ほんの少し
翌朝。
ルシアはいつも通り仕事をこなしながら、何度も時計を気にしていた。
今日は中庭へ行く日。
そう思うだけで、少し落ち着かない。
仕事が一段落すると、ルシアは交換日記を持って中庭へ向かった。
扉を開ける。
昨日と同じ木の下に、カイルがいる。
「こんにちは、カイル様」
「こんにちは、ルシア」
カイルは本を閉じると、机代わりにしていた膝の上から交換日記を取り出した。
「これ」
「……ありがとうございます」
ルシアは受け取る。
「読んでもいいですか?」
「うん」
ルシアはその場で日記を開いた。
昨日の自分の文章の下に、カイルの文字が並んでいる。
一行目を読んだところで、ルシアの指が止まった。
カイルは急かさずに待っている。
ルシアは続きを読み進めた。
内容は特別なものではなかった。
今日見つけた本のこと。
中庭の花が少し咲き始めたこと。
そして最後に――
『明日もここで待っています』
ルシアはそこを何度も読み返した。
「……カイル様」
「うん?」
「これ……」
「嫌だった?」
「いえ……」
ルシアは首を横に振る。
「……嬉しいです」
小さな声だった。
カイルはそれ以上何も聞かなかった。
ただ、隣ではなく少し離れた場所にいるルシアへ、穏やかに笑いかける。
ルシアも、今度は少しだけ自然に笑った。
「……じゃあ、私も明日来ます」
「うん」
昨日よりほんの少しだけ、二人の距離が近くなった気がした。




