無理をする
午後の仕事が一段落した頃。
ルシアはいつものように、誰も来ない静かな中庭へ向かった。
そこではカイルが木の根元に背を預け、本を読んでいた。
「カイル様」
「ルシア。今日も来たんだね」
「はい。少しだけ休憩です」
そう言って笑ったルシアだったが、カイルは本を閉じた。
いつもより笑顔が弱い。
歩き方も、少しだけゆっくりだった。
「……疲れてる?」
「え?」
「今日は、いつもより疲れて見えるよ」
ルシアは少し考えてから、苦笑した。
「最近、ちょっと忙しくて」
「仕事が多いの?」
「私の仕事だけなら、そうでもないんですけど……」
ルシアは膝の上で手を組んだ。
「誰かが困ってると、つい手伝ってしまって。気づいたら、自分の仕事も後回しになっていて……」
「そっか」
カイルは責めるようなことは言わず、静かにルシアを見た。
「ルシアらしいね」
「……そうですか?」
「うん。でも」
カイルは少しだけ困ったように笑う。
「優しいのはいいけど、全部引き受けなくてもいいと思うよ」
ルシアは返事をせず、遠くの木々へ視線を向けた。
しばらくして、立ち上がる。
「そろそろ戻りますね」
「もう?」
「まだ仕事が残ってるんです。先に戻らないと」
「……そう」
カイルも立ち上がった。
「じゃあ、無理はしないでね」
「はい」
「本当に。人の仕事を手伝うのも、自分の仕事が終わってからでいいから」
ルシアは少しだけ驚いた顔をして、それから柔らかく笑った。
「気をつけます」
「うん」
カイルはそれ以上引き止めなかった。
けれど、去っていくルシアの背中を見ながら、しばらくその場に立っていた。
いつも誰かを助けているルシアが、自分自身のことを後回しにしている。
それが、カイルには少し心配だった。




