ。次の音は少し上からした。もう一度。今度はさらに上だった。


「おい」


 袋の結び目がゆっくり持ち上がった。左右のビニールが張り、人の肩のような形になる。片方だけやけに高い。そこが一度へこみ、少し下でもう一度ふくらんだ。

 今度は、肩に見えた。

 その上が丸く持ち上がった。

 高橋だけが一歩下がった。


「相馬さん……」


 折りたたんで捨てた布が、黒いビニールの内側からぴたりと押しつけられた。

 次の瞬間、破裂音と共に袋が裂けた。

 黒褐色のシーツが畳へ滑り落ちる。

 一瞬、ただの汚れた布に戻った。

 だがすぐに、その中央が、ゆっくり持ち上がった。


 四隅を畳に残したまま、誰かが内側で立ち上がるように高さを増していく。頭ができ、肩ができ、胴が伸びる。右肩だけが少し低かったが、一度沈むと、今度は左と同じ高さまで持ち上がった。


 人の形だった。


 相馬は頭ではなく、裾を見た。

 脚がない。

 シーツの下端と畳のあいだを、細い暗がりが端から端まで通っていた。

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