専属侍女になる
午後の中庭には、穏やかな風が吹いていた。
久しぶりにここへ来たルシアは、木の幹に背を預けるカイルの隣で、静かに空を見上げていた。
「……やっぱり、ここ好きです」
「僕も」
カイルは本から顔を上げる。
「でも、最近はあまり来られなかったね」
「はい……。仕事が重なってしまって」
ルシアは苦笑した。
「中庭に来ようと思っても、気づいたら一日が終わってるんです」
「それなら、少しくらい仕事を減らせないかな」
「そういうわけには……」
「そっか」
カイルは無理に勧めなかった。
ただ、少しだけ考えるように目を伏せる。
翌朝。
ルシアが仕事へ向かうと、侍女長に呼び止められた。
「ルシア、今日から第二王子殿下付きの専属侍女を務めてもらいます」
「……私が、ですか?」
思いがけない言葉に、ルシアは目を丸くした。
「はい。これまでとは仕事の内容も少し変わりますから、わからないことがあれば聞いてくださいね」
「わかりました。精一杯務めます」
その日の午後。
ルシアは専属侍女として、カイルの執務室へ向かった。
「カイル様、失礼します」
「ルシア」
カイルが顔を上げる。
「今日から専属侍女になったんだって?」
「はい。私も今朝聞きました」
「そっか」
カイルは嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、これから一緒にいられる時間が増えるね」
「……はい」
ルシアも嬉しそうに笑う。
「私も、カイル様のおそばでお仕事できるの、楽しみです」
「うん」
カイルはそれ以上、理由を話さなかった。
けれど心の中では、別のことを思っていた。
――これなら、ルシアがまた無理をして頑張ってしまっても、すぐ近くで気づける。
中庭で会える時間だけではなく、仕事をしている時間もそばにいられる。
それなら、少し安心できる。
カイルはそんなことを胸の内にしまったまま、いつもの穏やかな笑顔をルシアに向けた。
「これからよろしくね、ルシア」
「はい。よろしくお願いします、カイル様」




