自覚
数日後。
夕方の中庭で、カイルとルシアはいつものように並んでいた。
最近は、二人で過ごすことがすっかり自然になっている。
ルシアが話して、カイルが聞く。
カイルが本を読んで、ルシアが隣で静かに過ごす。
そんな時間が、二人にとって大切なものになっていた。
けれど、その日は少し違った。
ルシアが珍しく黙っている。
「ルシア?」
「はい?」
「今日は静かだね」
「……少し考え事をしてました」
カイルは本を閉じた。
「何かあった?」
ルシアはしばらく迷ってから、ゆっくり口を開いた。
「私……カイル様といる時間が、すごく好きなんです」
「うん」
「でも、最近ちょっと怖くなることがあります」
カイルが黙ってルシアを見る。
「カイルさんは王子様で、私は侍女で……」
ルシアは膝の上で手を握った。
「このまま、カイル様のそばにいていいのかなって」
カイルはすぐには答えなかった。
ルシアの言葉を、静かに受け止める。
そして、穏やかな声で言った。
「僕は、ルシアにそばにいてほしいよ」
ルシアが顔を上げる。
「身分とか、立場とかじゃなくて」
カイルはルシアを見る。
「僕がそう思ってるから」
その言葉に、ルシアの胸が大きく揺れた。
「……カイル様」
「最近、僕もずっと考えてたんだ」
カイルは少し照れたように笑う。
「ルシアに会えると嬉しい」
「……」
「会えないと、少し寂しい」
ルシアの目がゆっくり見開かれる。
「それに、ルシアが誰かと楽しそうにしていると、なんとなく気になってしまう」
カイルは自分でも困ったように笑った。
「たぶん、僕はもう……ただ一緒にいるのが好きってだけじゃないんだと思う」
静かな中庭に、風が通り抜ける。
ルシアは何も言えなかった。
けれど、頬が少しずつ赤くなっていく。
カイルはそんなルシアを見ながら、優しく続けた。
「だから、無理に答えなくてもいいよ」
「……でも」
ルシアが小さな声で言った。
「私も、同じです」
カイルが目を瞬く。
「カイルさんに会えると嬉しいです」
ルシアは少し恥ずかしそうに笑った。
「会えないと、寂しいです」
そして、ほんの少しだけ視線を逸らす。
「カイル様が他の人と楽しそうにしてると……私も、ちょっと気になります」
二人の目が合った。
しばらく、どちらも何も言わなかった。
それだけで十分だった。
カイルはようやく、自分の気持ちに名前をつけた。
――ルシアが好きなんだ。
そのことを、もう否定できなかった。
「……ルシア」
「はい」
「もう少しだけ、時間をもらってもいい?」
「何の時間ですか?」
カイルは穏やかに笑った。
「ちゃんと伝えたいことがあるから」
ルシアは少し驚いたあと、嬉しそうに頷いた。
「はい。待ってます」
夕暮れの中庭で、二人の距離はまた少し近くなった。
そしてカイルは決めた。
次にここで会ったときには、もう迷わない。
自分の気持ちを、ちゃんと言葉にしようと。




