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数年後

ルシアが城から姿を消して、数年が経っていた。


王家の一行がこの町を訪れるという知らせは、すでに町中に広まっていた。


町の中央にある広場には、多くの住民が集まっている。


カイルは一行とともに広場へ足を踏み入れた。


町の様子を確認しながら、集まった人々へ静かに視線を向ける。


何気なく。


本当に、何気なく。


その中に――見覚えのある姿を見つけた。


カイルの足が止まる。


人々の向こうに立つ、一人の女性。


その姿を見た瞬間、周囲の声が遠くなったように感じた。


まさか。


そんなはずはない。


数年という時間が過ぎている。


それでも、その姿から目を離せなかった。


「……」


カイルは、ただその女性を見つめた。


女性もこちらを見ている。


そして――目が合った。


その瞬間、ルシアの瞳が大きく見開かれた。


カイルも息を止める。


髪型が変わっていても。


服装が変わっていても。


数年の歳月が流れていても。


分からないはずがなかった。


――ルシア。


「……ルシア」


思わず、その名前が口からこぼれた。


ルシアの表情が揺れる。


驚き。


戸惑い。


そして、何かから逃げるような苦しそうな表情。


カイルが一歩、前へ進む。


「ルシア」


もう一度、その名を呼んだ。


その瞬間だった。


ルシアはくるりと背を向け、走り出した。


「――待って!」


カイルの声が広場に響く。


集まっていた人々が驚いて振り返る。


けれど、ルシアは止まらない。


人々の間をすり抜け、広場の外へ走っていく。


「ルシア!」


カイルもすぐに追いかけた。


「カイル様!?」


後ろから呼び止める声が聞こえる。


それでも、カイルは止まらなかった。


目の前に現れたルシア。


その姿を見た瞬間、何も考えられなくなっていた。


ただ、もう一度その姿を見失いたくない。


「待って!」


細い路地へ入っていくルシアの背中を追いかける。


角を曲がる。


人の間を抜ける。


必死に追い続ける。


けれど――


「……っ」


次の角を曲がった時。


そこには、誰もいなかった。


カイルは足を止める。


静かな路地を見渡した。


左右へ続く道。


閉じられた扉。


建物の陰。


どこにも、ルシアの姿はない。


「……ルシア?」


返事はなかった。


さっきまで、確かに目の前にいた。


目が合った。


自分のことを見ていた。


そして、逃げた。


カイルはゆっくりと息を吐く。


「……見つけたのに」


ようやく会えたと思った。


ほんの少しの距離まで近づいたのに、また姿を消してしまった。


それでも。


カイルは静かな路地の奥を見つめる。


「……この町にいる」


それだけは分かった。


カイルはそう呟き、ゆっくりと顔を上げた。


一方、その頃。


ルシアは人目のない場所まで走り、壁に手をついて立ち止まっていた。


乱れた息を整えながら、胸元に手を当てる。


「……どうして」


震える声が漏れた。


まさか、この町にカイル様が来るなんて。


ルシアは、ぎゅっと目を閉じた。


城を離れてから、もう数年が経っていた。


もう二度と会えないと思っていた。


会いたかった。


ずっと。


会いたかったはずだった。


それなのに――


目が合った瞬間、逃げてしまった。


「……カイル様」


その名前を口にした途端、胸の奥が締めつけられる。


忘れようとしていた時間も。


閉じ込めていた気持ちも。


カイルの姿を見ただけで、すべて戻ってきてしまった。


「……ごめんなさい」


誰に聞かせるでもなく、小さく呟く。


ルシアは目元を押さえた。


そして、カイルのいる場所から離れるように、静かに歩き出した。

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