お気に入りが増える
翌日。
ルシアは朝から、昨日カイルに言われたことを思い出していた。
――中庭じゃないところ。
どこへ連れて行ってくれるのだろう。
気になって仕方がない。
仕事をしていても、ふとした瞬間に思い出してしまう。
「……楽しみだな」
小さく呟いて、ルシアは笑った。
そして午後。
仕事を終えて廊下を歩いていると、向こうからカイルがやってきた。
「ルシア」
「カイル様!」
いつもより少し嬉しそうな声になる。
「待ってた?」
「はい。……ちょっとだけ」
カイルはそんなルシアを見て、柔らかく笑う。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
二人は並んで歩き始めた。
中庭へ向かうときとは違う廊下を進んでいく。
しばらく歩くと、カイルが階段の前で足を止めた。
「ここから上」
「上ですか?」
「うん」
ルシアは首を傾げながら、カイルの後についていく。
階段を上った先にあったのは、城の上階にある小さな展望室だった。
大きな窓から、城下町が一望できる。
「わぁ……」
ルシアが思わず窓へ駆け寄る。
「こんな場所があったんですね」
「僕はたまに来るんだ」
「素敵です」
ルシアは窓の外を眺めながら、嬉しそうに笑った。
その表情を見て、カイルも満足そうに微笑む。
「気に入った?」
「はい。すごく」
そしてルシアが振り返る。
「連れてきてくれて、ありがとうございます」
「ううん」
カイルは窓の外を眺めながら答える。
「ルシアに見せてみたかったから」
その言葉に、ルシアは一瞬だけ黙った。
胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなる。
二人の間には、まだ名前のつかない距離がある。
けれど――
昨日より、ほんの少し近くなっていた。




