言ってほしいこと
それから数日。
カイルは、以前にも増して一人で考え込むことが多くなった。
廊下を歩いていても、ふと足を止める。
執務室でも本を開いたまま、長い間ページをめくらない。
そして、誰かに声をかけられると、少し遅れてから返事をする。
ルシアはそんなカイルの姿を何度も見かけていた。
「……カイル様、最近どうしたんだろう」
二人きりになれば、いつものように話してくれる。
笑ってくれる。
けれど、その合間にふっと表情が曇ることがある。
そのたびに、ルシアは気になった。
ある日の夕方。
中庭で二人きりになった時、ルシアはとうとう口を開いた。
「カイル様」
「ん?」
「最近、ずっと何か考えてますよね」
カイルの手が止まる。
「そうかな」
「はい」
ルシアは少しだけ困ったように笑った。
「前にも、考え事をしていることはありましたけど……最近は、いつもより多い気がします」
カイルは答えなかった。
ルシアはそんな彼を見つめる。
「何かあったんですか?」
「……」
「私に言えないことですか?」
カイルは少しだけ視線を逸らした。
まだ話せない。
そう思った。
けれど、ルシアは続けた。
「前に、二人で考えようって言いましたよね」
カイルがルシアを見る。
「私も一緒に考えたいって言って……カイル様も、そうしようって言ってくれました」
「うん」
「だから……」
ルシアは言葉を選ぶように、ゆっくり話す。
「何かあったなら、教えてほしいです」
カイルは黙ったまま、ルシアを見つめた。
「私には何もできないかもしれません。でも、カイル様が一人でずっと悩んでいるのを見るのは、少しつらいです」
その言葉に、カイルの表情が揺れた。
自分はルシアを守ろうとして、また一人で抱え込もうとしている。
それは、二人で考えると約束したこととは違う。
「……ルシア」
「はい」
カイルはすぐには話さなかった。
隣国との婚約。
王族としての責任。
簡単には断れない話。
まだ何も決まっていない。
だからこそ、どこまで話すべきなのか迷っていた。
けれど――
「……少しだけ、話してもいい?」
「もちろんです」
ルシアは静かに頷いた。
カイルは一度、深く息を吐いた。
そして、まだ口にはしていなかった大きな問題について、話し始めようとしていた。




