楽しみ
それから、ルシアが中庭へ来る回数は少しずつ増えていった。
仕事が終わったあとに立ち寄る日もあれば、昼休みに少しだけ顔を出す日もある。
「カイルさん、今日は何を読んでるんですか?」
「歴史の本だよ」
「難しそう……」
ルシアは隣から本を覗き込む。
「私、歴史ってあんまり得意じゃないんです」
「そう?」
「覚えることが多くて」
「じゃあ、僕が覚えやすいところから教えようか」
「本当ですか?」
ルシアは嬉しそうに身を乗り出した。
カイルは本を開いたまま、簡単なところから説明していく。
ルシアは真剣に聞いていたが、しばらくすると小さくあくびをした。
「……眠い?」
「ちょっとだけです」
「仕事、大変だった?」
「今日は掃除する場所が多かったんです」
「それなら、少し休んでいけばいいよ」
「でも、カイルさんのお仕事は?」
「僕はここにいるだけだから」
「庭師なのに?」
「……今日は休憩中」
カイルが穏やかに答えると、ルシアはくすっと笑った。
「カイルさんって、のんびりしてますね」
「よく言われるよ」
二人で笑う。
そのとき、城の鐘が鳴った。
ルシアが慌てて立ち上がる。
「いけない、次の仕事の時間です!」
「急がなくていいよ」
「でも行かないと!」
ルシアは駆け出しかけて、ふと振り返った。
「また来ますね!」
「うん。待ってる」
「約束ですよ!」
笑顔を残して、ルシアは城へ戻っていった。
一人になったカイルは、木の下で本を開く。
けれど、今日はなかなかページをめくる気になれなかった。
「……待ってる、か」
自分で口にした言葉を思い返して、カイルは小さく笑った。
ただの庭師として過ごしているはずの中庭。
そこへルシアが来ることが、いつの間にか楽しみになっていた。




