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二人の決意

午後の仕事が一段落した頃。


ルシアは、久しぶりに中庭へ向かった。


最近は忙しかったこともあり、ここへ来るのも少し減っていた。


静かな扉を開ける。


風が木々の葉を揺らしている。


そして――


「……あ」


木の下に、カイルがいた。


いつものように、本を片手に座っている。


「カイル様」


「ルシア」


カイルが顔を上げる。


その瞬間だけは、最近感じていた距離などなかった。


「久しぶりだね」


「はい。最近、なかなか来られなくて」


「忙しそうだったからね」


カイルは本を閉じた。


ルシアは少し迷ってから、いつもの場所に腰を下ろす。


「カイル様も……最近、あまり来られてませんでしたよね」


「うん」


「お忙しかったんですか?」


「それもあるかな」


カイルは少しだけ空を見上げた。


まただ。


ルシアは思った。


最近、カイルは時々こうして考え込む。


何か大切なことを考えているような横顔。


「……カイル様」


「ん?」


「最近、何かありました?」


カイルはルシアを見る。


少し迷ったあと、穏やかに尋ねた。


「どうしてそう思うの?」


「なんとなくです」


ルシアは膝の上で手を重ねた。


「それに……人がいる時、少しだけ私と距離を取っているような気がして」


カイルの表情がわずかに変わった。


「……そう見えてたんだね」


「はい」


ルシアは少し困ったように笑う。


「私の気のせいかもしれないんですけど」


「気のせいじゃないよ」


静かな声だった。


「最近、僕たちのことを話している人がいるんだ」


「……噂、ですか?」


「うん」


ルシアは黙った。


やっぱり、そうだった。


「だから、人がいる時は?」


「そう」


カイルは頷いた。


「君が嫌だからじゃない。むしろ逆なんだ」


そして、少し間を置いて続ける。


「ルシアを巻き込むようなことにはしたくないんだ」


ルシアはカイルを見つめた。


少し考えてから、ゆっくりと言う。


「……でも、私のことでもありますよね」


「ルシア……」


「カイル様だけが考えなくてもいいと思います」


ルシアはまっすぐカイルを見る。


「私も一緒に考えたいです」


その言葉に、カイルは黙った。


「噂のことも、その先のことも……二人のことなら、二人で考えたいです」


カイルはしばらくルシアを見つめていた。


やがて、ふっと表情が柔らかくなる。


「……そうだね」


「はい」


「一人で考えようとしてた」


「少しだけ、そう見えました」


ルシアが笑う。


カイルも小さく笑った。


「じゃあ、一緒に考えようか」


「はい」


二人の間に、静かな風が通り抜ける。


問題がなくなったわけではない。


王子と侍女。


その身分の違いは、二人の前に確かにある。


それでも――


カイルはもう、一人で答えを出そうとは思わなかった。


そしてルシアもまた、隣にいるカイルと一緒に、この先を考えていこうと思った。

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