楽しみにしていた祭り 前編
年に一度のお祭りの日。
朝から城の中も、いつもより少しだけ浮き足立っていた。
夜には町で大きな花火が上がる。
ルシアはずっと、この日を楽しみにしていた。
「今日はお祭りですね」
朝食の席で、ルシアは嬉しそうにカイルへ話しかける。
「うん。夜が楽しみだね」
「はい。カイル様と一緒に花火を見るの、楽しみにしていました」
「僕もだよ」
ルシアは笑っている。
いつもと変わらないように見えた。
けれど。
カイルはふと、ルシアの顔を見つめた。
「……ルシア」
「はい?」
「今日は少し顔が赤くない?」
「そうですか?」
ルシアは何でもないように笑った。
「朝だからでしょうか」
「……そうかな」
カイルはそう言いながら、少し気になっていた。
食事をするルシアの様子も、いつもよりゆっくりしている。
それでも本人は楽しそうにしていた。
「夜になったら、どこから花火を見るんですか?」
「町の近くまで行こうかと思ってる」
「本当ですか?」
「うん」
「楽しみです」
嬉しそうに笑うルシア。
その笑顔を見て、カイルはそれ以上言えなかった。
けれど、朝食が終わる頃。
ルシアが立ち上がった瞬間、カイルはそっとその手を取った。
「ルシア」
「はい?」
「ちょっとこっちに来て」
「?」
カイルはルシアの額に手を当てる。
「……やっぱり」
「何がですか?」
「熱がある」
ルシアの笑顔が、一瞬止まった。
「……少しだけですよ」
「微熱だね」
「でも、本当に少しだけです」
ルシアは困ったように笑う。
「夜までには治ります」
「今日は休もう」
「えっ」
「部屋で寝ていて」
「でも……」
ルシアは思わずカイルを見る。
「今日、お祭りですよ?」
「うん」
「花火……」
「また見られるよ」
「年に一度なんです」
「分かってる」
カイルは優しく言った。
「だからこそ、今日は諦めよう」
「……嫌です」
ルシアは小さな声で言った。
「どうしても行きたいです」
「ルシア」
「ちょっとだけでも……」
「だめ」
即答だった。
「少しだけなら、熱も大したことないと思います」
「だめだよ」
「でも……」
「今日は寝ていよう」
何度お願いしても、カイルの答えは変わらない。
やがてルシアは、見るからに不貞腐れた顔になった。
「……分かりました」
渋々、自分の部屋へ戻っていく。
ベッドに入ってからも、ルシアは納得していない。
布団をかぶりながら、隣に座るカイルへ小さな声で呟いた。
「……カイル様、嫌いです」
「聞こえてるよ」
「……知りません」
カイルは苦笑する。
それでもルシアの額に手を当てて、熱を確かめる。
「元気になったら、また楽しいことをしよう」
ルシアは返事をしなかった。
ただ、少しだけ布団の中で口元を緩めていた。




