王族としての選択
中庭でルシアと話した数日後。
カイルは父王に呼ばれていた。
王の執務室に入ると、父王はいつになく真剣な表情をしていた。
「カイル。話しておきたいことがある」
「はい」
カイルが席につく。
「隣国の王族から、お前との婚約について申し入れがあった」
「……婚約?」
カイルの表情がわずかに止まった。
「相手は隣国の王女だ」
父王は続ける。
「以前から両国の間では、関係をより強固なものにする話が出ていた。今回の婚約も、その一環だ」
カイルは黙って聞いていた。
「これは単なる縁談ではない。両国の政治的な関わりもある。簡単に断れる話ではないことは、お前にも分かるだろう」
「……はい」
返事は静かだった。
けれど、胸の中にはルシアの姿が浮かんでいる。
――私も一緒に考えたいです。
中庭で聞いた言葉。
カイルは目を伏せた。
「まだ正式に決まったわけではない」
父王が言う。
「だが、断るのであれば、それなりの理由と、国としての対応が必要になる」
「……そうですか」
カイルはしばらく黙っていた。
そして顔を上げる。
「父上。少し時間をください」
「何を考えている?」
「……これからのことを」
父王は息子を見つめた。
「分かった。だが、簡単な問題ではないことは覚えておけ」
「はい」
カイルはそれ以上、何も言わなかった。
執務室を出る。
廊下を歩きながら、カイルは一人で考え続けていた。
隣国との関係。
王族としての責任。
そして――ルシア。
彼女に話そうと思えば、話すことはできる。
けれど。
今の段階で伝えれば、きっとルシアは悩む。
自分との未来を考えてくれるだろう。
けれど同時に、自分の立場を気にしてしまうかもしれない。
だから、まだ話さない。
まずは自分ができることを探す。
父王とも、もう一度きちんと話す。
婚約を断る方法が本当にないのか。
別の形で隣国との関係を維持できないのか。
自分が王族として何を差し出せるのか。
そこまで考えてから、ルシアに伝えたい。
「……まだ、言わないでおこう」
カイルは小さく呟いた。
隠したいからではない。
ルシアを一人で不安にさせたくないからだった。
そして何より――
ルシアとの未来を諦めるつもりは、少しもなかった。




