立場
隣国の一行が帰国してから、数日が経った。
その日の午後。
カイルが執務室で仕事をしていると、王様から呼び出しがあった。
カイルは王様のもとへ向かった。
「カイル、少し話がある」
「はい」
カイルは王様の前に座った。
王様は少し間を置いてから、口を開いた。
「先日来ていた隣国の姫だが……向こうから正式に婚約を進めたいとの申し出があった」
カイルは静かに聞いていた。
予想していた話だった。
それでも、実際に言葉にされると胸の奥が重くなる。
「……そうですか」
「まだ最終的な決定ではない。だが、相手側は前向きに話を進めたいと考えているようだ」
カイルはしばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと顔を上げる。
「父上」
「何だ?」
「僕には……心に決めている人がいます」
王様の表情が変わった。
「心に決めている人?」
「はい」
カイルは迷わず続けた。
「僕は、その人とこれからも一緒にいたいと思っています」
王様はしばらく何も言わなかった。
やがて、静かな声で言う。
「カイル。お前が誰を想っているのかは、いずれ聞こう」
「……はい」
「だが、自分の立場をよく考えなさい」
カイルは黙って王様の言葉を聞いた。
「お前は王族だ。自分の気持ちだけで決められないこともある」
「分かっています」
「ならば、感情だけで答えを出すな」
カイルは俯き、静かに息を吐いた。
「……はい」
王様の言葉は、それ以上続かなかった。
けれどカイルには分かっていた。
これから、自分の気持ちだけではなく、王族としての立場とも向き合わなければならない。
それでも――。
心に決めた人がいることだけは、もう隠さなかった。




