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帰りを待つ 前編

朝。


ルシアはゆっくりと目を覚ました。


いつもと少し違う。


目を開けたものの、頭の奥に軽い痛みがある。


「……ん……」


起き上がろうとすると、頭がぼんやりした。


体には熱がこもっているような感覚があり、ふわふわと足元が頼りない。


しばらくベッドの上で座ったまま、ぼんやりしていた。


「……ちょっと、しんどいな……」


けれど、今日はカイルが朝早くから視察へ出る日だった。


帰ってくるのは夕方の予定。


せっかくの視察なのだから、帰ってきたカイルを心配させたくない。


ルシアはゆっくり身支度を整え、いつも通りに一日を過ごすことにした。


朝食をとり、部屋で本を読んだり、窓辺で外を眺めたり。


特別なことは何もしない。


ただ、時間が経つにつれて、少しずつ体が重くなっていった。


頭の痛みも朝よりはっきりしてきた。


頬が熱い。


それでもルシアは、


「夕方にはカイル様が帰ってくるし……」


と、自分に言い聞かせるように呟いた。


そして昼を過ぎた頃。


部屋にいるより、風に当たったほうが楽になる気がして、中庭へ向かった。


いつもの静かな場所。


カイルがよく本を読んでいる木の下。


ルシアは木の幹に背を預ける。


「……ここなら、少し休めそう」


目を閉じる。


風が木の葉を揺らしている。


その音を聞いているうちに、体の力が抜けていった。


少しだけ休むつもりだった。


けれど――


いつの間にか、ルシアは眠っていた。


***


夕方。


視察を終えたカイルが城へ戻ってきた。


いつものように穏やかな表情を浮かべながら、城内へ入る。


けれど、ふと足を止めた。


「……ルシアは?」


戻ったことを伝えようと周囲を見渡す。


しかし、どこにも姿がない。


近くにいた者へ尋ねる。


「ルシアを見なかった?」


「申し訳ありません。本日はお見かけしておりません」


その言葉を聞いた瞬間。


カイルの胸がざわついた。


――また。


一瞬だけ、過去の記憶が蘇る。


何も言わずにルシアがいなくなった日。


探しても、探しても見つからなかった日。


ようやく再会できたときの、あの胸が締めつけられるような感覚。


「……」


カイルはすぐに踵を返した。


「カイル様?」


呼び止める声も聞こえない。


まず向かったのは、ルシアの部屋。


いない。


次に、よく行く場所。


廊下。


庭。


けれど、姿が見えない。


そして――


カイルの中に、ひとつの場所が浮かんだ。


中庭。


扉を開ける。


静かな風が吹き抜けた。


「……ルシア?」


返事はない。


カイルは奥へ進む。


そして。


木の下に、人影を見つけた。


「……!」


ルシアだった。


木にもたれたまま、静かに眠っている。


その姿を見た瞬間、カイルの胸を覆っていた不安が、一気にほどけた。


「……いた……」


思わず小さく息を吐く。


見つかった。


ちゃんとここにいる。


それだけで、まずは安心した。


けれど――


近づいたカイルは、すぐに何かがおかしいことに気づいた。


眠っているルシアの頬が赤い。


呼吸も、普段より少し速い。


「ルシア……?」


カイルはそっとしゃがみ込む。


そして、起こさないように手を伸ばした。

額に触れる。


その瞬間、カイルの表情が変わった。


「……熱い」


明らかに熱があった。


こんな状態で、一人でここにいたのか。


カイルは心配そうにルシアの顔を見つめる。


すると、触れられた感覚に反応したのか、ルシアの瞼がゆっくり開いた。


「……ん……」


熱のせいで、瞳はいつもより潤んでいる。

ぼんやりとカイルを見つめる。


呼吸も少し速い。


けれど、カイルの姿を認めた瞬間。


ルシアの表情がふっと緩んだ。


「……カイル……様……?」


カイルは安心させるように、優しく微笑んだ。


「ただいま、ルシア」


その声を聞いた途端。


ルシアの目が少しだけ細くなる。


嬉しそうに笑って、ゆっくりとカイルへ身を寄せる。


そして、その胸に顔をうずめた。


「……おかえり、なさい……」


弱々しい声。


それでも、とても嬉しそうだった。


カイルはそんなルシアをそっと抱きとめた。


その腕の中で、ルシアは安心したように小さく笑っていた。

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