熱が出る
翌日の午後。
カイルはいつものように、中庭の木の下で本を開いていた。
けれど、今日はなかなか集中できない。
いつもなら、この時間になるとルシアが少しだけ顔を出す。
昨日のこともあって、カイルは何となく気になっていた。
しばらくして本を閉じると、カイルは中庭を出た。
廊下を歩いていると、ちょうど侍女長の姿が見えた。
「侍女長、少しいいかな」
「はい、カイル様」
カイルは自然な様子で尋ねる。
「今日ルシアを見かけなかったんだけど……何かあったのかな」
「ルシアですか?」
侍女長は少し表情を曇らせた。
「今日は朝から熱が出てしまって。医師にも診てもらい、部屋で休ませています」
「……熱が?」
カイルの胸に、昨日のルシアの姿が浮かんだ。
疲れた顔をしながらも、まだ仕事が残っていると言っていた。
「はい。昨日も少し疲れているようでしたから」
「そう……」
カイルは一瞬黙った。
心配していることを表に出しすぎないようにしながら、穏やかに尋ねる。
「今は休めている?」
「はい。今日は仕事もさせていません」
「それならよかった」
カイルは小さく頷いた。
「教えてくれてありがとう」
「いえ」
その場を離れたカイルは、少し考えてからルシアの部屋へ向かった。
二人の関係を知る者は、城内にはほとんどいない。
だから、あくまで一人の侍女を見舞うだけ。
そう自分に言い聞かせながら、部屋の前まで来る。
そして、静かに扉を叩いた。
「ルシア。ぼくだけど……入ってもいい?」
少し間があってから、弱々しい声が返ってくる。
「……はい」
カイルはそっと扉を開けた。
ベッドの上には、頬を少し赤くしたルシアがいた。
「カイル様……」
「うん。ちょっと顔を見に来た」
カイルはいつもの穏やかな笑顔を浮かべ、ベッドのそばの椅子に腰を下ろした。
「昨日、無理をしないようにって言ったばかりだったのにね」
「……すみません」
「謝らなくていいよ」
カイルは静かに首を横に振る。
「今日は仕事のことは忘れて、ちゃんと休んで」
ルシアは少し困ったように笑った。
「はい……」
カイルはその返事を聞いて、ようやく少し安心した。




