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焼き菓子

数日後。


カイルは領地の視察のため、城を離れていた。


出発の日も、ルシアは侍女として他の者たちと同じように見送りをした。


「いってらっしゃいませ、カイル様」


「うん。行ってくるね」


それだけの短いやり取り。


けれど、二人だけに分かるように、カイルがほんの少し微笑んだ。


そして数日後。


カイルが城へ戻ってきた。


視察を終えたカイルは、まず公務の報告を済ませる。


その日の夕方、いつもの中庭へ向かうと――。


すでにルシアが待っていた。


「カイル様、お帰りなさいませ」


「ただいま、ルシア」


その言葉に、ルシアは少しだけ笑った。


「視察、お疲れさまでした」


「ありがとう。ルシアも仕事、お疲れさま」


カイルはそう言ってから、持っていた小さな包みを取り出した。


「そうだ。これ」


「……私に?」


「うん」


ルシアが驚いた顔をする。


「視察先で見つけたんだ。ルシアが好きそうだなって思って」


包みを開けると、中には小さな焼き菓子が入っていた。


「わぁ……!」


ルシアの顔がぱっと明るくなる。


「ありがとうございます、カイル様」


「気に入った?」


「はい。すごく嬉しいです」


ルシアは大切そうに包みを見つめる。


「視察中も、私のこと考えてくれてたんですか?」


カイルは少し照れたように笑った。


「うん」


「……嬉しいです」


ルシアは焼き菓子を見ながら、ふわっと笑った。


カイルはそんなルシアを見て、視察先でこれを見つけたときのことを思い出す。


珍しいものを見つけたとき。


美味しそうなものを見つけたとき。


綺麗な景色を見たとき。


以前なら、自分一人で楽しんで終わっていた。


でも今は違う。


「これ、ルシアが好きそう」


そんなふうに、自然とルシアのことを考えるようになっていた。


「カイル様?」


「ううん。なんでもない」


「?」


「喜んでもらえてよかったなって思ってた」


ルシアは嬉しそうに笑う。


「私も、帰ってきてくれて嬉しいです」


その言葉に、カイルは少しだけ目を細めた。

「……僕も、早く帰ってきたかった」


二人はそれ以上何も言わず、いつもの木の下で並んで過ごした。


離れていた数日を埋めるように、ゆっくりと話しながら。


いつもの中庭で過ごす時間が、今日はいつも以上に嬉しかった。

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