帰る
数日後。
カイルとともに城へ帰ることになった。
城へ向かう馬車の中。
窓の外を眺めながら、ルシアは少しだけ緊張していた。
「……本当に、帰っていいんでしょうか」
カイルは向かい側からルシアを見る。
「もちろん」
「でも……あんなふうに、何も言わずにいなくなってしまったのに」
「うん」
カイルは否定しなかった。
「それは、僕もすごく悲しかったよ」
ルシアは俯く。
けれど、カイルは続けた。
「でも、戻ってきてくれたから」
穏やかに笑う。
「もういいんじゃないかな」
ルシアはその言葉に、少しだけ目を潤ませた。
「……はい」
城に到着したとき。
ルシアは驚いた。
「……カイル様?」
城の門の前には、以前から城で働いていた侍女や侍従たちが集まっていた。
「ルシア!」
懐かしい声が聞こえる。
「お帰りなさい!」
次々に声をかけられ、ルシアは言葉を失った。
「……どうして」
「ずっと心配してたのよ」
「まさか、本当に帰ってくるなんて!」
ルシアの目から涙がこぼれる。
カイルは少し離れたところで、その様子を静かに見ていた。
数年間。
ルシアがいなかった間、カイルはひたすら仕事に向き合った。
国のために働き。
何度も地方を訪れ。
人々の声を聞いた。
問題があれば自ら足を運び、少しずつ信頼を得ていった。
かつては、のんびりと本ばかり読んでいる第二王子だと思われていたカイル。
けれど今は違う。
人々は、カイルのことを信頼していた。
そして、カイルがどれほど一人の女性を大切にしてきたのかも。
城に戻ったその夜。
国王から、カイルとルシアは呼ばれた。
「ルシア」
「はい」
ルシアは緊張しながら頭を下げる。
国王は少しだけ笑った。
「随分と長い時間をかけたな」
「……申し訳ありません」
「謝らなくていい」
ルシアが顔を上げる。
国王はカイルを見る。
「カイルは、この数年で自分の力を示した」
カイルは黙って聞いている。
「国のために働き、多くの者から信頼を得た。そして、今では自分の選択に責任を持てるだけの地位もある」
ルシアは驚いてカイルを見る。
国王は続けた。
「だからこそ、誰も反対しなかった」
「……え?」
「お前たちのことだ」
ルシアの目が大きくなる。
「カイルが選んだ女性を、身分だけを理由に否定する者はいない」
その言葉を聞いた瞬間。
ルシアの目から涙が溢れた。
「……本当、ですか?」
「本当だ」
カイルが、そっとルシアのほうを見る。
「僕が頑張ったからね」
「……ふふ」
涙を拭いながら、ルシアは笑った。
「自分で言うんですか」
「たまには」
その後。
二人のことは城中に知られることになった。
けれど、驚くほど反対する者はいなかった。
むしろ――
「やっとですね」
「カイル殿下、おめでとうございます!」
「ルシアさんも、おめでとう!」
二人はたくさんの人から祝福された。
ルシアは何度も信じられないように周囲を見渡す。
カイルはそんなルシアの隣で、静かに笑っていた。
「ね?」
「……はい」
「だから言ったでしょ」
ルシアが尋ねる。
「何をですか?」
カイルは穏やかに答えた。
「僕がどうするかは、僕が決めるって」
ルシアは涙を浮かべながら笑った。
数年前。
何も言わずに離れてしまった。
あのときは、自分がいなくなることがカ
イルのためだと思っていた。
けれど。
今なら分かる。
大切な人のために、自分の気持ちを消してしまうことだけが正解ではない。
カイルが積み重ねてきた数年。
ルシアが一人で過ごしてきた数年。
そのすべてを越えて。
ようやく二人は、同じ場所へ帰ってきた。




