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距離をとる

翌朝。


カイルは、いつもより早く目を覚ました。


窓から差し込む光をぼんやり眺めながら、昨日聞いた言葉を思い返していた。


――最近、ルシア様と殿下は親しくされているようだ、と。


まだ噂と呼べるほどではない。


けれど、誰かが気づき始めた以上、このまま何も変えなければ、いずれ広がっていく。


カイルは静かに息を吐いた。


「……難しいな」


身分が違う。


それは、二人が恋人になる前から分かっていたことだった。


けれど、実際に周囲の目を意識するようになると、その重さは以前とは違って感じられた。


その頃、ルシアはいつものように仕事をしていた。


廊下でカイルとすれ違う。


「カイル様、おはようございます」


いつもなら、カイルも足を止める。


「おはよう、ルシア」


それだけの短いやり取りでも、ルシアは嬉しそうに微笑む。


けれど――


「おはよう」


今日のカイルは、それだけだった。


足を止めることもなく、そのまま通り過ぎていく。


ルシアは振り返った。


「……?」


ほんの少し、胸に引っかかる。


けれど忙しさのせいだろうと思い、すぐに仕事へ戻った。


昼過ぎ。


書類を届けるため、カイルの執務室へ向かう。


扉の前まで来たところで、中から声が聞こえた。


「最近、殿下が侍女と親しくされているという話が――」


ルシアの足が止まる。


聞き間違いだろうか。


続きが聞こえる前に、ルシアはそっとその場を離れた。


自分のことだとは限らない。


そう思おうとした。


けれど、胸の奥に小さな不安が残った。


一方、執務室では。


「その話は、もういい」


カイルが静かに言った。


「ですが殿下――」


「分かっているよ」


穏やかな声だった。


それでも、その言葉にはいつもの柔らかさとは違うものがあった。


「これ以上、ルシアを巻き込みたくない」


カイルは窓の外を見た。


視線の先には、城の中を行き交う侍女たち。


その中に、ルシアの姿を探してしまう。


会いたい。


話したい。


いつものように、中庭で本を読みながら、今日あったことを聞きたい。


けれど今は――それをすること自体が、ルシアを傷つける可能性がある。


カイルはしばらく黙っていた。


そして、小さく呟く。


「……少し、考える時間が必要だね」


その日から。


カイルは、ほんの少しずつルシアとの距離を取るようになった。

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