ふたりで考える
翌日。
ルシアはいつも通り、カイルの仕事を手伝っていた。
昨日、婚約の話を聞いたばかりだというのに、カイルはいつもと変わらない様子で仕事をしている。
けれど、時折ふっと手を止めることがあった。
「カイル様?」
「うん?」
「何か考えてますか?」
「……少しね」
カイルは微笑んだ。
「でも、昨日よりは楽になった気がする」
「私が聞いたからですか?」
「うん」
ルシアは少し嬉しそうに笑った。
昼過ぎ。
仕事が一段落すると、二人はいつもの中庭へ向かった。
カイルは木の下に座り、本を開く。
けれど、今日はすぐには読み始めなかった。
「昨日のこと、まだ考えてるんですか?」
「うん」
カイルは本を閉じた。
「でも、僕がどうしたいかは決まってるよ」
ルシアが静かに顔を上げる。
「……そうなんですね」
「うん」
カイルは迷いなく頷いた。
「僕は、ルシアとこのまま一緒にいたい」
ルシアの表情が少しだけ柔らかくなる。
「だから、迷っているわけじゃないんだ」
「はい」
「ただ……王族として、どうすればいいのかを考えてる」
カイルは空を見上げた。
「隣国との関係も大切だし、父上が僕に話をした理由も分かってる」
「……はい」
「だからって、自分の気持ちをなかったことにはできない」
その言葉に、ルシアは何も言わず頷いた。
「僕は、ルシアとの時間を手放したくない」
カイルはまっすぐにルシアを見る。
「だから、どうすれば両方を守れるのかを考えたい」
ルシアは少し考えてから、穏やかに笑った。
「じゃあ、それを一緒に考えましょう」
「うん」
「カイル様が一人で全部背負わなくてもいいですから」
カイルは小さく笑った。
「……昨日も同じこと言われたね」
「何度でも言いますよ」
「ありがとう」
静かな中庭で、二人は並んで座った。
婚約の話がなくなったわけではない。
これから先、簡単ではないことも分かっている。
それでもカイルは、もう一人ではなかった。




