噂
数日後。
城の中で、少しずつ妙な噂が広がり始めていた。
「最近、第二王子殿下とルシアって、よく一緒にいるわよね」
「専属侍女だからでしょう?」
「それにしても……」
侍女たちの会話は、それ以上続かなかった。
ルシアは新人侍女。
対してカイルは第二王子。
ただ専属侍女として親しく接しているだけなら問題はない。
けれど、二人が以前から中庭で会っていたことも、城下町へ出かけたことも、知っている者はいない。
それでも最近は、カイルがルシアをそばに置くことが増えた。
仕事中に呼ぶことも多い。
公務にも同行させる。
周囲から見れば、ただの主従関係にしては少し近く見える。
その日の夕方。
カイルは廊下で、側近から声をかけられた。
「殿下」
「うん?」
「最近、ルシアという侍女と随分親しくされているようですが……」
カイルの足が止まった。
「……そう見える?」
「はい」
側近は少し言葉を選んだ。
「もちろん、専属侍女ですから、殿下のおそばにいること自体は不自然ではありません。ただ……」
「ただ?」
「城の者たちが、少し気にし始めています」
カイルは黙った。
さっきまで穏やかだった表情から、わずかに笑みが消える。
ルシアの立場を考えれば、当然だった。
王子と侍女。
どれだけ二人の間に気持ちがあったとしても、簡単に許される関係ではない。
もし噂が大きくなれば、困るのは自分だけではない。
ルシアのほうだ。
「……わかった」
カイルは短く答えた。
その頃、何も知らないルシアは、いつものように仕事をしていた。
カイルのそばで働けることを嬉しく思いながら。
けれどカイルは、その日から少しだけ考えるようになった。
今までと同じようにしていていいのか。
自分がルシアをそばに置くことで、彼女を困らせることにならないか。
――好きだから近くにいたい。
それだけでは済まない立場なのだと、改めて思い知らされていた。




