楽しみにしていた祭り 後編
それから数日後。
ルシアはすっかり元気になっていた。
いつものように中庭へ向かうと、先に来ていたカイルが木の下で待っている。
「ルシア」
「カイル様。お待たせしました」
「ううん。ちょうど今来たところ」
カイルはいつもと変わらない穏やかな笑顔を浮かべている。
けれど、今日は少しだけ様子が違った。
「ルシア。今夜、時間ある?」
「今夜ですか?」
「うん。少し付き合ってほしいんだ」
ルシアは首を傾げた。
「どこかへ行くんですか?」
「中庭」
「……ここですか?」
「そう」
ますます不思議そうな顔をするルシアを見て、カイルは小さく笑った。
「夜になったら、ここに来て」
「はい」
そして夜。
約束通り中庭へやって来たルシアは、カイルの姿を見つける。
「カイル様」
「来たね」
カイルの手には、小さな箱があった。
「それは?」
「開けてみて」
ルシアが箱を覗き込む。
中に入っていたのは、何本もの線香花火だった。
「……花火」
「うん」
ルシアの目がぱっと輝く。
「どうして……?」
「この前、見られなかったから」
カイルは線香花火を一本取り出した。
「お祭りの花火ほど大きくはないけど」
火をつける。
小さな火花が、静かな夜の中でぱちぱちと弾けた。
ルシアは嬉しそうに笑う。
「きれい……」
「座って見ようか」
二人は並んで腰を下ろした。
ルシアも線香花火を手に取る。
「……嬉しいです」
「それならよかった」
「カイル様、ありがとうございます」
「どういたしまして」
小さな花火は、ほんの短い時間だけ夜を彩る。
それでもルシアにとっては、お祭りの日に見たかった花火よりも大切なものになっていた。
「カイル様」
「ん?」
「来年は……お祭りの花火、一緒に見られますか?」
カイルは少し考えるように夜空を見上げる。
「もちろん」
そしてルシアのほうを見て、微笑んだ。
「そのときは、ちゃんと元気な日にね」
「……はい」
ルシアは少しだけ頬を膨らませる。
「この前は、ほんのちょっとだけでもってお願いしたのに」
「だめなものはだめ」
「……やっぱり、少しだけ嫌いです」
「まだ言ってるんだ」
カイルが笑う。
ルシアもつられて笑った。
手元では、最後の火花が小さく弾ける。
そして静かに消えた。
二人はしばらく、その小さな煙を眺めていた。




