落ち着く場所
中庭に戻ってきたルシアは、いつもの場所まで歩いていく。
けれど、木の下まで来ると、ふっと息を吐いた。
「……なんだか、久しぶりですね」
「うん。少し久しぶり」
カイルはそう答えながら、隣の場所を軽く示した。
ルシアが腰を下ろす。
しばらく二人とも何も話さなかった。
風が木の葉を揺らし、静かな音が中庭に広がる。
ルシアは目を閉じて、ゆっくり息を吐いた。
「……ここ、落ち着きます」
「そう?」
「はい。最近ずっと忙しかったので」
「知ってる」
「え?」
「廊下ですれ違うたび、急いでたから」
ルシアは少し驚いたようにカイルを見る。
「見てたんですか?」
「うん。何度か」
カイルはいつもの穏やかな調子で答えた。
「声をかけようかなって思ったけど、忙しそうだったからやめた」
「……すみません」
「だから、謝らなくていいって」
カイルは小さく笑う。
「ただ、少し気になってた」
その言葉に、ルシアは黙った。
忙しさの中で、中庭へ来られないことを気にしていたのは自分だけだと思っていた。
けれど、カイルも同じように、この場所で待っていたのだ。
「……私も」
「うん?」
「来たいとは、ずっと思ってました」
ルシアは少し照れながら続ける。
「でも仕事が終わると、もう動けなくて」
「そっか」
カイルはそれ以上何も言わなかった。
ただ、ルシアの隣で本を開く。
「今日は?」
「今日は、もう少しここにいたいです」
「じゃあ、そうしよう」
ルシアはほっとしたように笑った。
久しぶりの中庭は、以前と何も変わっていない。
それなのに、しばらく来られなかった分だけ、二人にとって少し特別な場所に感じられた。




